江戸川区名物の紙芝居 ”最後の1人”から受け継いだ女性が人気 「待っている子がいる限り続けたい」
身長173センチの紙芝居師「じゃんぼ」
「じゃんぼが来たぞ」。公園に近づく自転車を見つけた子が声を上げ、キャッチボールや遊具に夢中だった小学生が一斉に集まる。小銭を手に行儀よく並び、お目当ては、水あめや甘酸っぱいさくら大根だ。
駄菓子が行き渡ると紙芝居が始まる。この日は昭和20年代の作品で、人気を博した「チョンちゃん」。レトロ調のイラストに、スマートフォンを首から下げた子どもたちが真剣に見入った。
「じゃんぼ」の正体は豊島区の岡本理世(りよ)さん(年齢非公表)。大学で演劇を学び、東京の劇団で芝居に打ち込んだ。だから、紙芝居は臨場感たっぷり。姿勢や表情で威張ったり喜んだりしているのが分かる。「じゃんぼ」は、身長が173センチあることから劇団時代に付いた愛称だ。
「これで生きてきたという自信に満ちていた」
「老若男女から動物まで多彩に演じられる」と、もともと紙芝居に興味があった。江戸川区に住む永田さんとは、知人を通じて2007年に知り合った。一心に演じる迫力に「これで生きてきたという自信に満ちていた」と魅了された。
その後も街頭に見に行くようになり、7年ほど前、高齢を理由に引退した永田さんから「やる気があるならやってみたらどうだ」と言われ、自転車や道具を譲り受けた。駄菓子の売り上げやイベントの出演料で生計を立てる。
戦中、戦後の暮らしを伝える国立博物館「昭和館」(千代田区)が12年に開催した特別企画展で「最後の街頭紙芝居師」と紹介された永田さん。同業者が全国に5万人いた昭和20年代の最盛期を「紙芝居師ごとにファンがいて、会社員より稼げた」と振り返る。
永田さんの紙芝居で育った大人たちも楽しみに
永田さんは朝から晩まで拍子木を鳴らして江戸川区内を回り、テレビの普及などで同業者が姿を消していっても、「子どもを喜ばせたい」と街頭に立った。その姿は子どもたちの記憶にしっかりと刻まれた。
じゃんぼさんの元には通りすがりの大人たちも立ち寄り、慣れた様子で駄菓子を買っていく。永田さんの紙芝居で育った人たちだ。小雨の日にはレインコートを着てやって来る子もいる。そういう姿に触れるたび、じゃんぼさんは思いを強くする。「この地域には紙芝居の文化が今も根付いている。待っている子がいる限り続けたい」
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