【前編】絵本作家・島田ゆかさんが語る「バムとケロ」の30年 「ずっと一緒にいる家族のような存在」

コラージュ

インタビューを受ける島田さん(左)=市川和宏撮影=と、デビュー作の『バムとケロのにちようび 』

 大人から子どもまで、幅広い世代に愛される「バムとケロ」シリーズ。優しくて世話好きな犬のバムと、いたずら好きで天真らんまんなカエルのケロが、たわいもないことに全力で取り組む暮らしを描いた絵本は、累計発行部数700万部のロングセラーとなっています。そんな「バムとケロ」の作者・島田ゆかさんが「バムとケロ」30周年を記念した原画展を行ったのを機に、インタビューに応じてくれました。原画展について、また、作家生活や作品の裏側について、前後編でたっぷりとお届けします。

「バムとケロ30周年記念 島田ゆか原画展~あのころもいっしょ いまもいっしょ~」は、7月17日から8月5日まで、東京・丸善丸の内本店の4階ギャラリーで開催されました。カナダ在住の島田さんは原画展に合わせて来日。サイン会などを行い、ファンと交流しました。会期中、2万2000人以上が訪れるなど、原画展は大好評のうちに幕を閉じました。

ポスター

多かった20代、30代のファン

-30周年おめでとうございます。今回の原画展は島田さんと出版社(文溪堂)のオリジナルでつくられたと伺いました。どんなところにこだわったのでしょうか?

 やってみたいことを可能な限り盛り込みました。通常私たちは原画展の内装などにはほとんど関わりません。けれど今回は、飾りたかった物を自分たちの思うように展示できたので、今までの原画展とはまた違うものになったと思います。

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-ひとりひとりに、丁寧に時間をかけてサインを書かれていましたね?

 いつもサインと一緒にバムやケロの絵を描いています。あまり描き慣れていないキャラクターを突然リクエストされたときには、さらに時間がかかることもあります。

-お母さんやお子さんはもちろん、20、30代の若者が集まっているのが印象的でした。

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サイン会の様子。若いファンの姿も目立った

 お子さんよりも、大人の方が多かったですね。子どものときに読んで以来ずっと好きだったという方や、自分が子どもの頃に好きだったバムとケロを、今は自分のお子さんと一緒に楽しんでいる方など、『バムとケロのにちようび』と同年代の方が多く来場されました。こんなにも大切に長い期間読み続けてもらえて、本当にうれしいです。

実は原画展には、若い男性の姿もよく見られました。茨城県から来た広瀬友詩(ひろせ・ゆうし)さん(26)は、「保育園の頃から、バムとケロが大好きです。母が兄と一緒に読めるようにと買ってきてくれたんです。絵本に出てくるお洒落な街が、海外のようで、憧れています。今でも、僕の家族は全員、バムとケロが大好きなんですよ」と話してくれました。

最初はなぜか不評で…

-「バムとケロ」が誕生して30年。どうして、犬とカエルが主人公になったのですか?

 昔、書店で働いていたとき、カエルのぬいぐるみを抱っこした女の子を見かけました。足を上にして持っていたのがとても印象的で、カエルの顔は見えなかったのですが、顔を想像しながら仕事中に何となく描いたカエルの絵がケロの前身です。犬の絵を描き始めたのは、ロンドンの骨董(こっとう)市で出会った『BONZO(ボンゾ)』という、1920年代にイギリスではやった犬のキャラクターの人形がきっかけです。シワシワのおじいさんみたいな犬で、最初は不気味に見えたのですが、なぜかとても気になって思わず買ってしまいました。こんなシワシワな犬もありなのかも…と思い、『ぶーちゃんとおにいちゃん』(白泉社)のぶーちゃんみたいな犬を描き始めました。当初はこの犬が主人公の物語を描いていて、カエルは犬の持っているぬいぐるみという設定でした。しかし主人公がかわいくないと不評だったため、犬に少しだけアレンジを加えブルテリアにして、ぬいぐるみだったカエルを犬の友だちとして物語に登場させることにしました。これが後にバムとケロの絵本となりました。

朝食をとるバム(右)とケロ。『バムとケロのそらのたび』のワンシーン(文溪堂提供)

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ケロの原型になったカエルの粘土細工。絵本作家になる前に「ひたすら作っていた」と島田さん

おじぎちゃん、かいちゃんの意外なモデル

-「バムとケロ」が誕生したきっかけとなったその女の子に感謝したいです。他にも魅力的なキャラクターたちがたくさん登場しますが、どんなきっかけで生まれたのですか?

