年末年始の「家族だんらん」がつらい〈ソーシャルワーカー鴻巣麻里香 10代の相談室〉5

相談:キラキラした雰囲気や家族だんらんが苦手です。
年末年始が苦手です。両親がずっと家にいて落ち着きません。普段はほとんど会話がないのに大みそかとお正月は家族みんなで一緒にいないと叱られます。いつも勉強勉強うるさくて遊びに行くのにも小言ばかりなのに、親戚への挨拶や初詣には行かなきゃいけないのか、納得できません。(高校1年、男子)
年末年始の街の空気が苦手です。家族だんらんを押し付けてくるようでつらいです。うちは両親が不仲で、お金もなくて、家の中がいつもギスギスしています。両親がずっと家にいるのもつらいし、うちだけ惨めに感じてしまうキラキラした空気もつらいです。(中学2年、女子)

イラスト・東茉里奈
連載「10代の相談室」
精神保健福祉士の鴻巣麻里香さん(46)が、中高生を支えるソーシャルワーカーの立場から、10代の悩みや葛藤をときほぐし、向き合います。保護者や学校の先生など周りの大人がしてしまいがちな、子どもたちをつらくさせる言動への対処の仕方も丁寧に伝えます。回答の最後には、10代を見守る周囲の大人へのメッセージを「大人のみなさんへ」としてつづります。
回答:苦痛から逃れたり、苦痛を遠ざけて
クリスマスに大みそか、そしてお正月。イベントが目白押しな年末年始を楽しめない、むしろつらいと感じる声は、実は少なくありません。
親が決めた予定の押し付けがつらい。会いたくない人に会って行きたくないところに行って食べたくないものを食べるのがつらい。したいことができないのがつらい。あるいは学校や仕事が休みになり、不仲な家族や加害的な(世話をしてくれない、暴力をふるう等)親と一緒にいる時間が長くなることがつらい。
もしくは、お金に困っているために、プレゼントやごちそう、お年玉など世の中の「当たり前」だとされているイベントから自分が置き去りにされているようでつらい、などです。受験勉強を強要されて年末年始も休ませてもらえない、つらい、という声もきかれます。そのどれもが「家がつらい」ということです。

年末年始になると、このシーズンがいかにキラキラして楽しいものなのかが、メディアを通じて宣伝されます。楽しいはずのものが楽しめない、むしろ苦しく感じる、そのギャップが「家がつらい」人たちを追い詰めるのです。
たしかに、この時期を楽しみにしている人は少なくありません。ですが、決して「みんな」ではありません。そしてあなたのつらさは、あなただけのものです。たとえたくさんの人がクリスマスやお正月を楽しみに思っていても、あなたがつらければそれが全てです。そしてイベントがしんどいの背景にあるかもしれない、「家がつらい」に目を向けてみてください。お金の心配、暴力や暴言、両親の関係が悪い、過干渉や束縛、休めない遊べない、不快なことを言ったりしたりしてくる親戚など、どれもが避けるべき苦痛です。

大切なのは「楽しめるようになること」ではなく、苦痛から逃れる、苦痛を遠ざけることです。お金の心配や暴力、両親の間での暴力やけんかについては、手助けしてくれるさまざまな相談機関があります。どこに相談したらよいかわからないとき、あるいは誰かとつながりたい、話したいときには、電話やチャットで未成年のさまざまな悩みをきいて、必要に応じて解決方法を助言してくれる窓口もあります。
暴力を受けていたりお金がなくて食べるものに困ったり、すぐに自分を救ってあげなければいけない時は、「189」に電話をすると、昼夜問わず年末年始もつながり、SOSを出すことができます。冬休み中にしんどくなることが不安な場合は、2学期の間に学校の教師やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどに相談しておくとよいかもしれません。
主な相談窓口
mex(ミークス):10代のみなさんが、それぞれの悩みや居住地から相談先を検索できる
チャイルドライン:(0120)997777 18歳までが対象。チャットでも相談できる
あなたのいばしょチャット相談:24時間365日、誰でも無料・匿名で利用できる
相談するほどではないけれど世の中や家の空気がしんどい、そんな時間をまぎらわすには、読書や漫画、映画やゲームなど、誰ともつながらずに過ごせるコンテンツに没頭することも有効です。

