「重い障害があっても学校に通う権利を」医療的ケア児の通学支援はまだまだ困難 自治体は国に財政支援を要望
横浜では約7割が保護者の車で登下校
「おかえり。今日はどうだった?」。10月中旬、横浜市の自宅前で、ストレッチャーに乗ってワゴン車から降りる鈴木優希さん(16)を、母親の妙佳子(たかこ)さん(46)が出迎えた。優希さんは人工呼吸器や胃ろうを装着した医ケア児で、特別支援学校に通う高校1年生。現在は登校と下校で週2日ずつ計4回、市のモデル事業として通学支援を受けている。
市内の福祉事業所のワゴン車に看護師が同乗し、片道約15分の登下校を見守る。支援がない時は妙佳子さんが車で送り迎えしているが、通学支援を受ける日は空き時間ができるという。「いってらっしゃいと送り出されて学校に向かう息子が誇らしい」と妙佳子さんは話す。
実施までに入念な準備を重ねた。同乗する看護師と学校、保護者の間で体調管理などの引き継ぎを毎回行い、連絡を密にした。体調急変や事故など不測の事態に備え、オリジナルのマニュアルも作成。関わってきた障害児の在宅支援をする認定NPO法人フローレンス(東京)の担当者は「医ケア児1人に4人の看護師が交代でつく。情報共有にも力を入れた」と言う。
看護師の平田葉子さん(29)は2021年9月から、優希さんの自宅を訪問し、ケアと発達支援を担当してきた。乗車時は身体に酸素がいきわたっているかをみるモニターや呼吸器の状態を常にチェック。「学校に行くことが彼の成長につながる」とやりがいを話す。
横浜市は「保護者のニーズが高い」と2019年からモデル事業を始め、毎年通学支援の車を増やしてきた。本年度は20台分、約1億3000万円の予算を計上。それでも、個別のケアが必要でスクールバスに乗れない小学生から高校生の医ケア児54人のうち、約7割に当たる39人は保護者の自家用車で登下校する。
需要は高いが…看護師の確保が難しい
医ケア児支援に自治体の責務を課した法律が昨年9月に施行されたことも、自治体の背を押しているようだ。名古屋市は今年4月から、市立学校の医ケア児を対象に、登下校時に看護師が同乗した介護タクシーを出す通学支援事業を始めた。年間で24日の利用が可能だが、使えるのは保護者の体調不良などの緊急時に限られる。
法施行前から取り組む自治体では、滋賀県が2020年度から通学支援を開始。目的は毎日送迎する保護者の負担軽減で、片道1回として利用は年間10回までだ。2018年に制度を始めた東京都は、昨年3月時点で72台、約130人の登下校を支援。都の非常勤看護師が事業者の車に乗る形が大半といい、予算額は他をしのぐ約13億5000万円に上るが、それでも20人を超す待機者がいるという。
看護師を派遣する事業者からは「通学支援だけで事業が成り立つような報酬の設定が必要」との声が上がる。コロナ禍で看護師の確保は厳しさを増す。医ケア児を送迎できる車の手配も難しい。横浜市の担当課長の藤原啓子さんは「通学の支援を求める医ケア児は全国にいる。財政支援や人材育成も含め、国が持続可能な制度設計をする必要がある」と話す。
冒頭の鈴木妙佳子さんは願う。「どんな重い障害があっても、学校に通う権利を保障してほしい」