 ウサギのおじぎちゃんは、夫のいたずら描きから生まれました。アヒルのかいちゃんは、友人が飼っていたアヒルがモデルです。ある冬の日、庭の池が凍ってしまいアヒルが動けなくなっていたそうです。すぐに救出しましたが、抱き上げた途端にくちばしで彼女の上唇をぎゅっと引っ張ったとか。その話から『バムとケロのさむいあさ』のお話を思いつきました。

-それぞれにエピソードがあるのですね! 生き物は好きですか?

 子どもの頃から動物は好きです。幼い頃は犬やウサギなどを飼っていました。一番覚えているのはカタツムリです。小学生の頃、雨の日に漬物が入っていた透明の器を手にカタツムリを捕りに行き、容器いっぱいに集めてきました。ところが翌朝起きたら、玄関に置いておいたカタツムリが一匹もいなくなっていたのです。容器のふたはちゃんと閉まっていたので、どうやって逃げたのかいまだに謎です。

ずっと一緒にいる家族のような存在

-原画展では絵本別に色の見本帳がありました。最初から色にこだわっていこうと思っていたのですか?

 最初の『バムとケロのにちようび』の時は、色見本帳は作っていませんでした。続編が出るとは思っていなかったので。続編が決まった時に、前作と同じ色にしなければならないものの色を記録するようになりました。

-30年描き続ける「バムとケロ」は、島田さんにとってどんな存在でしょうか。

 ずっと一緒にいる家族のような存在でしょうか。バムとケロの絵本は長いこと新作を出していませんが、ずっと何かしら「バムとケロ」関連の仕事はしているので、一緒にいるのが当たり前のような感じです。

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20周年、30周年の際に描かれた記念原画

-2人は友だちですか、それとも家族なのでしょうか?

 そうですね。気の合う友だちであり、一緒に暮らす家族でもあります。

-「バムとケロ」はそれぞれ違う個性がある中でお互いを認め合っている理想的な関係に見えます。

 バムは、ケロが何をやっても怒りませんよね。私がバムだったら、絶対に怒りますけど(笑)。絵本の中ではケロがやりたい放題で、バムが保護者のように世話をしているように見えがちですが、ケロもバムにパンケーキを焼いたりしてあげています。ふたりは対等な関係の友だちなのです。どのキャラクターも年齢や性別などを明確には設定していません。読者の皆さんが好きなように想像して読んでもらえたらと思っています。

◇後編はこちら→【後編】島田ゆかさんが絵本を描き続ける理由 被災地でのサイン会 「何もできないけど、ただ笑って、楽しんでほしい」

【文溪堂】https://www.bunkei.co.jp/

【島田ゆかさん】https://www.bamkero.com/

島田ゆか(しまだ・ゆか)

 1963年生まれ、絵本作家。カナダ・オンタリオ州在住。東京デザイン専門学校グラフィックデザイン科卒業後、食品のパッケージデザイナー、書店アルバイトなどを経て、1994年に絵本作家デビュー。主な作品に「バムとケロ」シリーズ、「ガラゴ」シリーズ(いずれも文溪堂)、『ぶーちゃんとおにいちゃん』(白泉社)などがある。2011年に『バムとケロのもりのこや』で第4回MOE絵本屋さん大賞を受賞。

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  • 匿名 says:

    バムとケロ。この絵本を見つけた時に細かいところまで本当に可愛くて子供も大好きでした。今も大切にしています。是非、地方でも原画展を開いて頂きたいです。

     女性 60代

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