図鑑が子どもの知的好奇心を伸ばす! 蔵書2000冊の図鑑博士・斎木健一さんインタビュー 選び方は? 自分から読むようになるには?〈PR〉

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博物館の書庫でたくさんの図鑑に囲まれる斎木健一さん=千葉県勝浦市の千葉県立中央博物館分館 海の博物館で(写真はいずれも佐藤哲紀撮影)

子どもの知的好奇心を伸ばすためにおすすめなのが、「なぜ?」が「へえ~!」に変わる「図鑑」です。日本は種類もテーマも趣向を凝らしたものが次々に登場している図鑑大国。その魅力とは。子どもが自分で読むようになるきっかけづくりとは。約2000冊を所有し、テレビ番組に出演するなど図鑑博士として知られる千葉県立中央博物館分館 海の博物館 分館長の斎木健一さん(60)に、子どものころ昆虫図鑑と恐竜図鑑に夢中だった記者(45)が話を聞きました。

小学生になったら毎月「好きな1冊」

―斎木さんは小学生のころ、夏休みは毎朝、住んでいた団地の階段をまわって昆虫採集をしていたそうですね。

当時は川崎市に住んでいたんですが、隣にお寺の林があるのでたくさん虫が飛んできたんです。大好きだったクワガタムシに出会えるとすごくうれしくて。父が木枠と網戸の網で手作りした虫かごに入れていました。

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―でも、もともとは虫が苦手だったとか…。

はい、自分の記憶にはないんですが2、3歳のころまでは。母が「よくアリを見ては高いところに逃げて震えていた」って(笑)。これではいけないと思った母がいろんな虫を僕に触らせて、慣れていったようです。母は主婦でしたが結婚前は幼稚園の先生で、虫を捕るのも得意。僕が小学生の時に「ヘビを飼いたい」と言ったら、虫捕り網でシマヘビを捕まえてくれたんですよ。

―お母さんがヘビを…!? すごいですね。では図鑑との出会いは?

小学校に入ったとき、母が「小学生になったから毎月1冊ずつ本を買ってあげる」と言ってくれて、自分で小学館の昆虫図鑑を選びました。次は同じシリーズの魚の図鑑。ファーブル昆虫記も買いましたね。

―今も覚えていると思うんですが、その昆虫図鑑で印象的だったのはどんなページですか?

当時と同じ版の図鑑がここにあるのでお見せしましょう。一番好きだったのは何といってもこのページ!

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子どものころ読んでいた、小学館の昆虫図鑑の思い出のページを開く斎木さん

見開きで、たくさんの虫が描かれた田舎の風景です。中でもお気に入りはここ。クワガタが樹液をめぐってカブトムシと向かい合っている場面です。当時は川崎で、まあ都会に住んでいたので「田舎に行くとこうなんだ!」とあこがれていました。

図鑑は「調べる習慣」が身につきます

―図鑑の魅力ってどんなところだと思いますか?

大人にもわかるように説明するなら、旅行ガイドみたいなものですよね。例えばお寺があったとき、ただのぼろっちいお寺に見えるかもしれない。でも旅行ガイドで「これは戦国武将が〇〇をしたところで…」と知っておくと物語を感じるし、いろんなことがわかる。見え方が違ってくる。事前に見て「行きたいな」と思うのも、図鑑で「この虫を捕まえたい」と思うのに似ているでしょう。そういうふうに「もの」と「知識」が結びつくんですよね。説明だけだと結びつきは薄いけれど、写真や図があるからリアルに結びつく。


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―ちなみに図鑑の定義ってあるんですか?

はっきりした定義はないですが、「あるものの種類や仲間が載っていて、その写真や絵、名前と説明がある」。これが図鑑かな。説明だけでも絵だけでもダメ。

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―図鑑を子育てや教育という面で見たとき、子どもにとっていいのはどんなところでしょうか?

ものごとを調べる習慣が身につきますよね。「何なんだろう」で終わらずに「じゃあ調べてみよう」と。調べて何かわかると「へえ~」と喜べる。そこがとてもいい。もちろん字を読む、本を読むようになるというのもあるけど、「自分で調べたくて調べる」ようになるのがとても大きいと思います。

―調べるといえば、斎木さんがメインで執筆した本「図鑑大好き!」(千葉県立中央博物館監修、彩流社)で「興味をもったものの名前を知りたくなるのは、人の性」と書かれてましたね。それってなぜなんでしょうか。

一つ言えるのは、名前がわかっただけで何となく親しみが湧きますよね。怖くなくなるし。

―得体の知れない虫が、図鑑なら名前も生態もわかります。

そうそう。次に会ったときは「お、またここにいるんだね」って思える。

まず親が楽しむ姿を おすすめは…

―では、子どもに図鑑を見てもらうには、親はどうすればいいですか。

一番いいのは、まず親が図鑑を見て、親が楽しむ姿を子どもに見せることです。親が好きな分野でいい。そこでおすすめなのは、食べものの図鑑です。食べものは塩とかを除けば、ほとんど生きものですから、生きものとしてのさまざまな背景がある。例えば「食材図典」(小学館)のトマトのところを読んでみてください。

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「食材図典」の面白さを解説する斎木さん

―「アンデス高地に成立した野生種がメキシコに伝播(でんぱ)し、ここで栽培化が始まった。…16世紀にはヨーロッパへ導入されたが、長く観賞用にとどまり、食用としての栽培は18世紀に始まる。19世紀以降はイタリアでは加工用や…」って、え? 19世紀?

