〈坂本美雨さんの子育て日記〉92・娘の成長を慈しみ 命を絶たれた子どもと家族のことを考える

(2025年10月15日付 東京新聞朝刊)
写真

2日かけ完成したフェルトの「パレスチナ解放」

 坂本美雨さんの子育て日記

 命は大切で尊いものだから

  娘は常に何か手先を動かしている。折り紙、ビーズ手芸、編み物、紙粘土、ヤスリかけ…今日も気づくとフェルトをアルファベット形に切り、チクチク縫い合わせていた。手元のメモ帳には“FURI PARESUTAIN”とある。ん?なんて書いてあるんだ?

 ふりぱれす…? ああ!

 フリーパレスタインか!

 ということで英語のつづりを教え、“FREE PALESTINE”という文字をフェルトで2日かけて作っていた。(FREE PALESTINE=パレスチナ解放)は彼女の日常の中にある。

 2023年10月のイスラエル軍によるガザ地区への軍事侵攻から2年。激しい爆撃や封鎖による意図的な飢餓により、死者は6万7000人を超え、さらに多くの遺体ががれきの下に取り残され記録もされていない。“私たちはただの数字じゃない”という表現がよく使われるが、数字にすらなれないんだ、とガザの友人は言う。

 命は大切で尊いものだから、殺しちゃいけないよ。全ての人に価値がある、つまりあなたもわたしも傷つけられるべきではないし、大切にされるべき命。そう教え込まれてきたし、人間とは生まれながらにそういった良心を持っているものだ(=ヒューマニティー)と当たり前に思ってきたし、社会もさまざまなひずみはあれど根本ではヒューマニティーを土台につくられている、と信じていた。しかし、40年以上私が信じてきたことはなんだったのだろうと足元が揺らぎ続けた2年だった。

 世界のどこかでは無差別に人を殺すことが許されていて、喜ぶ人すらいるということ。世界の多くの人々が反対しても、国連がどれだけ国際法違反を糾弾しても、止められていないということ。日本は私たちの年金積立金を使ってイスラエルとの武器取引を続け、パレスチナを国家承認せず、虐殺に加担し続けているということ。

輝かしい子どもたちのことを

 この2年間に、娘は小学2年生から4年生に。身長は約140センチにまで伸び、髪も肌も艶やかに、まぶしい10代に突入した。健やかな成長を慈しみながら、毎日写真が飛び込んでくる、突然命を絶たれた子どもとその家族のことを考える。同じ、輝かしい子どもたちのことを。

 一刻もはやく虐殺が終わってほしい。そしてわたしはパレスチナのことを話し続けたい。それは、自分たちの命に直結することだから。矛盾があったって、十分に行動できなくたって、なにもしないよりはいい。娘の命とガザのあの子の命は、等しく尊い。 

坂本美雨(さかもと・みう)

 ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。

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