<ホンネで学ぶ性のこと 瀧波ユカリが聞く性教育講座>いつから必要?何をどう話す?

【第1回】 何をどうやって子どもに説明すればいいのか悩んでしまう「性教育」。学校での性教育は十分とは言えず、親や友達と本音で語り合える場もあまりありません。SNSなどネット上には玉石混交の情報があふれ、子どもたちは大人が伝えるより先にいろんな情報を仕入れています。性について正しい知識を得て、自分ごととして考えてもらうには、どうすればいいのか。「東京すくすく」で「しあわせ最前線」を連載中の漫画家、瀧波ユカリさんと、晴海ウィメンズクリニック(東京都中央区)の三島みさ子医師が、性教育について「本音」で語り合いました。3回に分けて内容を紹介します。
【第1回】いつから必要?何をどう話す?
【第2回】遅れている日本…父親の出番です
【第3回】望まない妊娠は自業自得?「男消し構文」に潜むもの
小学校中学年から生理が始まって
三島 長く病院勤務でしたが、昨年春、東京都中央区にクリニックを開業しました。今感じているのは、10代女子の月経困難症がすごく多いということです。聞くと、皆さん9歳とか10歳ごろから生理が始まって、中学生ではしっかりくるようになっているパターンが多い。おなかが痛くて学校を休む子も結構います。
| 開始年齢 | 10~15歳ごろ |
|---|---|
| 周期 | 25~38日周期(平均28日) |
| 月経期間 | 3~7日間 |
| 経血量 | 20~140ml(ナプキンの交換目安:3~5回/日) |
月経困難症に有効なのが低用量ピルですが、お母さんたちは当たり前に使う世代ではなかったので、抵抗感のある方も少なくありません。そこでお子さんにも鎮痛剤や漢方の処方から始めて、徐々に使っていただくことが多いです。ピルですごく学校生活のQOL(生活の質)が上がり、「元気になりました」という子も多いので、中学校の先生にも知ってほしいです。
瀧波 うちの娘も今、中学生。多くの女子が小学校高学年から生理との付き合いが始まる一方で、小学校では積極的なケアは全くなく、月経困難症や低用量ピルなどについて学ぶ機会もありませんでした。
中学に入っても性教育が十分と感じません。性教育の多くは月経、卵子と精子、子宮など体の仕組みの範囲で終わっていることが多いですよね。30年以上前から変わっていないと感じます。

性教育をテーマに対談する瀧波ユカリさん(右)と三島みさ子医師
三島 そうですね。本当は、自分の性や体のことを自分で決めるSRHR(性と生殖に関する健康と権利)の視点が大事。性教育も、体や生殖の仕組みだけでなく、人間関係やジェンダーなど幅広いテーマを扱う「包括的性教育」が必要です。
2、3歳で男の子と女の子の体の違いを知ることから始まって、小学校高学年でなぜ生理があるのか、生理痛はどんなものか、中学、高校で相手とのコミュニケーションや性交渉、もうちょっと上の年齢になると性的同意の話なども含まれます。
海外では年齢ごとにらせん状に進めますが、日本ではできていない。今は、有名人が発信している動画などを見て情報を集める人が多いのではないでしょうか。
10代にアンケートをしてみたら…
瀧波 実は、子どもたちの意識が知りたくて、娘に依頼して中3~高1の男子2人、女子5人にアンケートをとってきてもらいました。娘がまず言ったのが「私たちの年代って基本的には性教育に興味はないよ。自分の暮らしと直結するものだと思っていないから」。そりゃそうだろうなと思いましたが、アンケートを見ると、みんなちゃんと答えてくれました。
「学校での性教育で不満や不安に思うことと理由があったら教えてください」という質問には、
「性教育の場であるにもかかわらず性的な事柄を指す言葉を言いたがらない講師が多いと感じた」
「授業自体がなかった」
「教員側が生徒のもつ性への抵抗感を軽減し、性教育に関心を持てるよう指導してほしい」
などの意見がありました。性教育の必要があると理解していますが、学校側の意欲や工夫が足りないと感じているようです。
「寝た子を起こすな」でいいのか
三島 私も外部講師として中2~高1対象の学校の講座に行くことがありますが、学校によって教える内容には幅があります。私立の学校はそれぞれの校長のお考えによります。
東京都教育委員会は、どのような行為で妊娠に至るかや避妊について触れないという「歯止め規定」をなくし、今は授業で「性交」という言葉を使ってはいけないということはないようですが、「性交渉の話まですると、びっくりして倒れる子が出るので、やめてください」という学校もあります。
ですので、中学生は月経や男女の体の変化、相手の体のことをやゆするようなことは言ってはいけないというマナーの話で終わることが多いですね。その後の保護者向けの講義で、実は中学校でも性交渉している子どもはこんなにいるし、性感染症の子もいますよ、と、力を込めて話していますが。

