オーストラリアの学校教育は「多様性と統一性」 日本の元中学校教諭が20年の研究成果を出版『コアラの国の教育レシピ』

石原真樹 (2022年4月7日付 東京新聞朝刊)
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「旅行も含め年に1~3回オーストラリアを訪れて研究した」と話す本柳さん=茅ケ崎市で

 多様性を尊重する。でもルールは意外と厳しい―。20年間研究してきたオーストラリアの学校教育を紹介しようと、神奈川県茅ケ崎市の元中学校英語教諭が書籍「コアラの国の教育レシピ」を出版した。日本とは異なる授業風景や、教員の働き方を伝えることで「日本の先生たちが、子どもや自分自身を客観的に見られるヒントになれば」と願う。

ホームステイ受け入れを契機に大学院へ

 著者の本柳とみ子さん(68)がオーストラリアに関わるきっかけは1996年、メルボルンの女子大学生をホームステイで受け入れたこと。2001年、26年間の教員生活に区切りを付け、早稲田大大学院で教育学を専攻し、オーストラリアの教育事情の研究を始めた。

 さかのぼると、教員時代の1990年代後半から、茅ケ崎市内に韓国やカンボジアなど外国籍の生徒が増え、対応に四苦八苦した経験があった。「英語科だから」と担任を任され、日本語が分からない生徒とコミュニケーションを取ろうと韓国語を習ったことも。「移民国家のオーストラリアは異文化への接し方が自然。多文化を受け入れてきた国の教育を知ることは、日本でも役立つと考えた」という。

教室には複数の教員 多文化共生の配慮 

 20年にわたり、現地の小中学校や高校の見学を重ねた。著書では、教室に複数の教員がいて授業中に個々の生徒の学習を手助けする様子や、授業が終われば教員は帰宅し、日本のように放課後も部活の指導や会議、事務作業に追われることのない働き方を紹介。英語を母語としない生徒に英語を教える専門教師が学校に配置されていたり、教科書に登場する人物の肌の色がまちまちだったり、多文化共生を感じさせるエピソードも随所に盛り込んだ。

 一方、各学校の教育方針「スクールポリシー」で、服装からいじめ対応まで多岐にわたるルールが定められ、「半ズボンはひざまで」などと細かく規定されていることも紹介。ルールを作る段階で保護者や生徒らの意見が取り入れられており、「守るのが当たり前」とされていたという。

 本柳さんは「違いを違いとして受け入れ、みんなバラバラ。だけど守るべきルールがある。多様性と統一性を感じた」。ただ、オーストラリアの教育現場も経済格差やいじめ問題などの課題を抱えており、「オーストラリアのやり方がすべて正しいわけではない。それぞれの良さを知って、現場で生かしてほしい」と話す。幻冬舎刊、1430円。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年4月7日

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