楽しめることが目的ではない
つまり、年末年始のイベントが「楽しめるようになる」ことが目的ではないということです。イベントごとが楽しめない、しんどい背景にある「家がつらい」「暮らしがつらい」から自分を助けてあげることが何より大切です。その結果楽しめるようになるかもしれませんが、そうでないかもしれません。クリスマスやお正月にかかわらず、大きなスポーツの大会など、たくさんの人が盛り上がっているからといって、それに「乗る」必要はありません。
人それぞれ何を楽しいと感じるかは異なります。乗れなくても決しておかしいわけではないのです。多くの人が同じものに興味があり、楽しんでいるかのようにつくり出される空気の方が、私は不自然だと感じます。あなただけの苦しさがあるように、あなただけの「好き」や「楽しい」もあります。「わたしがどう感じるか」が全てです。

大人のみなさんへ:自分を責めないで
年末にさしかかるこの時期には、子育て中の大人からもさまざまな相談を受けます。
お金に困っていて「クリスマスなのに子どもにプレゼントをあげられない」という苦しさ、非正規雇用だと年末年始に仕事がなくなるために収入が下がってしまうことへの不安、あるいは収入が下がることを防ぐためにお正月休みにアルバイトを入れて子どもと一緒に過ごせなくなることや、子どもにあげるお年玉が少ないことへの申し訳なさなどです。
子どものために一生懸命働いて、頑張って、それでも苦しくて、年末年始の「キラキラ」に打ちのめされてしまう親御さんの苦しさに、私も胸が痛くなります。そういった親御さんたちの苦しさも、子どもたちのしんどさと同じです。
生活が苦しいのはこの時期に限ったことではなく、大切なのは普段の暮らしへの不安が取り払われることです。そして暮らしの不安の多くは、世の中の側に原因があります。物価高、給料があがらない、離婚して養育費を受け取れない、子育て中のひとり親が正職員として働くことが難しい…どれも「あなたが苦しい」だけでなく「あなたを苦しめる世の中」が原因です。
お子さんのために「十分なこと」をしてあげられないご自身を、どうか責めないでいただきたいのです。そして「十分なこと」はお子さんそれぞれによって異なります。たくさんのプレゼント、お年玉、ごちそうだけではないはずです。大切なのは、あなたを含めたご家族の暮らしが良くなること、その役にたつ社会資源(支援する人や組織、制度)とつながることです。

イベントは付属品、日常が大切
そして年末年始に「子どもたちと盛り上がろう」と頑張っている大人のみなさんへ。
普段からお子さんの声をきいていますか? お子さんと話せていますか? お子さんの願いをきいていますか? 楽しく平穏な時間を十分に一緒に過ごせていますか?
それが不足しているのに、この時期だけ一緒に過ごそう、贈り物をしようとしても、それはお子さんには届きません。イベントは暮らしの付属品です。まずは日々の暮らしの中での、お子さんとの当たり前の時間や会話を大切にし、そしてお子さんが十分に休めて心と体の健康を維持できているかに気を配ってください。
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鴻巣麻里香(こうのす・まりか)

1979年生まれ。ソーシャルワーカー、精神保健福祉士。子ども時代には外国にルーツがあることを理由に差別やいじめを経験する。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年、非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営している。著書に「わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線『バウンダリー』の引き方」(リトルモア)、「思春期のしんどさってなんだろう? あなたと考えたいあなたを苦しめる社会の問題」(平凡社)などがある。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい











大人ですが、小学生の時から年末年始が苦手です。今でも年末年始に実母親と会うのが億劫で、11月下旬くらいから、「あー。また、この季節が迫っていた」と心が重くなります。
理由を付けて会いに行かないと「親不孝」「親を捨てたのか」など言われます。年越しに家族と過ごすことが「良いこと」「当たり前」との価値観が、もう少し柔軟になれば良いのにと、思っています。