参院選で問う 孤独な育児にどう寄り添う? 「給付もいいが、伴走してくれる人がほしい」 全家庭に「子育てケアマネ」の必要性は

加藤祥子 (2025年7月16日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
写真

妊娠8カ月以降に渡されるプレゼントを前に、保健師(右)と子育てについて話す山田さん夫妻=福島県伊達市のこども家庭センターで

 2024年に統計開始以来初めて出生数が70万人を割り込むなど歯止めが利かない少子化。参院選で各党は子育て世帯への経済的支援の充実を訴える。ただ、実際に産み育てる女性は家族や地域など頼る先も少なく、孤独の中で慣れない育児に不安を抱える。 

ワンオペ育児「誰ともしゃべらない日も」

 「日中はワンオペ。気付くとご飯を食べていなかったり、誰ともしゃべっていなかったこともあった」。名古屋市緑区の会社員の女性(33)は、第1子を出産した3年前を振り返る。交流サイト(SNS)を開けば、真偽不明のはやりの育児方法が流れる。行政の産後ケアや家事支援なども対象か分かりにくく、問い合わせもしなかった。

 今回の選挙戦では、自民が子どもへの4万円の給付金、立民は児童手当の増額を掲げるなど、多くの党が金銭的な支援を打ち出している。女性は11月の第2子の出産を控え、「給付などはうれしいが、伴走してくれる人がいれば、相談もできてしんどさも軽くなる」と話す。

 2人目については、近くの助産師、箕浦砂也子さん(40)に産後まで寄り添ってもらうことに。出血時に相談したり、食事の助言をもらったりと信頼関係を築く。総合病院での出産にも立ち会ってもらう。

同じ保健師が寄り添う伊達市版ネウボラ

 福島県伊達市は、すべての子育て家庭への予防的支援を重視し、原則妊娠期から同じ保健師が担当。乳幼児期に重きを置き、保健師を核に助産師、相談員とも密に連携する。妊娠期から就学前までの子育て家庭を支えるフィンランドの制度「ネウボラ」を参考に、17年度から始めた「伊達市版ネウボラ」だ。

 妊娠届の提出時に担当保健師が面談。保健師の携帯電話の番号を伝え、直接連絡が取れるようにする。孤立しやすい妊娠8カ月以降には、保健師らが離乳食用の食器などのプレゼントを抱え、自宅に訪問。産後は、出生届を確認するとすぐに保健師が電話をかけ祝福する。国の「乳児家庭全戸訪問事業」として訪問する前に、第1子の場合は、助産師が訪れ、授乳などの支援をする。

 同市の主婦、山田愛(めぐみ)さん(38)は、第4子(2)の産後、授乳などで何度も相談。歩き始めが遅いと感じた時には、保健師から相談会に案内された。ためらわないよう、相談会や産後の居場所への参加には保健師らが同行。ネウボラ推進課の村田桂係長は「1人にさせない」と力を込める。

 山田さんは現在、第5子を妊娠中。予期せぬ妊娠で、夫の明裕さん(37)に打ち明けられずにいたが、妊娠届提出の際に、保健師から「おめでとう」と抱き締められ、不安が拭えた。こういった支援で、今後もこの地域で子育てをしたいと感じる人の割合が全国平均より10ポイント以上高い。

 同市の年間出生数は約230人で、ネウボラの担当保健師は11人。支援を統括し調整する係を置き、担当保健師の負担を抑えている。ただ、保健師が保護者の不安にいかに気付くことができるのか、個々でばらつきがあるのが課題で、1カ月に1回、事例の検討会議をするなど保健師の質の向上を図っている。

グラフ

児童相談所での児童虐待相談対応件数

どこかでつまづく子育てに伴走者を

 ネウボラのような伴走型支援が全国で受けられるよう、「子どもと家族のための政策提言プロジェクト」などの関連団体は、介護保険のケアマネジャーの子育て版として「子育てケアマネ」の創設を提案する。

 この提案に、SNSでは「全員には不要」との否定的な声も。プロジェクト共同代表の榊原智子さん(63)は「子育ては必ずどこかでつまずく。その状況を見つけられるまで不適切な環境が続いてしまう」と全家庭で進める意義を説く。

 NPO法人児童虐待防止全国ネットワークの高祖常子副理事長は、児童虐待死の半数が0歳だと指摘。そのうち1~2割は、生まれてすぐの「0歳0日」で、遺棄などで命を落とす。「伴走者がいれば、養子縁組を勧めることもできる」

 国は25年度、妊娠期と産後の計3回の面談に、10万円の給付をセットにした「伴走型」の支援事業を制度化。同じ担当者による面談は一定の意義があるとするが、市町村の事情を考慮し、強制はしていない。

 プロジェクトが想定する子育てケアマネは、周産期のアセスメントやカウンセリングができる専門職。妊娠期に3回、個室で面談し、出産直後に1回訪問、さらに1歳までに8回の面談を考えている。

 全国の児童相談所での虐待相談の対応件数は右肩上がりだ。社会全体が負うコストは年1.6兆円との研究がある一方、榊原さん個人の試算では提案の実現に必要なケアマネは全国で約人、6000人件費が年間約360億円。「介護や医療は予防が大事とされる。母と子2人分の人生のリスクを負う子育てにも予防が必要」と強調する。

-1

なるほど!

-5

グッときた

46

もやもや...

31

もっと
知りたい

すくすくボイス

この記事の感想をお聞かせください

/1000文字まで

編集チームがチェックの上で公開します。内容によっては非公開としたり、一部を削除したり、明らかな誤字等を修正させていただくことがあります。
投稿内容は、東京すくすくや東京新聞など、中日新聞社の運営・発行する媒体で掲載させていただく場合があります。

あなたへのおすすめ

PageTopへ