東京都のスクールカウンセラーが「雇い止め」した都を集団提訴へ 校長から「続けてほしい」と言われたのに…

畑間香織 (2024年9月24日付 東京新聞朝刊)
 東京都の非正規公務員として働くスクールカウンセラー250人が2024年1月に「雇い止め」の通知を受けた問題で、元職と現職の都スクールカウンセラー10人が都に対し、任用の更新拒絶は不当だとして地位確認や損害賠償などを求めて10月9日に東京地裁に提訴することが、弁護団への取材でわかった。大量雇い止め問題は集団訴訟へと発展する。
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自身の「雇い止め」について話す、東京都のスクールカウンセラーだった女性

東京都スクールカウンセラー「雇い止め」問題

国が2020年度に創設した自治体で働く非正規公務員の新しい人事制度(会計年度任用職員制度)を巡る問題。任期は1年度ごとだが、勤務実績などを考慮して更新は可能とした。公募試験を受けずに更新できる回数は自治体が決める。東京都教育委員会は4回と定め、2019年度以前から勤務していた都スクールカウンセラーは、2024年度も働き続けるには公募試験合格が必須となった。都教委などによると、公募試験を受けた1096人のうち250人が雇い止めに遭った。

経験や専門性あるのに使い捨て

 訴状などによると、10人は5~26年間、東京都スクールカウンセラーとして任用を更新してきた。2023年度は都教育委員会が定める任用の更新上限に達したため、公募試験を受けた結果、「不合格」や補欠にあたる「補充任用」となり、2024年度からは任用しないと通知された。

 原告のうち9人は不合格で、1人は補充任用。補充任用の1人は、4月から採用され勤務を始めた。9人は受け取れたはずの給与を、補充任用の1人は3校から1校に担当校が減らされた分の給与などを求める。

◆東京都スクールカウンセラー大量「雇い止め」問題の経緯
2023年10月~12月 都教委が2024年度スクールカウンセラーの選考を実施
2024年1月中旬~下旬 選考結果が届く。労働組合「心理職ユニオン」に相談が相次ぐ
1月29日~2月7日 労組が都教委に採用状況の開示などを求めて団体交渉を申し入れ
2月26日 第1回団体交渉。5年以上働いた人で不合格や補欠者は250人と判明
3月5日 労組が都教委に採用基準の開示などを求める要請書を提出
3月中旬 労組側は組合員18人の雇い止め撤回を求める
3月25日 補欠の8人に採用通知。不合格の10人の雇い止めは撤回されず
10月9日 労組に加入する現職と元職の都スクールカウンセラー10人が都を提訴へ

 訴訟では、校長らから「続けてほしい」と言われるなど、原告が24年度も更新できると期待するのは合理的だと主張。更新拒絶は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとして、無効を訴える。弁護団事務局長の笹山尚人弁護士は「経験や専門性が求められる職種なのに、都は都合悪くなると使い捨てをする。都の教育行政を問う社会的な告発になる」と話した。

 東京都教育庁指導企画課の福田忠春主任指導主事は「現時点で提訴されていないのでコメントのしようがない」と取材に答えた。

原告たちの思い「声を上げないと、非正規公務員の雇い止めは止まらない」

 「雇い止め」に遭った東京都のスクールカウンセラーが、訴訟を起こす見通しとなった。原告からは裁判を通じて選考基準の開示を求め、非正規公務員制度の問題点を訴えたいとの声が上がる。

選考は勤務実績を考慮せず、面接のみ

 「雇い止めに遭ったスクールカウンセラーの後ろに、本当に困って助けてもらっていた子どもと保護者がいることを、都はどのように考えているんでしょうね」。原告の女性(62)は雇い止めで働き続けられないと保護者に告げた際、憤った言葉が返ってきたのを忘れられない。

