子どもと一緒に学び続けよう 戦争のこと〈瀧波ユカリ しあわせ最前線〉17

瀧波ユカリ しあわせ最前線

子どもに戦争についてどう伝えたら

 戦後80年、2025年の夏が過ぎていく。各地で慰霊や平和祈念の催しが行われ、新聞やテレビでも例年以上に戦争関連の特集が組まれていた。一方で、参院選では排外的な主張や、核兵器の肯定とも取れる発言をする候補者が票を集めた。そんな世相だからか、最近「子どもに戦争のことをどう伝えたらいいか」とよく聞かれる。

 次世代に伝えなければと思うけれど、糸口が見つからないと悩む親が少なくないようだ。なので今回、中学生の娘に話を聞いてみた。「日本が戦争して負けたことって、いつから知ってた?」。私は少し期待していた。戦争と性教育については、よく口にしてきた自負がある。だからきっと「お母さんから聞いた」と言うだろう。

 しかし答えはこうだった。「小学3年生くらいには、日本がいつどこと戦争をしたかはわかっていたよ。絵本や教科書で読んでいたし、おじいちゃんやおばあちゃんから少し話を聞いたこともあるし」

 えっ、私不在⁉ 落胆の色を隠しながら、本について聞いてみた。「『ちいちゃんのかげおくり』はよく覚えてる。『二十四の瞳』は、みんなが戦争に慣れていく様子が怖かった」。小さい頃の娘は悲しい話を読むとひどく泣く子で、家にはあまり戦争の本は置いていなかった。学校など、外で読む機会があったのだろう。とてもありがたい。

イラスト:戦後80年子ども一緒にできること

黙とうは赤ちゃんでもできるから

 娘の話はさらに続く。「小学生の時は被害の物語を読むことが多くて、加害について知ったのは最近。『731部隊』『バターン死の行進』、それと泰緬(たいめん)鉄道のこと。知ろうとしないと加害の歴史にたどり着かないのって、どうなんだろうね」

 私の話が出てこないまま、会話のフェーズが日本の教育問題に発展した。私が教える段階がとっくに終わり、ちょっと教わる側になりかけている。参った。どうしよう。いいんだけど。しかたなく率直に聞いた。

 あの、お母さんが教えたことって何かありますか…?「黙とうかな。小さい頃から一緒にやっていたよね。黙とうは赤ちゃんでもできるから、子どもに戦争のことを伝える最初の一歩としていいよね。でもやっぱり大事なのは、親自身が常に関心を持って学び続けること。親が戦争についての本を読んでいたら、きっと子どもも読むようになるよ」

 教えようとするのではなく、親自身が学び続ける。次世代に伝える糸口は、意外にもシンプルで当たり前のことだった。泰緬鉄道のことは詳しく知らないので、調べてみようと思う。大人の皆さん、ぜひ一緒に学び続けましょう。

写真 瀧波ユカリさん

瀧波ユカリさん(木口慎子撮影)

瀧波ユカリ(たきなみ・ゆかり)

 漫画家、エッセイスト。1980年、北海道生まれ。漫画の代表作に「私たちは無痛恋愛がしたい~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~」「モトカレマニア」「臨死!! 江古田ちゃん」など。母親の余命宣告からみとりまでを描いた「ありがとうって言えたなら」も話題に。本連載「しあわせ最前線」では、自身の子育て体験や家事分担など家族との日々で感じたことをイラストとエッセーでつづります。夫と中学生の娘と3人暮らし。

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