自然豊かな地域で、のびのびとした経験を 保育園留学で試せます

今住む場所とは別の場所で暮らしてみたい。そんな思いを実現する一つの手段として「保育園留学」という選択肢があります。家族で1~2週間地域に滞在し、子どもは現地の保育園に通う。親子ともに日常とは異なる体験ができるプログラムです。「子どもに自然豊かな環境でのびのび過ごさせたい」と考える人たちから注目を浴びています。子どもが保育園にいる間、親たちはリモートワークしたり、地域を散策したり。東京すくすくでは、埼玉県の秩父地域にある横瀬町と島根県江津市に留学した2家族に取材しました。
写真

火おこしを見守る園児ら=埼玉県横瀬町

好きな遊びを、好きなだけやる

東京すくすくが横瀬町の認可外保育施設「タテノイト」を訪れたのは、10月下旬のよく晴れた日。5羽いる鶏の鳴き声が飛び交う中、3~4歳児の園児ら4人は土の園庭に長靴履きで、思い思いに楽しんでいました。

園を運営する舘野繁彦さんは火おこし中。園児は入れ代わり立ち代わり「火が消えそう」「もっと葉っぱ持ってくる?」と声をかけます。舘野さんは子どもたちに「最初はあんなによく燃えていたのになあ。なぜだろう」と問いかけ。ここでは起こることの全てが学びにつながります。

隣では、園児らがホースで水を引いて、ダム造り中。「もっと水がほしい!」「穴を掘ろう!」「泥ハンバーグを作る」などさまざまな声があがります。中には手帳にメモしながら指示をする園児も。

写真

水を流してダムをつくっている園児ら

大人は余白を用意するのが大切

「子どもは自分でやりたいことを見つけます。それを待つ、余白を用意することが大切」と舘野さん。お昼の時間になっても子どもたちは遊びをやめません。ここではいわゆる「一斉保育」をせず、それぞれのペースで過ごします。大人たちは、子どものニーズに合わせてサポートします。

園児らがお互いに声をかけながら、ダムや川を造る様子は、いつも一緒に遊んでいるお友達同士のようでした。取材中は、どの子が「留学生」なのかは分からず、舘野さんに教えてもらいました。留学生の岡村紬来(つむぎ)ちゃん(3)に声をかけると「楽しい!」と一言、また遊びに戻っていきました。

写真

タテノイトには、絵本がいっぱい=埼玉県横瀬町で

好きなのは本だけではなかった

岡村さんご一家は、東京都大田区から来ました。ご夫妻は3カ月の次女の育休中で、家族全員で町から紹介されたシェアハウスに住み、5日間、9時ごろから14時半までタテノイトに預けました。

岡村さんは紬来ちゃんのことを本好きでちょっと繊細なタイプと思っていました。小雨でもかっぱを着て外遊びをするタテノイトですが、園舎には絵本がたくさんあります。そのことも留学先に選ぶ理由になりました。

紬来ちゃんは留学初日、たった15分ぐらいで園の雰囲気にも在籍する園児たちともなじんでいたとのこと。大田区の保育園には登園したがらないこともあるということですが、タテノイトには毎朝張り切って登園しました。

岡村さん夫婦は都市部育ちですが、キャンプなど自然が大好き。子どもを育てる環境として、自然豊かな地域に住むことを考えていました。また教員免許を持つ妻の桃子さんはタテノイトで実施している、通常とは異なる「オルタナティブ教育」に興味がありました。

タテノイトの活動は園内にとどまりません。ある日はとある山の麓へ集合、と言われてびっくり。その日の活動は山の散策で、紬来ちゃんが「歩き通せるのか不安だった」のですが、何のこともなくこなしました。

写真

飽きるまで、遊びは続く

夫の郁弥さんは現在、リモートができない職種ですが、転勤を視野に入れ、横瀬町かその周辺に移住して自然豊かな環境で、子どもをのびのび育てたい、と考え始めたそうです。

育児休業中のお二人。家族旅行ではなく保育園留学を選んだ理由を聞きました。

「費用を考えたら同じ期間ぐらいの旅行に行けますが、次女がまだ小さいこともあり、こちらを選びました」と桃子さん。

最初は妻の熱意に押され気味だったという郁弥さんも今では「旅行より留学のほうが断然おすすめ」だそうです。保育園に預けている間、周辺環境をリサーチできたのも良かったと話しています。

江津市を選んで正解!

画像

こども園では思い切り体を使ったアクティビティが楽しめる(藤澤さん提供)

10月上旬、神戸市から島根県江津市の「あさりこども園」へ留学したのは、藤澤さんご一家。オンライン取材では、画面いっぱいに笑顔が広がっている?と思うほど、全員がニコニコしていました。藤澤さんたちも1週間、江津市に滞在しました。

保育園留学に興味があったのは、お母さんでした。陽朗(あたろう)ちゃん(4)に新しい経験をさせたいと思ったからです。交通の便などを考慮して北海道と島根県に絞り込み、条件の合った江津市を選びました。

陽朗ちゃんには、ウェブサイトを見せながら「違う保育園に通ってみない?」と声をかけたそうです。実際には旅行に行くという感覚だったかもしれませんが、あっという間に「あさりこども園」になじみ、綱引きや全員リレーなど神戸の保育園ではできない経験を楽しみました。

画像

保育園の後に友達と海で遊ぶことも(藤澤さん提供)

親は周辺環境をリサーチ

藤澤さんは夫婦ともにリモートできない職場で、平日は仕事に追われて子どもとの時間が取れないことに悩んでいたそうです。そういう状況が子どもにとって良い環境なのか。地方暮らしのお試しとして、保育園留学をすることにしました。

神戸市の保育園も自然豊かな環境だそうですが、江津市に来て自然のスケールの大きさに感動。すぐ近くにある海が、神戸よりずっと大きく感じられたとのこと。また道ばたにヘビがいたり、わざわざでかけなくても生き物に出合える環境も魅力でした。

「移住もありかも」。ほどなくそう思った藤澤さんたちは、陽朗ちゃんが保育園に行っている間、周辺環境をリサーチ。地元の小学校で、たまたま行われていた運動会を見学したり、スーパーなど見て回りました。現在年中の陽朗ちゃんが卒園する前後での移住に向けて、「前向きに悩んで」います。

移住に関心がある人たちにとっても、保育園留学はいい経験になりそうです。お父さんは、インターネットで見る情報と実際に体験するものでは「心で感じるもの」が大きく違うと話しました。

画像

温泉も近く湯上がりに街を歩くのも楽しい(藤澤さん提供)

保育園留学

家族で1~2週間、地域に滞在し、子どもたちが地域の保育園に通う体験プログラム。株式会社「キッチハイク」(北海道檜山郡厚沢部町)が2021年11月から展開している。25年10月時点で、60地域まで広がり、約3000家族、1万人が利用した。そのうち3割がリピートしているという。

東京すくすくが6月に「立川ほいくフェスタ2025」で実施したアンケートでも、保育園留学を知っている人が15.1%だったのに対し、説明を受けた後に「興味がある」と回答した人は約53%に上った。

二地域居住

全国的に人口減少が続く中、都市部に住む人たちに主な生活拠点以外にも生活拠点を持ってもらって、地方への人の流れを促進しようとする狙い。国土交通省などが推進している。

0

なるほど!

0

グッときた

0

もやもや...

0

もっと
知りたい

あなたへのおすすめ

PageTopへ