教育研究家 妹尾昌俊さん 突きつけられた離婚届、今も引き出しに 家庭を顧みなかった自分への戒め

(2020年4月19日付 東京新聞朝刊)

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(木戸佑撮影)

会社員時代、多忙すぎて夫婦仲が悪化 妻はうつ病に

 4年前、教育研究家として独立したきっかけの一つは、僕の仕事が忙しすぎたことで夫婦仲が悪化し、妻がうつ病を患ったことでした。

 会社員時代、夜10時ごろまでの残業は当たり前。当時は、官公庁や企業を相手に、家族と過ごす週末にも「月曜日までに修正案がほしい」などのメールが来るのはしょっちゅう。小3から高1まで4人の子どもがいますが、平日は子育てを妻にほぼ任せきりでした。

 「なんで私だけが全部やらなきゃいけないの」。妻がそんなことを言いながら、泣きだしたことがありました。僕はイライラして「なんですぐに泣くの」なんて言い返してしまった。子どもが見ている前で口論するなど、家庭内はどろどろの状態でした。

教員の過労死の実態を知り、転身を相談すると妻は…

 妻は「死にたい」とまで口走り、精神科に通い始めました。同じころ、僕は仕事で学校の先生と関わることが多くなりましたが、僕以上に多忙な人が多く、過労死や過労自殺がたくさん起きていることを知りました。

 思い切って妻に「会社を辞めて学校教育をよくする仕事を始めたい」と相談。30代半ばで子ども4人を抱え、収入がゼロになる可能性もありましたが、妻は「打ち込みたいことがあるなら、やったらいい」「うまくいかなければ転職すればいい」と背中を押してくれました。

 今の仕事は主に学校関係者向けの働き方改革やマネジメントの研修などです。校長や教育長向けに助言できる人はそう多くいないため、ありがたいことにたくさんお声がけいただいています。どんな職種でも、家族や自分の命を危険にさらす働き方は改めてほしいというのが僕の願い。僕自身、かつて妻を追い詰めてしまった苦い経験と反省があるからです。

収入不安定でも夫婦仲は安定 今だから言えること

 もちろん会社員時代と比べると収入は不安定になりましたが、僕が家で仕事をするようになって家族との時間が増え、妻との関係は安定しました。家事は子どもたちも手伝ってくれています。夕飯の支度は、僕と妻、中2の長女、小6の次女の4人で順番に回しています。娘たちには買い物から料理までを任せていて、1回500円をお小遣いとして渡しています。作ってくれる唐揚げやハンバーグがすごくおいしいんです。

 今だから言えますが、夫婦仲が悪かった時、妻に離婚届を突きつけられたこともありました。家庭を顧みず、妻に孤独な育児を強いていた自分への戒めとして、机の引き出しにしまってあります。妻と出会って20年近く。感謝しかありません。実はこの夏、もう一人赤ちゃんが生まれる予定です。家族みんなで誕生を心待ちにしています。

妹尾昌俊(せのお・まさとし)

 1979年、徳島県生まれ。京都大大学院法学研究科修了後、野村総合研究所を経て2016年に教育研究家として独立。教員向けの研修などを手がける。文部科学省委嘱の学校業務改善アドバイザー、岐阜市公教育検討会議の委員。新著「教師崩壊」(PHP新書)を5月中旬に発売予定。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年4月19日

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