元裁判官の弁護士 多田元さん 不登校の子どもの「本音」に衝撃 長男に心から謝りました

長田真由美 (2020年6月21日付 東京新聞朝刊)

家族のこと話そう

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子育ての思い出を話す弁護士の多田元さん

小6で不登校 原因はいじめ、気付かず…

 40代のころ、当時小学6年の長男がある朝突然、布団から起きてこられなくなりました。原因は、学校でのいじめでした。

 同じクラスに、クラスメートと支配的な関係をつくる子がいた。嫌がる息子を仲間と取り囲み、帰宅途中に駄菓子屋であれこれ買わせたり、靴や服の悪口を言ったり。陰湿ないじめがあったようです。私は気が付きませんでした。

 当時、裁判官として山形県の裁判所に勤めていて、担当した少年事件の中には不登校の子どももいた。審判で「学校は無理して行くところじゃない」と話してました。

 でも、自分の子どもが実際に不登校になると、そう言えなかった。ちょうど春から金沢への転勤が決まり、中学校から環境が変わることになった。そうすれば息子の気持ちも変わると思ってました。

育て方が原因? 自分を責める地獄の日々

 中学1年の1学期はものすごく頑張って学校に行ったと思う。夏休みを終え、2学期からは「学校での集団生活に疲れる」と、さみだれ登校になった。2年生からはほぼ行けない状態になりました。

 それからは親にとって、地獄にいるような思いに。先のことが心配で焦りました。一番やっかいだったのが、自分たちが甘やかして精神的に弱く育てたのではないのかと思ってしまうこと。妻は自分の子育てを責めるし、この時期が一番つらかった。私は仕事でのストレスもひどくなって、過労で入院しました。

 その時、赤ん坊だった息子を抱っこする夢を見た。息子を恨んで死んでいくことがあってはいけない。この子が生きてくれていたら、それでいい。そう思いました。

がーんときた。子どもの本音はこれだ

 退院してから、本当にやりたいことをやろうと、思い切って裁判官をやめ、弁護士として子どもの問題に関わることにした。ちょうどその頃、ある集会に参加し、不登校の子どもたちが壇上で「自分は自分らしくありたいけれど、学校ではそれができなかった」と話すのを聞きました。

 がーんときた。子どもたちの本音はこれだ。うちの子も精神的に弱いわけじゃない。むしろ自分らしくあろうとして過ごしていたんだ、と。息子に目を開かされた思いで「今まで分かってなくてごめん」と心から謝りました。息子はフリースクールなどを経て、成人後は事務所のスタッフとして働いてくれています。

 新型コロナによる休校後、学校が再開し、子どもにも先生にも、これまでなかった緊張が生まれている。不安で、学校へ行きづらいという子どもの声も聞こえます。学校は無理して行くところではありません。「休んでゆっくりしたらいいよ」と、周りの大人が声を掛けてあげたいです。

多田元(ただ・はじめ)

 1944年、兵庫県尼崎市生まれ。1969年に裁判官に任官。秋田地裁や名古屋家裁などを経て1988年に退官し、翌年弁護士に。愛知県豊川市で起きた17歳少年による殺人事件(2000年)や名古屋大の元女子学生による殺人事件(2014年)の弁護団の一人で、主に少年事件を担う。全国不登校新聞社代表理事、子どものシェルターなどを運営するNPO法人「子どもセンター パオ」理事長。

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  • ひろ says:

    今不登校気味になっている真っ最中の親です。我が子の場合は原因という原因が無いと本人も悩んでいます。ただ行けない…でも行かなきゃ行けないような気がしている。

    無理に登校をさせる事はしていないのですがこれで良いのか?いつまで続くのか?この子はその後の人生でこれで後悔しないだろうか?とばかり考えてしまいます。

    無理に行かなくても良い。そうは言っても親の焦る心を見せてはいけない。本人もいつまで続くか解らないのだから家くらいはホッとする場所でありたい。

    でも…これは甘やかしなのではないか?と堂々巡りの毎日です。

    でもその後こうなったという先を読ませて頂き少し安心しました。命あってこその我が子です。もう少し見守って行こうと思います。

    ひろ 女性 40代
  • 匿名 says:

    学校でも、会社でも、集団を支配したい人が集団を作りやすいので、美輪明宏さんが言うように、いじめは犯罪と定義し、朝の朝礼で校長、教頭先生が交代でいじめは、犯罪です!と月曜日の朝に毎週生徒全員で唱和すること、相談できない時は、相談出来る部署、係り、一覧表をランドセルの裏側にはり、自宅の部屋と台所に貼っていつでも子供も親も相談出来る部署を知っておく義務があります。いじめの対応は、校長が最終責任者として義務付ける事が重要で、給料が高い評価として再認識してもらい、スクールカウンセラー、相談員との連絡、学校に無理して来なくて良いこと、いじめの中心人物との対話を本人と、同時にその親にもゆっくり話し合う機会を、その親の休みに日を設けて、超勤の形で対話をして良いと思いますね。いじめの発生をふせぎ、その目を根絶するという強い決意で対応して良いと思います。各教育委員会、県の教育科も全面に協力して、土日でもいじめの対応には、超勤をしても防がなければなりません。現実に多くの小学生、中学生、高校生がいじめの原因で二度とない人生を亡くしてしまうことは本当に無念です。日本の年間の予算の中でも教育費は大きく、いじめの対応費用を出して良いと思います。自衛隊の戦闘機ひとつの購入で約100億円かかりますが、いっきの購入をいじめの予算に入れて欲しいものです

      
  • 匿名 says:

    学校でいじめがある。介護施設で虐待がある。権力を持つ人が、固定する事で起きるのでは。アメリカの病院では、看護師が6時間交代。学校は、中学から生徒が移動する。しかも、生徒によって、クラスが違う。固定する事でグループができる。そして、仲間うちでの結束があったり。気に入らないと排除するようになる。制度の見直しを考えるべきだ。悲しいかな、人間のありのままだとおもう。

      
  • 匿名 says:

    この記事を拝読し、子供の立場が理解できなかった事を思い出します。大人になって学校でのいじめで苦しんでたのを分かってあげられなかった事が今でも後悔しています。学校だけが全てではなく、自分らしい生き方を見つける手助けが出来る親でありたかったと後悔しています。

      

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