瀧波 倒れる子が出ないように、あらかじめ学校でも適切な性教育をしておいてほしいですね。「寝た子を起こすな」みたいな議論で教えない学校も多いのでしょうが、教えていなくても、性交渉をする子はするんです。何も知らないでしちゃっているので、女子にとってはその方がよっぽど危ない。だから、やはり教える必要があると思います。
アンケートでも、
「学校の性教育は1時間の講演のみ。前後にもまとめて受けたい」
「教える時間を多くすることから。性教育と口にするだけで気まずい雰囲気をつくっているのは学校教育だと思う」
という意見がありました。
さらに「もっと日々の生活に役立つことを教えてほしい」という意見も。たとえば「痴漢にあった場合どうすればいいか」「誰かと付き合った時に体に触るということをどう進めればいいのか、そもそも相手に聞いた方がいいか」などについて、ということです。
三島 性交渉の手前の男女交際については、海外だと、目を合わせるから始まって、最後は性交渉みたいな12段階ぐらいあるツールがありますね。どういう状態が健全な付き合いなのか分かりますよ。

イギリスの動物学者デズモンド・モリスが唱えた「ふれあいの12段階」(出典:セイシル)。「性のふれあい」には段階があると意識する必要がある
家庭での性教育は未就学児から
瀧波 アンケートで「家庭での性教育について思うこと」も聞きましたが、
「思春期や反抗期なのに親子でそういう話をするのはやっぱり気まずい」
「そもそも話し合う機会がない」
「日頃から性に関することを気軽に話し合える雰囲気を親側がつくってほしい」
などの声がありました。
わが家はそういう話が気恥ずかしくなる思春期よりずっと前の段階から当たり前に話していたので、今さら気恥ずかしさはなく、娘も「小さい頃から性教育についての本を読んで、それを学ぶこと自体が当たり前に感じられるようになったのはよかった」と言っています。

三島 最初から親子で性交渉を話題にするのはハードルが高いですが、年齢段階を踏まえた性教育の絵本をはじめ、思春期から更年期まで網羅されているような本などを活用することもできます。
未就学児から、お母さんがお風呂の中で、プライベートゾーンについて「ここは大事なところだから、男の子でも女の子でも親でも他の人に触らせてはだめなんだよ」と教えることはできますね。
◇
第2回は、性教育が必要な理由について語り合います。

ホンネで学ぶ性のこと 瀧波ユカリが聞く性教育講座
【第1回】いつから必要?何をどう話す?(このページ)
プロフィール
◇瀧波ユカリ 漫画家、エッセイスト。1980年、北海道生まれ。漫画の代表作に「わたしたちは無痛恋愛がしたい~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~」「モトカレマニア」「臨死!! 江古田ちゃん」など。母親の余命宣告からみとりまでを描いた「ありがとうって言えたなら」も話題に。東京すくすくの連載「しあわせ最前線」では、自身の子育て体験や家事分担など家族との日々で感じたことをイラストとエッセーでつづる。夫と中学生の娘と3人暮らし。
◇三島みさ子 晴海ウィメンズクリニック院長。筑波大医学専門学群卒業後、米国カリフォルニア大SanDiego校Cancer Center留学。東大病院、都立駒込病院、虎の門病院など勤務。前河北総合病院産婦人科部長。日本産科婦人科学会専門医・指導医。
関連リンク
・月経困難症とは(晴海ウィメンズクリニック 公式サイト)
・低用量ピルとは(晴海ウィメンズクリニック 公式サイト)
・子どもへの性教育 理解できそうな言葉で、繰り返し〈瀧波ユカリ しあわせ最前線〉8
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