「わし、もうあかん」息継ぎのない水泳のような夏休み〈加瀬健太郎 お父ちゃんやってます!〉

(2024年8月7日付 東京新聞朝刊)

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加瀬健太郎 お父ちゃんやってます!

 妻が週2で働きだした。外の世界に触れて、妻は生き生きとしだし、慣れない生活に、僕はおたおたしている。

 そして、折しも夏休み。朝早く仕事に行く妻に代わって、朝昼晩のごはん。習い事の送り迎え。終わりのないケンカ。垂れ流すふん尿(四男オムツやめました)。夏休みはまるで、息継ぎのない水泳のよう。

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 なんかもう疲れて、頭まで痛くなってきて、テレビでオリンピックを見る子どもをそばに、「わし、もうあかん」と、倒れたフリをしてみた。

 すると、四男だけは、氷枕を持ってきてくれた。「え!こんなことできるの?ありがとう」と、僕がすこし大げさに喜ぶと、今度は、寝室から布団を持ってきてくれた。「キョンキョン(四男のあだ名)だけや、やさしいなあ」と、テレビを見続ける薄情な3人に、聞こえるように言う。3人、軽く無視する。

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 布団に包まっていると、「どうじょ」と、四男は食パンを持ってきた。普段、焼いてない食パンを、何もつけずに食べることはないが、気持ちがうれしいので頂く。「おいちい?」。笑顔で聞いてくる四男。口の中がパサパサして、正直おいしくはないが、「おいちい」と答える。

 四男、自分の食パンも持ってきて「おいちいね」と一緒に食べる。かわいすぎる。「パパ、もっとたべる?」。好きな真ん中の軟らかいとこだけ食べて、いつも残すパンの耳を差し出す。「もう、おなかいっぱい。キョンキョンが食べたら?」と、やんわり断ると「ちゅよく(強く)ならないよ」と、パンの耳を無理やり僕の口に押し込んできた。

加瀬健太郎(かせ・けんたろう)

写真 加瀬健太郎さん

 写真家。1974年、大阪生まれ。東京の写真スタジオで勤務の後、ロンドンの専門学校で写真を学ぶ。現在は東京を拠点にフリーランスで活動。最新刊は「お父さん、まだだいじょうぶ?日記」(リトルモア)。このほか著書に「スンギ少年のダイエット日記」「お父さん、だいじょうぶ?日記」(同)「ぐうたらとけちとぷー」(偕成社)など。14歳、11歳、7歳、3歳の4兄弟の父。これまでの仕事や作品は公式サイトで紹介している。

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