RSウイルスワクチンが2026年4月から原則無料に 妊娠28~36週の定期接種 重症化しやすい赤ちゃんを母子免疫で守る

佐橋大 (2025年12月23日付 東京新聞朝刊)
 生後6カ月までの赤ちゃんが重症化しやすい呼吸器の感染症「RSウイルス感染症」。乳児期の入院原因の多くを占め、対症療法しか手だてがなかったが、妊婦に接種して赤ちゃんの感染を予防する「母子免疫ワクチン」が昨年、任意接種で登場した。来年4月には定期接種となり、原則無料で受けられる。
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RSウイルスワクチンのお知らせ(左)=愛知県春日井市のまのウィメンズクリニックで

関心は高いが、現状は3万円以上

 愛知県春日井市の産婦人科医院「まのウィメンズクリニック」は、医院のインスタグラムに、日本産婦人科医会が1月に作ったRSウイルスワクチンの啓発動画を載せているほか、院内にも紹介する掲示物がある。

 「接種の機会があることを知らなかったとならないように」と院長の真野由紀雄さん。妊婦健診で聞かれることも増え、「関心は高い」と感じる。ただ、接種費用が3万円以上かかることもあり、希望者は多くない。定期接種化されれば「費用の面で迷っている人の後押しになる」と考える。

 発熱やせきなどの症状が出て、飛沫(ひまつ)などで広がるRSウイルス感染症は、2歳までにほぼすべての子がかかる。初感染でも約7割は軽症で治る一方、肺炎などで入院が必要になるケースも。入院する2歳未満児は年間3万~5万人いるとされ、そのうち7%は人工呼吸器の装着が必要になったとの報告もある。特に生後6カ月までで重症化しやすい。

 日本大医学部小児科学系小児科学分野の主任教授、森岡一朗さんらが2022年、RSウイルス感染症を治療する医師300人に行った調査では、小児の「予防したい感染症」を3つ挙げてもらったところ、一番多かったのがRSウイルス感染症。保護者の負担について聞くと、子の症状からくる不安、孤独感、看病の肉体的な負担、就労への影響を多くの医師が挙げた。

図解 RSウイルスワクチンの仕組み

抗体が胎盤を通じて胎児へ移る 

 妊婦に接種するワクチン(製品名アブリスボ)は、RSウイルスが人に感染する過程で重要な役割を果たすタンパク質を主成分にした不活化ワクチン。接種すると妊婦の体内では、RSウイルスに対する抗体が作られる=イラスト。この抗体が胎盤を通じて胎児へ移る。

 出生後も半年程度はワクチンによって作られた母親由来の抗体が働き、赤ちゃんのウイルス感染を防ぐ。ワクチン自体の接種期間は妊娠24~36週だが、定期接種では、より高い効果が確認されている28~36週が対象になる。

 日本など18カ国の妊婦約7000人を対象にした臨床試験の結果を見ると、ワクチンを接種した妊婦の赤ちゃんは、偽薬を接種した人の赤ちゃんに比べ、生後180日までの重い下気道感染の発症が69%減る、とのデータが出ている。

 安全性では、ワクチンで4割、偽薬で1割が注射した部分の一時的な痛みを訴えた。疲労、頭痛の訴えはワクチン、偽薬ともに多く、双方の差は認められなかった。早産や低出生体重の場合でも差はなかった。

 ワクチンは60歳以上の予防接種にも使われている。2024年5月の発売から2025年6月までに60歳以上も含め、延べ約8万人が接種した。

 厚生労働省は2026年4月1日から、RSウイルスワクチンを、市町村長が接種を勧奨し、対象者に接種努力義務のある種類の定期接種に位置付ける準備をしている。実際に接種が始まる時期は、自治体の準備状況で異なる可能性がある。

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