「女の子なんだからきちんと」「男の子は泣かない」と言わないために 性別や年齢で分けない認定こども園の現場を訪ねた

工作する子どもたちを見守る保育士=東京都新宿区の新宿せいが子ども園で
3~5歳児は一緒に過ごす
東京・JR高田馬場駅から徒歩10分ほどの住宅街にある地下1階、地上4階建ての「新宿せいが子ども園」。0歳から5歳児クラスまで、170人以上が在籍する大型の施設です。子どもたちが過ごす3フロアは大きなワンルームになっていて、3~5歳児が過ごす2つの階は自由に動き回ることができます。
訪れたのは2月上旬の午前中。3~5歳児の階では、身体計測をしたり、絵本を読んだり、ひな祭りの工作をしたり、おもちゃで遊んだりしていました。子どもたちはその日の気分で、何をして遊ぶか、どちらの階で食事をするかを選びます。自ら選ばせることで、自主的な行動を促すためです。

工作する子どもたちを見守る保育士
保育士たちは、自由に動く子どもたちをそっと見守ったり、一緒にひな人形を作りながら「ここはこうしたらどう?」と声をかけたりしていました。この日、工作に取り組む子どもたちは男女別に分かれているように見えましたが「それはたまたま」だそう。確かに下の階でおもちゃで遊んでいた子どもたちは男女一緒に、でした。
同園は保育士40人のうち、園長と副園長を含めて男性が17人、4割超いる男性比率が高い職場です。この日も室内や庭での見守り、配膳などそれぞれの担当に、男女両方の保育士が就いていました。
見た目で判断しない
藤森平司園長は言います。
「力仕事があるときは『力に自信がある人、来て』と声を掛けます。結果として男性保育士ばかりになることもありますが、『見た目で判断しない』という園の方針があるからです」

保育現場の現状を話す藤森平司園長
男女の別なく仕事をする姿を見せることで、多様性を重視する園の考え方を子どもたちに示せるといいます。
一方で、女の子の保護者の中には男性保育士の行動を気にする人もいるかもしれません。藤森園長は「男性保育士は必要以上に気をつけなければいけません。逆差別だとは思いますが、仕方がない」と話します。
この日は看護師が子どもたちに、「水着で隠れる部分(プライベートゾーン)は大事だよ。恥ずかしいからではなく、大切だから隠すんだよ」と伝えていました。
施設には死角になる壁がほとんどなく、監視カメラも随所に設置されています。それでも保育士たちは、カメラの死角や周囲から見えない場所に子どもと行かないようにするなど、注意しているそうです。

工作する子どもたちを見守る保育士
年齢でも分けない
保育士はどんな意識で働いているのでしょうか。
0歳児を担当していた保育士歴16年の女性(36)は「来た当初から男女を区別しない空気があり、男女を意識しないことが当たり前になっています」と話します。
「男女に関係なく、おおらかな人もいれば几帳面な人もいます。この園に来て、性格の許容範囲が広がりました」と笑います。
男性保育士が多いことについても「家庭や社会により近い環境になるので、子どもにとってもよいことだと思います」と指摘します。女性だけ、男性だけという環境はむしろ不自然だと言います。

給食の準備をする保育士たち
会社員経験があり、最年長の5歳児クラスを担当する小林純平さん(41)はこう話します。
「私たちが大切にしているのは、男女で役割を固定しないことだけではありません。年齢で分けないことも重視しています」
結果として習熟度や発達の違いから同い年の子どもたちが集まることもありますが、大人は子ども同士の関係が活発になるよう見守ることを大切にしているといいます。
では、子ども同士の関係性を活発にするにはどうすればよいのでしょうか。
「例えばおもちゃでも、みんなでしか遊べないカードゲームなどを置くと、子どもたちは自然と関わり合うようになります」
見学中、先生が積極的に子どもを「指導」する場面にはほとんど出会いませんでした。子どもたちがわちゃわちゃと遊ぶ様子を少し離れた場所から見守ったり、一緒に制作したり。保育士はさりげなくそこにいる、という印象でした。
新宿せいが子ども園の見守りポイント
- 男女で役割を固定しない
- 年齢で活動や対応を分けない
- 子ども同士の関係性を活発にする

