見た目をけなされた痛み 仕組みを知って手放そう〈瀧波ユカリ しあわせ最前線〉18
「男らしい俺」という幻想
先月から、インスタグラムとTikTok(ティックトック)でショート動画の投稿を始めた。その名も「フェミニズムひとり語り」。女性が感じるモヤモヤや痛みの正体を解きほぐすことを目的とした語りはおおむね好評で、特に反響が大きいのは「『ブス!』と叫ぶ男の心理」と題したもの。こんな内容だ。
〝男が女に「ブス!」という言葉を投げつける行為には、ふたつのパターンがある。ひとつは「ブス!」イコール「黙れ」。女性蔑視に染まった男の子たちは、意思や意見のある女が大嫌い。だけど「黙れ」と言って反論されるのは怖いので、代わりに見た目をけなして黙らせる。もうひとつは「強い俺を見て!」。男らしさにこだわる彼らは、強くて攻撃的な自分を周りにアピールしたい。だからおとなしそうな女を狙ってブスだなんだとからかってみせ、女を「男らしさ」の証明に利用する。つまり彼らは女の顔なんて見ちゃいない。見ているのは「男らしい俺」という幻想だけ。幻想を見続けるために、一生懸命に女を黙らせたり男らしさを見せつけたりしている〟
こう表現できるまで、30年以上かかった。小学生の頃からだれよりも黙らない女の子だった私は、毎日のように男子たちから「ブス!」と言われていた。当然傷ついていたが、一方で顔などろくに見ていないこともわかっていた。彼らは、魔法の2文字で女を傷つけ強者になった興奮を全く隠さなかったからだ。

傷つけられた女の子たちへ
そうした児童に、大人が「人の見た目をけなしてはいけないよ」とマナー違反のように諭すことがあるが、ズレていると思う。「それは差別的な言葉で殴り、かりそめの強さに浸る身勝手で卑怯な暴力行為だ」と言うべきだろう。
娘が小学校の同級生男子から「ババア」と言われ泣かされた時は、こう話した。「その言葉なら確実に女の子を傷つけられるから、言ったんだね」。娘は落ち着きを取り戻した。ついでに「でもさ、同い年だからあなたがババアなら、その男の子はジジイだよ」と言ってふたりで大笑いしたが、心は怒りと悲しみでいっぱいだった。昔も今も、男性には女性の容姿や若さをジャッジする資格があると子どもに思わせるほど、社会は女性蔑視に満ちている。
動画の締めくくりはこうだ。〝その言葉で傷ついて、長い間痛みを抱える女のことなどお構いなし。でもこの仕組みがわかったら、私たちはもう大丈夫だよね。今こそ痛みを手放そう。それでよし〟。傷つけられた全ての女の子たちに、伝えたい。
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瀧波ユカリさん(木口慎子撮影)
瀧波ユカリ(たきなみ・ゆかり)
漫画家、エッセイスト。1980年、北海道生まれ。漫画の代表作に「私たちは無痛恋愛がしたい~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~」「モトカレマニア」「臨死!! 江古田ちゃん」など。母親の余命宣告からみとりまでを描いた「ありがとうって言えたなら」も話題に。本連載「しあわせ最前線」では、自身の子育て体験や家事分担など家族との日々で感じたことをイラストとエッセーでつづります。夫と中学生の娘と3人暮らし。
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ユカリ先生のインスタグラム見てます!!面白いし、ためになるし、サイコー
娘が(小学生、女子)はまってたのはまさにこのブス問題でした! 私も経験者です。傷つきました。でも、構造が分かったからもう大丈夫。ユカリ先生ありがとう。