〈絵本さんぽ〉銀座 教文館ナルニア国 銀座の真ん中で、愛され続ける子どもの本との幸せな出合いを

(2024年11月9日付 東京新聞朝刊に一部加筆)

絵本さんぽ

魅力的な絵本の店を記者が訪ね、紹介します。

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教文館ナルニア国の店の入り口=いずれも東京都中央区で

店名は名作「ナルニア国物語」から

 銀座のシンボルマークである和光の時計台からほど近い老舗書店「教文館」。1885年創業のキリスト教系の出版社でもあり、このビルではかつて翻訳家で児童文学者の村岡花子さんが編集者として働いていた。太平洋戦争で銀座が焼け野原になった際、被災を免れた数少ない建物の一つでもある。

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店長の川辺陽子さん

 9階の「ナルニア国」は、1998年に子どもの本の店としてオープン。「教文館の中に子どもの本専門の場所をつくりたい」という当時の中村義治社長(故人)の長年の願いから誕生した。店名は英児童文学の名作「ナルニア国物語」から名づけた。子どもに聖書をよく分かってもらうために書かれた作品であることに加え、「ナルニア国は人間だけでなく、全ての生きものが平等に仲良く暮らしている幸せの国。それを目指そうとの思いが込められました」と店長の川辺陽子さんは話す。

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書店の入り口にある「ナルニア国憲章」

 店の入り口には「ナルニア国憲章」が掲げられる。「ナルニア国は だれもが楽しみ くつろげる空間です」などの5章は、立ち上げのブレーンで、児童書出版「こぐま社」の佐藤英和社長(同)が「店名に国がついている。国には憲法が必要だ」と助言したことから考案された。川辺さんは「私たちが店を運営していく上で、背骨のような存在です」と笑顔を見せる。店にとってふさわしいことを判断するバロメーターになっており、25年余り変わらない姿勢で経営できたのは、この憲章が根本にあるからだという。

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「だるまちゃんとてんぐちゃん」「11ぴきのねこ」など国内のロングセラー絵本が並ぶ

子どもの頃に読んだ本と再会する人も

 開店当初、新刊は置かずロングセラーだけを並べた。「世の中はすごい勢いで変わっていく。つないでいくことは難しい。ロングセラーの子どもの本が次の世代へ手渡され、読み継がれていくことを大事に」という中村さんの思いによる。現在は新刊も置くが、3分の2ほどがやはりロングセラー。子どもの頃に読んだ絵本と再会する客もいて、「懐かしいという声を多くいただきます」と川辺さん。

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「ふたりはいっしょ」「ちいさいおうち」など海外のロングセラー絵本がずらり

 また、東京子ども図書館(東京都中野区)とのつながりも深い。たたずまいや選んだ本の並べ方なども大きな影響を受けている。オープン前に同館を訪れた中村さんは「こういう書店を作りたい」と望み、同館名誉理事長の松岡享子さん(故人)からアドバイスも受けたという。「図書館と書店と違いはあるけれど、目指すところは同じ、子どもと本の幸せな出合いだと考えたのではないでしょうか」

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国内外の名作児童書も豊富

 買い物客や観光客、ビジネスパーソンでにぎわう、銀座のど真ん中にある癒やしの空間。多くの子どもたちに長く愛され続ける絵本と出合える書店だ。

教文館 ナルニア国

住所:東京都中央区銀座4の5の1 教文館ビル9階

電話:03(3563)0730

年中無休(1月1、2日のみ休業)、午前10時~午後7時

川辺陽子さんおすすめの1冊

「ちいさいおうち」文と絵・バージニア・リー・バートン 訳・石井桃子

書影

 静かな田舎に、ちいさいおうちが建っていました。道路ができ、高いビルが建ち、周りが賑やかな町になるにつれて、ちいさいおうちは、ひなぎくの花が咲く丘を懐かしく思って…。

おすすめのポイント

 ナルニア国としても大事にご紹介したい一冊です。

 まずは、物語そのものにある静けさ。ジェットコースターのように、何かが起こるわけではないですよね。一日の時間がめぐり、四季がめぐり、長い長い時がめぐっていく。時間の流れを物語の中で描いていきます。「おうち」という動かないものを描きながら、あれだけ深いテーマと美しい絵を持っている作品は他にはないと思うんです。

 作者のバートンさんは「いたずら きかんしゃ ちゅうちゅう」など乗り物の絵本など、生き生きとした作品がたくさんありますが、「ちいさいおうち」を読んでいると、心の深いところに届いて、何か忘れられないものを残すという、読書の不思議な力を感じます。いろんな年齢で、いろんな時に読める。心に揺さぶりをかけてくれる作品ではないかと思っています。

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