読解力向上に役立つ「マイ辞書作り」 意味を知り、解釈を加え、世界が広がる
小学生女子の「恋バナ」に花咲かせて
この日、塾にいた小学5、6年の女の子4人。授業の中盤、歓声が響いた。いろいろな出版社が出している辞書を引きながら、「恋」の意味を調べていた時のことだ。
「辞書には『相手を好きだと思う、特別な気持ち』って書いてあるよ。えー、こんな気持ちになったことがあるの?」
「チャレンジ小学国語辞典」(ベネッセ)を見ていた女の子が声を上げた。話し掛けられた別の女の子は「あるよ」と即答。「でも」とその子が見せたのは「新明解国語辞典」(三省堂)の「恋」の説明だ。「『心が高揚する一方、破局を恐れての不安と焦躁に駆られる心的状態』と書いてる。でも、これは私の気持ちとは違うよ」
しばらく「恋バナ」に花が咲いたが、先生の高田浩史さん(46)が割って入った。「同じ言葉でも、辞書によって説明が違うって気付いたかな?」。高田さんは続ける。「言葉の意味は『一つだけ』と思いがち。でも、辞書は人間が作るものである以上、作る人の経験や考え方で言葉の説明も変わってくるんだ」
凡人は「特徴のない人」だけではない
「恋」のほかにも、さまざまな言葉を、いろいろな辞書で、時間をかけて調べてきた子どもたち。引いた言葉が載ったページに付箋を貼るので、辞書は花束のように広がっている。高田さんの説明をすぐに理解できるほど、彼らの辞典リテラシー(読解力)は高まっているようだ。
塾に通う子どもは、自分で言葉を20余り選び、自分だけの「マイ国語辞典」を編むのが決まりだ。それには、最初に各社の辞典を読み込み、標準的な意味を押さえることが大事。その上で「自分ならこう編む」と考えを掘り下げるのだ。
昨年、辞書作りに取り組んだ子どもたちが残したマイ国語辞典。例えば、「凡人」の項目を見ると-。一般的な辞書では「これといった特徴のない人」などと説明するが、この編者は、こうした決めつけるような表現に違和感があったようだ。意味を「普通の人」とした上で、例文には「凡人でも必ず良いところはある」と記した。編者の優しいまなざしが垣間見えるだけでなく、自分なりに「凡人」という言葉をそしゃくしたことが分かる。
「今は算数が国語のように思える」
近年、教育現場では子どもの読解力のなさが問題になっている。2017年、国立情報学研究所の研究チームが明らかにした調査結果によると、主語や述語の関係といった「係り受け」などが分からない中高生が多くいるとみられる。国語力の向上は他の教科を学ぶ上でも重要だ。小学5年の疋田優芽(ひきたゆめ)さん(10)は苦手な算数が好きになったそう。算数で使う数字や記号も、答えを導く意味のある「言葉」として読めるようになったからだ。「今は算数が国語のように思える」
辞書作りのプロ、三省堂辞書出版部の山本康一部長は「世界は全て言葉でできている」と説明。「当たり前に使っている言葉も、多面的な意味があることが分かれば、言葉の深みが味わえる」と言う。
大人になって社会生活を送る上でも、言葉の力は必要だ。「いろいろな表現や言葉を身に付ければ、気持ちをより適切に、洗練された形で表現できる」と高田さん。「コミュニケーションも円滑になって楽しい」と、たくさん辞書を引くことを呼び掛けている。
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