子どものあと〈5〉ポイント5倍デーだけ大泣きする理由が分かった日
今回、話を聞いたのは…
あさみさん
49歳、自営業、東京都葛飾区在住。子どもは、小学4年生の長女。
5歳児健診のアンケートで…
赤ちゃんのころから、よく泣きわめく子でした。
スーパーに買い物に行くと、ポイント5倍デーの日だけ大泣きするんですよ。私はもう何が起こったか分からない。回転ずしでもギャン泣きしていました。出かけるたびに、場所によって声を張り上げる娘に、私はヒステリックになって「我慢しなさい!」と叱っていました。我慢できるものと思っていたから。
外食に行っても、泣きすぎて店内にいられないし、本当に嫌だと思ってつらく当たっていました。「そんなのでぎゃーぎゃー泣くんじゃない」と怒っていたのですが、5歳児健診で泣く理由が分かりました。
健診は、アンケートだけです。ただ、私が書いた内容を見た区の担当の方から「検査をした方がいいから、お子さんと一緒に来てください」と呼ばれました。専門家の方が、娘の遊ぶ様子を観察しました。すると、「この子は特定の音で泣きませんか」と聞かれたのです。娘は「聴覚過敏」で、何でもない音が人より大きく聞こえるため、苦痛に感じている。どこでどんな音がするか分からないとすごく不安に感じるし、とても怖い思いをしていると言う。
その瞬間、これまでの全てがつながりました。あの時、だからあんなに泣いていたのか、と。ポイント5倍デーの歌の音階や、おすしが届く時に鳴る機械の音が苦手だったのです。例えば、黒板をひっかいた時のように、体が硬直してしまうような不快感だそうです。自閉スペクトラム症の子が抱えることも多いみたいですが、娘に自閉症や発達障害の傾向はありませんでした。
怒ってばかりの生活が一変
そこからいろんな対策をしました。イヤマフというヘッドフォンのような音を小さくする器具を着け、幼稚園でも着けさせてもらえるようお願いしました。「この子はこういう音が苦手です」と先生に説明しました。おかげで、落ち着いた生活ができるようになりました。
トイレのハンドドライヤーの音が苦手なので、怖くて外出先の初めてのトイレには入れなかったのですが、娘が先生から前もって「ドライヤーはないトイレだよ」と教えてもらえたことで、入れるようになりました。
幼稚園のお祭りもイヤマフを着けることで、みんなが「ワッショイ、ワッショイ」と大きな声を上げる輪の中に入るなど、いろんな挑戦ができるようになりました。
健診で指摘されるまで、全然気づいてあげられなくて。この子は言うことを聞かない、ただのわがままだと思っていたことが、そうじゃなかった。あんなこと言わなければよかったなとか、大丈夫だよと言ってあげるべきだった、という思いがいろいろ込み上げてきました。
娘に苦しいことが起こっているときに、一番味方でいなきゃいけない人が怒るというのは、本人にとってつらかったと思います。「悪いことしたね」と謝りました。ありがたいことに、娘はママっ子なので「そんなことないよ」みたいな反応だったと思います。
イヤマフがあれば大丈夫
小学校に上がると、「音嫌悪症(ミソフォニア)」とも指摘されました。特定の嫌な音がすると、強い怒りを感じ、攻撃的になることもある。専門家の先生によると、まだ論文が少なく、医療者の間でもあまり知られていない症状だそうです。
イヤマフを着けるのは、苦手な特定の音が出そうになる時だけです。娘の場合、掃除機や犬の鳴き声、雷、せきの音。こうした場面や、初めての場所にもお守りとして持って行きます。イヤマフを着けていない時に私がせきをしようものなら、長女は「ふざけんな、てめえこのやろう、いいかげんにしろ」と暴言を吐きます。その後、さめざめと泣きながら、「そんなこと言いたくないのに、言わずにはいられない」と落ち込むのです。
幸い、子どものせきには反応しないので、今のところ学校でトラブルになったことはないですが、これから大きくなるにつれ、心配です。
娘は、ピアノが大好きなんですよ。小学1年生から始めて、毎日ずっと弾いています。その時に嫌な音はないようです。どの音がだめなのか分からない、すごく不思議ですよね。
〈1〉よく泣く子だった長男 あの頃、チーズが私のお守りだった
〈2〉長いお風呂に寝かしつけ 5歳の娘にとことん付き合う僕の願いは
〈3〉取り戻せない日々を塗りかえてくれた、息子の食べ歩きノート
〈5〉ポイント5倍デーだけ大泣きする理由が分かった日(このページ)
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