コロナで外出自粛、長男骨折…散々な春 それでも思わぬ収穫が
公園にも行けない初めての春
こんな春は初めてだった。ただ、公園遊びもままならない日々にも、思わぬ収穫があった。
子どもと少し遠くまで散歩するうちに、普段は気にも留めない野の草が目に入るようになった。4月のある日、道端に生えたノビルらしき草に足を止めた。
抜いてみると、白くふくらんだ根元が現れた。スマホで写真に撮って埼玉に住む両親に送信。電話で「ねえねえ、これノビルだよね、食べられるよね?」と聞くと、「ノビルのにおいがしたらノビルだよ。それくらい分かるだろ」と父親(67)。
自分の鼻で野草が食べられるかどうかを確かめるなんて初めてだな。そう思いながら、ぷっくりした白い球状の根元に顔を近づけると、小さい頃、父と散歩しながら道端でかいだあの香りが。うん、ノビルだ。
ノビルのにおいを覚えた次男
お昼の時間も忘れて、大量のノビルを土の中から苦労して抜いた子どもたち。大葉とブロッコリーの芽と一緒に刻んでみそあえにした。私は白いごはんのお供にし、夫は酒のつまみに。子どもも「大人の味だね」と言いながら何度も箸を伸ばした。
驚いたのは、自宅近くの公園でも保育園児の次男(6)がノビルを掘り出したこと。「だってノビルのにおいがしたもん」。ああ、この子もノビルの香りを覚えたんだ、とうれしくなった。
骨折して意気消沈する長男と
5月の連休には小学4年の長男(9)と別の体験をした。休校で体力を持て余した長男は、狭い屋内で体を動かしていて利き手を骨折。自転車にも乗れず、ふてくされて下を向いて歩いていた彼が、草っ原でヨモギを見つけた。
「お母さん、ヨモギでお団子作りたい」。そう言ってしゃがみ込んで摘み始めた長男。夢中で袋いっぱいになるまで採ったのはいいが、どう処理したものか。祖母の草餅レシピを母の妹が書き起こしていたのを思い出し、長男に電話で聞いてもらった。「重曹入れてゆでるんだって!」
大鍋に湯を沸かして1キロ近くもあるヨモギをゆでると、お湯が鮮やかな緑色に染まり、台所に春の野原の香りが広がった。白玉粉と上新粉とこねてゆでると、生えていた時よりもさらに鮮やかな緑色をしたよもぎ団子が完成。出来合いの粒あんや生クリーム、缶詰のフルーツを飾って家族5人で味わった。
コロナのおかげで渡せたバトン
ノビルにヨモギ。私にとっては、どちらも幼い頃に家庭やおばあちゃんの家でなじんだ懐かしい味。でも、今暮らしている都内の自宅近くに生えている場所があるとは知らなかった。知っていても、採って手間をかけて食べようとは思わなかったはず。
図らずもコロナのおかげで持てた豊かな時間だ。両親や祖母との思い出話とともに、味のバトンを渡すこともできた。
ノビルの香りとヨモギの味を覚えた子どもたち。いつかこの子たちに家族ができることがあったら、一緒に下を向いて野草を探す日が来るのかな、と思いを巡らせている。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい