〈アディショナルタイム〉プロ野球のエースナンバー、なぜ「18」? 

谷野哲郎
 プロ野球の春季キャンプが始まった。今年は巨人の菅野智之投手や中日の松坂大輔投手が、背番号を「18」に変えて臨む。昔からプロ野球でエースナンバーといえば「18」が定番だが、なぜ、この番号なのだろうか?

 菅野は昨年までの「19」から「18」に変えてプレーする。巨人の「18」といえば、スタルヒンに始まり、近藤貞雄、藤田元司、堀内恒夫、桑田真澄、杉内俊哉ら、名だたる投手がつけてきたエースナンバーだ。気合が入るのも無理はないだろう。

 ではなぜ、プロ野球のエースは「18」をつけるのか? 1949年のプロ入りから今年で70年。元中日投手の杉下茂さん(93)に聞いた。

 「昔からいい投手というのは、14、18、19番、大体この番号をつけているね。これは賭け事からきているんだ。オイチョカブだよ。シッピンの一四、クッピンの一九。中でも一八のカブが一番人気があったんだ」

 オイチョカブとは花札などを使った遊びで、もらった札の合計で勝ち負けを競うもの。トランプのブラックジャックやバカラに近い。足した末尾の数が9、またはそれに近い数が勝ち、役と呼ばれる一四、一八、一九の組み合わせも強い。

 「投手は実に繊細なものでね」と杉下さん。「めった打ちに遭っても、誰も助けてくれない。マウンドで孤独を感じる人も多い。だから、縁起を担ぐ。自分は強い番号を背負ってるんだ、この番号をつけていれば大丈夫だと言い聞かせて投げていたんだよ」。1925(大正14年)生まれ。スタルヒンと投げ合った人の謎解きはとても新鮮だった。

 ちなみに、杉下さんの背番号は「20」。理由は「入団するとき、球団代表に『プロで一人前になるには何勝したらいいんですか?』と聞いたら、『20勝だ』という。ならば、20勝するために20を背負おうと思ったんだ」。背番号の効果もあったのか、杉下さんは6年連続20勝以上を含む215勝をプロで挙げた。

 もし、試合で緊張して、実力が発揮できない子どもがいたときには、どうか、この背番号の話を教えてあげてほしい。プロ野球の選手だって、弱気と戦いながら、気持ちを奮い立たせて投げていたことを。あの伝説の沢村栄治投手だって、背番号はシッピンの「14」。番号を意味づけし、力に変えていた。

 日本ハムでは、昨夏の甲子園を沸かせた期待のルーキー吉田輝星投手が「18」をつけて、プロに挑む。西武から大リーグ・マリナーズに移籍した菊池雄星投手もエースナンバーで勝負する。縁起担ぎにしろ、勝ち星の目標にしろ、人が思いを背負って投げるからこそ、野球は面白い。

 「アディショナルタイム」とは、サッカーの前後半で設けられる追加タイムのこと。スポーツ取材歴30年の筆者が「親子の会話のヒント」になるようなスポーツの話題、お薦めの書籍などをつづります。
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