初めから完璧を求めず、できるところから オンライン教育に詳しい鈴木崇弘さんからすべての学校へアドバイス

 新型コロナの感染拡大による休校をきっかけに、すべての科目でオンライン授業を実施している川崎市のカリタス小学校を取材し、スムーズな運営のヒントを探りました(先進校でなくてもできたオンライン授業 川崎・私立カリタス小学校の挑戦)。同行していただいたのは、オンライン教育に詳しい城西国際大学大学院研究科長で特任教授の鈴木崇弘さん。同校の取り組みについて感じたことを聞きました。
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城西国際大大学院・鈴木崇弘特任教授

熱心に聞き、積極的に発言する子どもたち

―見学していかがでしたか。

 理科と音楽、家庭科のオンライン授業を見学させてもらいましたが、科目の内容に応じた個別の対応がなされていて、スクリーン越しに見た子どもたちが、イキイキと熱心に授業に聞き入ったり、楽しそうに積極的に発言したりしていたのが印象的でした。子どもたちと先生たちが、言葉と表情でキャッチボールしながら、違和感なくスムーズにオンラインを活用していましたね。子どもたち一人一人の表情や姿勢が教室にいるとき以上に手に取るように見えるので先生方も気が抜けませんが、子どもたちへの個別の対応もより丁寧にできることを実感しました。

―他の学校が参考にできることはありましたか?

 紆余(うよ)曲折しながらも、ICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)担当の佐川勝史先生を中心としたすべての先生方の尽力で、オンラインで授業が有効に行われていることがわかりました。タブレット用授業支援アプリ「ロイロノート」は以前から導入はしていたそうですが、コロナ禍まではあまり活用されていなかったそうです。それでも、短期間でオンライン授業の実践にこぎ着けたのは、シニアの先生方も含めて、校内研究会で外部の方に見られたり、クラス単位でテーマを設定し、1年間継続して学びを展開する「総合教育活動を」30年間続け、新しいことを学ぶことに抵抗のない雰囲気が醸成されていたからではないでしょうか。子どもたちも、日ごろから、自分自身で課題を設定して考える学びを経験しています。子どもも教員も日ごろから、新しいことを学んだり、発表する機会や時間などをつくっておくことが大切なのではないでしょうか。

 今後もさまざまな状況や新しい事態が起きるはずです。どんな状況であれ、日ごろから、学んだり、学んだことを生かす経験を積んでおくことこそ、最大のリスクヘッジであり、最善の対応だといえます。今回のコロナ禍を、各学校が学内にそのような雰囲気や土壌を生み出していく好機にしていくべきだと強く思います。

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カリタス小のICTを担当する佐川勝史教諭

不慣れな先生をサポートする体制が必要

―学校が再開されたら、オンライン教育は必要なくなりますか?

 オンライン授業は、今回のコロナ禍で注目を集めましたが、本来はそうした事態とは別に、新しい教育の可能性を生み出すものとして生かしていくべきものです。カリタス小学校の場合をみてもわかるように、対面教育の良さもありますが、子どもたちの個別の状況を把握できるなどオンライン授業だからこそできる利点、長所もあります。上手に取り入れれば、教員の負担を抑えたり、より多様な授業展開を可能にします。要は、対面とオンラインの授業を適切に組み合わせて、子ども一人一人ができるだけ有効に学べる教育の機会や仕組みを創っていくことが重要なのだと思います。コロナの感染もまだ先が見通せない中、学習の時間や機会が制約されたり、減ってしまったりすることをできるだけ抑えるためにも、どの学校でもいま一度オンライン授業のより広範な活用を考えるべきではないでしょうか。

 大切なのは、初めから完璧を目指すのではなく、「まずできることころから、はじめて」、走りながら、改善・改良していくことです。そして、機材やネット環境の整備、オンライン授業の支援体制が必要です。オンライン授業は本来どこからでもできますが、カリタスの場合、先生たちは学校に来て授業をしていました。家庭科を教えられていた関谷ゆり先生に「なぜ、学校に来て教えられているのですか」と尋ねたところ、「学校で授業をすれば、佐川先生のようなオンラインやネットに詳しい方がいるので、安心です」とのことでした。不慣れな先生の不安を解消するようなサポート体制や人員があれば、より積極的に進めていけるでしょう。政府にもこれまでの延長で考えるのではなく、新しい発想に立って、学校現場を支援することを期待したいです。

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