民間学童で「子どもにお金の知識を」 学習塾や習い事の業者参入で広がる教育プログラム

中沢佳子 (2025年10月2日付 東京新聞朝刊)
 小中学校や高校で学習指導要領に基づき、お金の流れなどを学ぶ「金融経済教育」が行われる中、放課後に小学生を受け入れる民間の学童保育でも「お金の勉強」を取り入れる動きがある。近年、各地で学童運営に学習塾や習い事の業者が参入。買い物の仕組みやお金のやりくりなど身近なテーマで、「子どもにお金の知識を」という保護者のニーズに応えている。
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お店での買い物を題材にしたクイズで、売買契約やお金のやりとりの意味を学ぶ子どもたち=東京都練馬区で

お金は有限、優先順位を考えるゲーム

 「宅配ピザを注文したら、お父さんがピザを買って帰宅。宅配ピザは届いておらず、支払いもまだ。この注文はキャンセルできる?」。東京都練馬区の商店街にある「明光学童クラブ石神井公園」で、ここに通う小1~4年生約20人が頭をひねっていた。「断れる!」「えー、無理じゃない?」。子どもたちが次々と答える。

 正解は「断れない」。「売買の契約は、買いたい人が申し出て、売る人が承諾した時点で成立します」と講師を務めた明治安田生命の社員が説明した。店舗やオンラインでの買い物など身近な話をクイズにし、売買契約やお金のやりとりの意味などを学んだ。

 街づくりがテーマのボードゲームも体験。仮想の街で住民の不満や困りごとを調べ、予算の範囲内で解決に必要な事業や施設を話し合う。お金には限りがあり、優先順位を考えなくてはならないことを学んだ。

 学童では週2回、自然保護や防災、障害者理解など独自の教育プログラムを実施。お金の勉強もその一環だ。教室長の栗谷川和(くりやがわかず)さんによると、「お金について学ぶ機会がないのでありがたい」と保護者からは好評で、子どもたちも「お金は有限で、使い方で結果が変わるんだね」「もっとお金の勉強をしたい」と前向きな反応という。「買い物中に返品のタイミングについて話をしたという親子もおり、家庭での学びにもいい影響をもたらしている」

 学童を運営する明光ネットワークジャパン(東京)が展開する別の英会話教室形式の学童でも、英語でお金について学ぶ時間を設ける。同社学童事業担当の大森綾子さんは「交通系ICカードでも物が買える今、現金の観念やお金のやりとりをどう教えるかが難しい。お金に対する意識を変えるいい機会にもなっている」と語る。

民間学童は塾や習い事のような学び場に

 民間学童がお金の勉強を始めた背景には、児童の預かりの場にとどまらず、塾や習い事のような学ぶ場の機能を兼ねるようになったことがある。都市部を中心に、民間学童の運営に、学習塾や教育サービス業者が携わるようになったことも大きい。明光以外にも、小学生を対象に、キャリアや金融経済を学ぶ教室を各地で展開する「F学」(福岡市)も、滋賀県守山市の「洛和キッズアフタースクールもりやま」などの民間学童とも提携し、お金の学びを提供している。

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保護者のニーズ「自立のために金銭感覚を」

 お金の勉強は保護者のニーズも高い。金融経済教育事業を手がける「みずほポシェット」(東京)が小中学生の保護者400人を対象にした調査では、「子どもの自立のために身に付けさせたい知識」の最多は「金銭感覚」の88.5%で、「外国語」を大きく上回る。自分で教える自信がない知識も「金銭感覚」が最も多い。お金に関する教育が「できていない」と答えた保護者は半数に上り、関心と不安が高まっている。

 金融経済教育に詳しい愛知産業大の奥田真之教授(金融論)は「保護者の多くはお金の話がタブー視されて育った世代で、投資経験も乏しい。子どもにどう教えるべきか分からず、学童など家庭外で学べる場があるなら好都合と考える人は多いだろう」とみる。

 小中高校でも金融経済教育を行っているが、奥田教授は「授業時間の制約や教員の専門性から、限界がある。授業で触れても、しっかり教えきれているかは別だ。学校では教科横断で教えるとともに、学校の外や家庭でも、考え、話し合う学びの機会が欠かせない」と話した。

民間の学童保育 

NPO法人や企業などが手がける学童保育。こども家庭庁の2024年の統計によると、学童全体の24.9%を占める。自治体が設置、運営する学童は24.1%、自治体が設けて運営を民間に委託する学童は51%。民間の学童は公立より、利用条件やサービスの幅が広い。料金は立地やサービス内容などで異なるが、公立の学童が高くても月1万円ほどに収まるのに比べ、民間の学童は数万円と比較的高いことが多い。

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