子どもが巣立つ春 思い出す娘が4歳のあの日〈瀧波ユカリ しあわせ最前線〉24

私はあまりに正直者すぎた
「これからもずーっと、お父さんとお母さんと私で、一緒に暮らそうね」
そう娘から言われた時の話をしよう。
当時、娘はたしか4歳くらい。夜、ほかほかの布団の中で、私と娘ふたりぴったりとくっついて、あとは眠りに落ちるだけ。娘が柔らかく歌うようにそう言った瞬間、寝室全体に幸せが広がって、私の中の全てが満ち足りた。永遠にこのままだったらいい。そう感じた。
しかし、その幸せに浸り切ったまま眠るには、私はあまりに正直者すぎた。数秒の間をあけて、私はできるだけ夢見心地の雰囲気を保ちながら、こう言った。
「そうしたいよねえ。でもね、子どもってね、大人になったら家を出ていくんだよ」
「えっ⁉ 出ていく⁉」
娘は鋭く聞き返してきた。
「うん。お母さんも、家を出て1人暮らししていたよ。そしてお父さんと出会って、結婚して、あなたが生まれて、今がある。あなたもきっと大人になったら、1人で住んだり、だれかと出会って一緒に住んだりするよ」
「それは何歳で? 絶対なの?」
「お母さんは18歳だったよ。絶対じゃなくて、ずっと親と住む人もいるよ。でも、一度は親と離れて暮らすのがいいと、お母さんは思うよ」
「私は、出たくない! だめ?」
「今はそう思うよね。それでいいの。でも、大きくなるとだんだん、家を出て自由に暮らしたいって思うようになるよ。そしてそれは、すごく楽しいことだよ」
「……」

子育てを成し遂げた先輩ママパパへ
ひととおり私を質問責めにしたあと、娘は静かに涙を数粒流し、そのまま眠った。私は最後まで、うそだよ、ずっといてもいいよ、とは言わなかった。
その後、娘は夫にも同じことを聞き、夫は私とだいたい同じことを言ったらしい。容赦のない正直夫婦のもとに生まれたせいで、娘は4歳で人生設計を考え始めるはめになった。数年後に語ったところによると、娘はリビングの窓から見える小さなアパートに目星をつけていたそうだ。あそこに住めば、近いからいつでも会いに来られると。
早すぎる、残酷だと思う人もいるだろう。確かに、早くはあった。でも、子どもが自立を考えること、そして自立していくことを支えるのが親なのだと私は思う。現在、娘は15歳。あと数年、じっくり力を蓄えてほしい。
最後に、この春いよいよ子どもが巣立っていく先輩ママパパの皆さんへ。素晴らしい偉業を成し遂げたことに、私から拍手を送ります。寂しい気持ちはきっと、子育て大成功の証し。私も、皆さんのあとに続きます。
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瀧波ユカリさん(木口慎子撮影)
瀧波ユカリ(たきなみ・ゆかり)
漫画家、エッセイスト。1980年、北海道生まれ。漫画の代表作に「私たちは無痛恋愛がしたい~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~」「モトカレマニア」「臨死!! 江古田ちゃん」など。母親の余命宣告からみとりまでを描いた「ありがとうって言えたなら」も話題に。本連載「しあわせ最前線」では、自身の子育て体験や家事分担など家族との日々で感じたことをイラストとエッセーでつづります。夫と中学生の娘と3人暮らし。
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