ね。逆に言うと、じゃあそれまでイタリア料理って何だったの? って。トマトはなかったんです。

―へえ~! これはびっくりですね!

こういうのを一緒に読んで親がびっくりしたら、子どもは「あ、面白いんだ。親がこんなに驚いてるし、実際『へえ~』だなぁ」って思うでしょう。家の食事で出てきたものを、食べる前でも後でも調べて、いろんな話ができます。

―なるほど。身近なものに発見がある、というのはいいですね。

そういうところから調べる習慣がつく。とにかく調べるということは面白いんだ、と。やっぱり親が楽しまないとね。一緒に楽しむというより、まず先に親が楽しむ。

親の意向より、子どもの「好き」を

―どんな図鑑を選ぶのがいいですか?

食べものについて一緒に調べるみたいなことをやりながら、子どもをよく見ることです。電車、車、生きもの…子どもが何が好きなのか、ずっと接していればわかりますよね。好きじゃないものを与えては絶対にダメで、とにかくまずは好きなものからスタートするのが大事なんですよ。子どもをよく見ないで「これは教育的な図鑑だから」っていうのはダメです。

―う~ん、でも親はそうしちゃいがちですね。

親が自然科学を教えようと思っていて、子どもに「自動車の図鑑がいい」と言われたら。「でもこっちのほうが…」と言わずに自動車の図鑑を渡せばいい。その子にとって面白いことがいろいろあって、それを調べて「あそこを走っているのは〇〇っていう〇年の車なんだよ」と教えてくれるじゃないですか。親は「へえ~! 初めて知ったよ」って驚けばいいんです。そこから興味がどこに広がってもいいし、車に突き進んだっていいじゃないですか。

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―調べることの楽しさを体感してもらうんですね。

体感して、そのまま機械が好きになって、その道に進んだって全然かまわない。図鑑だから生きものを好きになってもらおう、なんて目的は持たなくていい。

―となると、「子どもの好奇心を広げるおすすめの図鑑を教えてください」という質問を用意していたのですが…。

そこで「この図鑑」って言っちゃダメなんです。子どもをよく見なきゃいけない。全員違うんですから。記事としては「この図鑑」って出せなくなっちゃいますが、そこだと思うんです、大事なのは。子どもを見ることです。一緒に本屋さんに行って、「これがほしい」と言われたら「毎月1冊ね」と買ってあげればいいんです。

―「図鑑大好き!」で斎木さんが書いていた「図鑑はずっと私の友達でした」という言葉につながりますね。

はい。友達は自分で見つけるものですから。

―親が押しつけるわけにはいかないんですね。

図鑑の多様化 「テーマ別」が増加

―最近の図鑑は種類もテーマも増えていて、DVD付きの図鑑もたくさんあります。いつからこうした変化が生まれたのでしょう。

小学館の「くらべる図鑑」が2009年に登場し、ヒットしたのが大きかったですね。

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斎木さんが所有するたくさんの図鑑

―大きさ、高さ、速さなどのテーマでさまざまなものを比較した図鑑ですね。どんなところがヒットの要因だったのでしょうか。

やっぱり子どもたちを見ていると、1番、2番と順番をつけるのが好きで、自分と比べることも好きですよね。「くらべる図鑑」はその心理をよくとらえていて、人との比較が多い。「私たちに比べてこうなんだ」「オリンピック選手よりも速いんだ」と、子どもの興味を引くように作ってあります。

―注目しているテーマ別の図鑑はありますか。

危険生物の図鑑もブームになってたくさん出ましたね。あと、小さい子ども向けの図鑑が増えました。この「きせつの図鑑」「せいかつの図鑑」(いずれも小学館の子ども図鑑 プレNEO)の帯には「小学校受験に強くなる!」なんて書いてあります。もともと学習図鑑というものは教科書の副読本として発達したので、子どもへの教育という視点が入っているんです。それが進化して幼児教育にまで及んだんだな、という。

新しい研究と知識 親もびっくり!

―図鑑は版を重ねると内容も新しくなりますね。私は子どものころ、恐竜図鑑で「パキケファロサウルスは頭骨が分厚く、頭をぶつけ合って戦っていた」という説明を読んで「かっこいい!」と感激したものですが、わが子と最近の恐竜図鑑を読んでいたら「首の骨が細くて衝撃に耐えられないことがわかり、その説は否定されている」と…。これには声を上げて驚きました。

そうそう、書いてあるね(笑)。図鑑がいいのは最新の知識が載っているところです。例えば生物の分類はDNAを使って系統図を作るようになって、大きく変わりました。一番有名なのはハヤブサ。ワシやタカよりもオウムやスズメに近いことがわかったんです。

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―ええっ! 形がかなり違いますよね、ちょっと納得いかない気も…。

例えばコウモリの羽と鳥の羽は成り立ちが違います。どちらも羽を持っているけれど親戚ではない。血筋を反映してその形になったのか、目的が似ているから進化の過程でその形になったのか。形による分類はそこが難しい。遺伝子なら解析できるんです。

―なるほど。図鑑には人類の研究の蓄積を後世に伝える、という役割もあるように思えます。

後世に、というより「普及する」ことですね。子どもにも、一緒に読む大人にも。大人って小中高で習った知識でストップしてしまうものなんですよ。子どもと一緒に図鑑を見れば「ええ~、こんなことになっているの」と知ることができる。歴史の教科書もそうですよね。

図鑑は工夫の結晶。そこにグッとくる

―斎木さんは興味の対象を調べるものとして図鑑を見ていたのが、だんだん図鑑そのもの、図鑑という文化に興味が広がっていきましたよね。それはどんなきっかけだったんですか。

大学のときに植物の化石を研究していて、就職して博物館の研究員になり、植物そのものを研究するようになりました。図鑑をたくさん見て植物の名前を調べていると、図鑑ごとにそのための工夫があることに気づくんです。花の色ごとに並べてあったり、検索表を作ったり。写真の撮り方も、文字数が限られた中で説明文の書き方も工夫している。たくさんの工夫が詰まっているんです。

私も植物図鑑を監修したり、自分で植物分類のネット図鑑を作ったりしているんですが、いろいろ工夫するわけです。学生に使ってもらって、間違えたところで「そうか、ここを直さなくちゃ」って改良していく。そういうところが奥が深くて、面白い。他の人が作った図鑑を見ていると「なるほど、こ…これはすごい!」って思います。

―感心した工夫のエピソードを教えてください。

クモの巣図鑑」(偕成社)は、クモの糸が透明でうまく写らないとき、巣に白いスプレーをかけて撮影したんです。クモの巣そのものを撮ったわけではないけど、素人にとっては巣の形が見えるほうが大事なのでそうした、と。この「リアルサイズ古生物図鑑」(技術評論社)は、古生物をいま存在するものと組み合わせて描いています。

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古生物の大きさがイメージしやすい「リアルサイズ古生物図鑑」(手前)

―なるほど! 電卓、黒板消し、サバやスズキと同じくらいとか…。絶滅して存在しないからイメージしにくい古生物の大きさをわかってもらうための工夫ですね。

この「日本の昆虫1400」(文一総合出版)は写真がかっこいいんですよ。カミキリムシのページを見れば違いがわかります。触覚が前を向いているでしょう? 普通の昆虫図鑑では、標本を写真に撮るから触覚が後ろに伸びている。でも生きているときは前向きなんです。このかっこよさ!

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「日本の昆虫1400」(右)では昆虫の生きたままの姿を写真に収めている

ガも、普通の図鑑は羽の特徴を示すために開いた状態ですが、この図鑑では羽を閉じてとまっている。自分で写真を撮って調べるなら、とまっているところしか撮れないでしょう。だから実際の姿と比べやすい。これも工夫ですね。

図鑑の目的は、科学的にどうかということも大事ですが、何より「素人にわかってもらうこと」ですから。そのための工夫の積み重ねがすごいと思うし、グッとくるんです。

写真 斎木健一さん

斎木健一(さいき・けんいち)

1962年生まれ、横浜市出身。千葉県立中央博物館の分館「海の博物館」の分館長。研究員としての専門分野は古植物学・植物学・理科教育。図鑑コレクターで約2000冊を所有し、2015年に人気テレビ番組「マツコの知らない世界」に図鑑の世界の案内人として出演。『講談社の動く図鑑 MOVE 植物』では監修を担当した。3人の息子がいる。

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  • 匿名 says:

    私が子供の頃は、図鑑ではなく、セットの百科事典を親が購入しました。当時の流行りだったようです。文字ばかりで挿絵程度でしたが、むさぼるように読んだものです。時は過ぎて、自分の子供には図鑑を購入しましたが、色使いやテーマ別など進歩していて、隔世の感があります。図鑑を選ぶのが楽しく、子供の希望はそっちのけで、大人げなかったかなと思っています。

     男性 50代

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