 「突然支援を終わらされた保護者のつらい思いを風化させてはいけない」。その思いが、裁判への参加を後押しした大きな理由だ。

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東京都スクールカウンセラーだった女性=東京都内で

 都教育委員会との団体交渉では、勤務実績を考慮せずに面接のみの選考だったことが明らかになった。選考基準の開示を求めたが、都教委は「新規で採用を目指す人との雇用機会均等を維持するため、公平公正に実施した」と繰り返し、基準の中身を答えなかった。裁判では選考基準の情報開示も求めたい。

保育士や相談員も…不安定さに危機感

 女性のように不合格や、補欠に当たる「補充任用」の通知を今年1月に受け取った人は250人に上った。この250人は毎年契約を更新して最低5年以上働いていた。女性は「不合格になるような人間がなぜ5年間働いて良かったのか」と疑問を呈した。

 今年3月末まで都スクールカウンセラーとして約10年働いた原告の30代の女性も、不合格だった。「都教委が大胆な雇い止めを公然と行ったことを当たり前にしてはいけない」との思いから原告に加わることを決断した。「声を上げないと、会計年度任用職員(非正規地方公務員)の雇い止めは止まらないと思った」との危機感がある。

 会計年度任用職員制度は「任期は、採用の日から年度の末日までの期間の範囲内」と地方公務員法に記される。自治体ではこの制度のもと、保育士や婦人相談員、司書ら資格や専門性、経験が求められる業務を、不安定な雇用で担っている。雇い止めが法的に問題がなくても、働く人の自尊心を傷つけて生活を奪うことに倫理的な問題があると女性は感じる。

 「『そういう働き方を容認しているから切られても文句を言えない立場だ』と問題を個人の選択にすり替えるのはおかしい。制度設計の問題だと訴えたい」と話す。

新規募集者783人のうち合格は441人

 2024年度の都スクールカウンセラーの選考を巡っては、スクールカウンセラーや心理職でつくる労働組合「心理職ユニオン」(東京都豊島区)に「校長からの評価も高くて面接でも滞りなく受け答えをしたのに不合格だった」など選考方法に疑義を訴える相談が多く寄せられた。ユニオンは、試験の基準の開示や勤務実績を考慮せずに面接のみとした選考理由の説明などを求めて都教委と団体交渉をしていた。

 都教委などによると、任用更新のために公募試験を受けたのは1096人。新規応募者783人のうち合格者は441人、更新回数の制限に達しないため、公募を受けずに更新をしたのは420人だった。補欠者の採用などを含め、2024年度は公立の小中学校と高校全2067校に1736人、都立特別支援学校の20校に20人の計1756人の都スクールカウンセラーを配置している。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2024年9月24日

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  • 激しく同感 says:

    私は神奈川県のSCをしていますが、3年ごとに公募での試験を受けなければならず、この問題は東京都に限らず全ての公立学校SCに当てはまると思います。

    学校での勤務評価や実績は全く考慮されずに、数分間の面接で落とされます。使い捨て扱いをされるため、更新の時期は全てのSCが雇用の不安を抱えることになります。

    このような状況では相談業務に差し支えることは明白であるにも関わらず、年度任用の非正規雇用として扱い続けることはSCの業務を全く理解できていないと思わざるを得ません。

    都合の良い時だけ、心のケアなどとSCを使い、雇い止めをされることに憤りを感じます。

    激しく同感 女性 50代
  • 元教員 says:

    裁判になるのか。私は教員時代に生徒がカウンセラーにお世話になっている恩があるので、原告勝訴を祈る。

    都知事はこのような状態を放置していた訳だから、この際彼女の言い訳の一つも聞いておきたいところ(訴状が届いてからインタビューをお願いする)。

    ポイントは基準の開示かと思われるが、裁判の途中でも良いので衆人環視の中で明らかにして欲しい。

    雇用の流動化が全ての職種で許される訳では無いことを裁判所は行政の圧力に負けず判断して頂きたい。

    元教員

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