ドイツの絵本作家トーベン・クールマンさん「ネズミの冒険」シリーズ刊行から10年 最新作は女性飛行士に着想を得て

インタビューを受けるトーベン・クールマンさん=東京都渋谷区のブロンズ新社で(須藤英治撮影)
「ネズミの冒険」シリーズ

「ネズミの冒険」シリーズ。今年で刊行から10年を迎える
世界で初めて単独で大西洋を無着陸で横断した「チャールズ・リンドバーグ」や、人類初の月面着陸を果たした「ニール・アームストロング」など、偉人たちの生涯から着想を得て、史実とファンタジーが織りなす物語。シリーズ累計発行部数は世界で250万部を超え、日本でも11万部を超える。トーベンさんのデビュー作となった「リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険」は大学の卒業制作として構想した作品。「まさか出版され、シリーズ化し、世界各国で出版されるとは、今でも信じられない気持ちでいる」
アメリア・エアハート

©Torben Kuhlmann
1897年、アメリカ・カンザス州生まれ。1932年、ノンストップで大西洋を横断した世界初の女性パイロット。女性活動家でもあり、女性パイロットの地位向上のためにも闘った。1937年、赤道上空世界一周飛行中、太平洋上で消息を絶つ。
再び空へ 今度は世界一周
5作目となる今作の主人公は、野菜畑の土の下で暮らす野ネズミの女性発明家。「ライオンを見てみたい」という思いから、外の世界に関心を抱き、世界一周を志す。世界で初めて大西洋横断飛行を成功させた女性パイロットで、女性の権利のために活動したアメリア・エアハートの生涯から話を膨らませた。トーベンさんは、「デビュー作から10年。再び空を飛ぶネズミを描こうと思った時に、今度は世界一周をするネズミの話を描こうと思った」と振り返る。

シリーズで初めて女性が主人公になったことについて、「野ネズミたちは皆、穴を掘って暮らしている。そんな社会に一匹の野ネズミがあらがい、束縛から抜け出し空を飛ぶことを考えるという物語が思い浮かび、女性飛行士として、さまざまな困難に立ち向かったアメリアへとつながった」と話す。絵本の中で、野ネズミは仲間たちにコツコツ作り上げた飛行機を壊され、「穴掘りネズミが空を飛んだりするもんか!」などと罵声を浴びる。「空を飛ぶ」という夢を諦めないで、突きすすむ野ネズミにアメリアの生涯を重ねた。

社会の呪縛から解き放たれ、最初の目的地へ向かう野ネズミ(ブロンズ新社提供)
「1920年代のアメリカは封建的な社会。女性飛行士たちには縛りがあった。彼女の自伝を読みすすめる中で、開かれた考え方を持っているところに魅了された」とトーベンさん。
ネズミが主役の理由とは?
シリーズを通して、主人公は小さなネズミ。一体なぜ、ネズミを主役にしたのだろうか? トーベンさんによると、ドイツ語でネズミは「Maus(マウス)」、コウモリは「Fledermaus(フレーダーマウス)」と言い、「空飛ぶネズミ」の意味となる言葉遊びがあるのだそうだ。

デビュー作「リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険」について語るトーベン・クールマンさん
「ネズミがコウモリと出会い、自分も空を飛びたいと願うというアイデアからデビュー作が生まれたので、主役はネズミしかなかった」とトーベンさん。また、ネズミを主役にするのには、良い点もあったそう。「ネズミの小さな手は、何か細かい作業をするのに適している。また、ネズミは人間の近くにいて、チーズなどの食べ物をこっそりいただく。だから、機械を作る際、歯車などの小さなパーツをくすねてもおかしくない。現実とこのシリーズの物語が結果的にうまく合致した」
トーベンさんにとっての冒険
絵本のページ数は100を超え、写実的で細かく描かれたイラストがたくさん添えられており、制作には1年を要したという。子どもの頃から絵を描くことが好きだったトーベンさん。「僕は物をつくったり、発明したりすることが好き。パイロットになるよりも、自分で飛行機を作りたいと思うような子どもだった。絵も設計図のように描いていて、必要な部品を集めて何か物をつくる。ネズミたちのようなことをやっていたんです」と笑顔を見せる。

飛行機を作る野ネズミの女性発明家(ブロンズ新社提供)
トーベンさんにとって、冒険とは「挑戦すること」。「日常から抜けだし、何かを成し遂げたいと思っている。だから、絵本制作も、毎回大きな挑戦。めげそうになることもあるけれど、最後まで諦めないで描き続けています」

最後の目的地へ向かう野ネズミ(ブロンズ新社提供)
最後に絵本を手にした子どもたちへのメッセージを聞いた。「主人公の野ネズミのように、大きな困難にぶつかったとしても、心配しなくていい。誰かがそばで、助けてくれる。だから、くじけそうになっても、情熱を持ち、進み続けてほしい」
トーベン・クールマン

1982年、ドイツ生まれ。イラストレーター、絵本作家。ハンブルク応用科学大学で、イラストレーションとコミュニケーションデザインを学ぶ。卒業制作として描き下ろした「リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険」で絵本作家デビュー。
筆者 長壁綾子

1988年、群馬県生まれ。2018年より毎週「えほん」のコーナーで新刊の絵本を紹介している。また、絵本、児童書について取材しており、作家のみなさんが作品に込めた思いを伝える。子どもの頃から、「ぐりとぐら」や「ねずみくんのチョッキ」などネズミが主人公の絵本が好き。

『トーベン・クールマン 絵本原画展』開催予定
シリーズ10周年を記念し、長野県原村の小さな絵本美術館八ケ岳館で原画展を開催する。原画181点と構想ノート3冊などを展示。開催日は9月13日~11月30日まで(休館日は火、水曜日、祝日は開館)、開館時間は午前10時~午後5時(ただし11月は午後4時半まで。入館は30分前まで)。入館料は一般1000円、中高生300円、小学生200円、幼児無料。
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