園庭で遊ぶ子どもたちを見守る保育士たち
こうあるべき、がない
子どもを通わせている保護者はどう感じているのでしょう。
1歳のころから紬(ゆう)さん(5)を通わせている海老原晴香さん(44)は同園を「近いから」という理由で選び、園の教育方針はそれほど気に留めていなかったそうです。
初めて見学したときは、誰が保育士で誰が見学者なのか分からなかったとのこと。保育士がエプロンなどを着けず、私服で子どもたちと過ごしているからです。
女性保育士も「スタッフの個性を尊重してくれて働きやすい。生活を一緒にしている感覚で保育できます」と話します。
海老原さんは園の特徴を「『こうあるべき』がないこと」と表現します。
「ジェンダーもそうですが、その子らしい成長や発達を見守ってくれています」
自身が通っていた幼稚園は一斉活動が多く、それが嫌だったといいます。
紬さんは「その日することも、その日いる友達との関係で決めている」と話し、「誰々ちゃんと、誰々ちゃんと、先生と遊んだ」と自然に話します。先生も友達の一人という存在のようです。
「余計なひと言」を削って声かけを
ジェンダー研究の専門家は、この取り組みをどう見るのでしょうか。
東京すくすくのジェンダーを学ぶコーナー「てらすまなぶ」を監修する、埼玉大ダイバーシティ推進センター特定プロジェクト研究員で日本学術振興会特別研究員PDの堀川修平さんに取材しました。

堀川修平さん
堀川修平さんの話
保育・教育という営みを通して「女ならこうあるべき/べからず」、「男ならこうあるべき/べからず」という思いが子どもたちに伝わることがあります。例えば、「“はしたないから” 女の子は足を閉じて椅子に座りなさい」、「 “女の子を守らないといけない”のだから、男の子はめそめそせずに強くあろう」という教えを受けた経験があることを、私が日常関わっている大学生からもよく聞きます。
おそらく、これらの言葉かけは、場合によって「良かれと思って」保育者、教育者から言われているのだと思います。しかしながら、このような「らしさ」が押し付けられることによって、その人がどのように生きていきたいかということが否定される場合があります。他者の人権を侵害しない限り、私たち全員は、私たち自身がどのように生きていきたいか決める権利を持っています。
もしも「良かれと思って」子どもたちに言葉かけをするならば、性別などの属性に紐づけた評価ではなく、その子本人を尊重する言葉かけ(「○○さんは“やっぱり女の子だから”気配り上手で素敵だね」ではなく「○○さんは、気配り上手で素敵だね」というように、余計な一言を削るなど)をしてみてはいかがでしょうか?
私たちが持つ男らしさや女らしさというジェンダー観は、生まれながら持つものではありません。育ちの中で身近な社会や文化の影響を受けながら、知らず知らずのうちに身に付けてしまうものであることがジェンダー研究の蓄積で分かっています。そのまま大人になると、当たり前の価値基準だと思い込んでしまうのです。ですから、幼いころから、性別を基準としたものではなく、個々人の特徴やニーズが大切にされる保育・教育はとても有意義でしょう。
取材を終えて
この園を取材したきっかけは、東京すくすくの企画「てらすまなぶ」に小林さんが男性保育士として登場してくれたことでした。男性保育士が多い保育園なら、男女を分けない声かけをしているはず。3月8日の国際女性デーやジェンダー関連の記事としてぴったりなのではないか、と。
<てらすまなぶ こどもと学ぶ職業図鑑> 新宿せいが子ども園の保育士 小林純平さんのインタビュー
行ってみたら、全体としてとても自由な雰囲気で、男女別、年少・年中・年長といった年次別での保育を考えていた自分自身の思い込みに気付かされました。保護者の話を聞きたい、とお願いして再訪した3月、打ち合わせスペースに通された後、藤森園長は資料を取りにその場を離れました。その後、海老原さんが一人で来て直接「東京新聞のかたですか?」と聞かれ驚いてしまいました。園の職員さんから紹介され、取材の間も付き添うだろうと思っていたから。
園のオープンな姿勢はメディアに対しても変わりませんでした。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい









