〈古泉智浩 里親映画の世界〉vol.15『ブライトバーン/恐怖の拡散者』 愛した里子が、手に負えなくなったら

子育て世代がつながる

古泉智浩「里親映画の世界」

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vol.15『ブライトバーン/恐怖の拡散者』(2019年 アメリカ/新生児~12歳/養子)

 農場を営むカイル(デビッド・デンマン)とトーリ(エリザベス・バンクス)の夫婦は子どもに恵まれず不妊治療に取り組んでいました。そんなある夜、自宅近くの森に隕石が落下します。

◇予告編

 ここから先は大いにネタバレがありますので、現在公開中でもあり、事前情報を入れずに映画を見たいと言う人は絶対に読まないでください。このコラムで取り上げることがすでにネタバレとなっているのも非常に心苦しいのですが、どうぞご容赦ください。情報がいくらか入っても大丈夫、むしろ知って面白そうだったら見たい、もしくはこの映画を見る予定が全くないと言う人はぜひここから先もお読みください。それから里親を志している人はげんなりするのであまり見ない方がいいかもしれません。

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 月日が流れ、カイルとトーリは12歳の男の子、ブランドン(ジャクソン・A・ダン)と3人家族として暮らしています。ブランドンはお絵かきが大好きで、学校の生物の授業中もノートに絵を描いています。先生はそれに気づいたのか「ミツバチとスズメバチの違いは何?」という質問をブランドンに当てます。すると、ブランドンはまるでウィキペディアを読み上げるように違いをすらすらと答え、むしろ逆にクラスで浮いてしまいます。すっかり聡明な少年に成長している彼は、カイルとトーリ夫婦が赤ん坊の時に迎えた養子です。


〈前回はこちら〉vol.14『スリーメン&ベビー』初めてパパと呼ばれたら…


 12歳と言えば、思春期の真っただ中で性に対する興味がわいたり変な自意識をこじらせたりと非常に不安定な年ごろです。トーリがブランドンのベッドのマットレスの下から女性の下着のチラシの束を発見します。動揺してカイルを呼び出し、性教育の必要を二人で話しながらチラシの束をめくっていくと、人体解剖図が現れたり、人の内臓の写真なども現れ、二人は当惑します。ゆがんだ性の興味を抱いたら大変です。

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 家族でキャンプに行った時に、お父さんのカイルはブランドンに森の中で女の子を好きになって大切に思うことは素晴らしいことだ、そんな気持ちをオープンにするのはいいことだと伝えました。

 ブランドンには好きな子がいました。先生に蜂の質問をされた時に、あまりにすらすらと答えたためクラスメートに気持ち悪がられたブランドンに、賢いことの大切さを伝えてくれた前の席の女の子です。その子が夜自宅で寝ていると、机の上のパソコンからロマンチックな音楽が流れます。驚いて起きた女の子はパソコンを閉じてベッドに戻ります。ところがまた勝手にパソコンが開いて音楽が流れたと思うとカーテンの後ろにブランドンらしき人影が立っています。彼女はすっかり怯え、ブランドンを不気味に思うようになりました。

 ところが、この夜ブランドンは50キロ離れたキャンプ場に泊まっていました。ブランドンは草刈り機を投げ飛ばし、草刈り機の回転刃に手を突っ込んでも怪我をせず逆に刃の方が壊れ、フォークを一心不乱に噛んでいたらフォークの先端がぐにゃぐにゃになるといった怪現象に当惑していました。自身の体を空中に浮遊させ、高速で移動する能力まで発揮します。

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 体育の時間には、ブランドンを気味悪がる彼女の手をつかんで怪力で骨折させてしまいます。彼女のことが好きなあまり、気持ちのやり場がおかしくなってしまう…思春期にはありがちなことですが、ブランドンの場合は体に起きる怪現象も相まって、心と体の変化が異様です。怪我を負わせたことで、彼女のお母さんにはすごい剣幕で怒られ、夜、彼女の部屋に謝るために花を持って再び侵入すると、おびえた彼女からお母さんに会うことを禁じられている、と告げられます。その問題を解決するために彼が採った方法は、彼女のお母さんの殺害でした。

 カウンセリングを受けることになったブランドン。カウンセラーは親戚のおばさんです。ところがブランドンは同級生の女の子の手を握りつぶしたことを全く反省しておらず、警察に報告しなければならないと告げたおばさんを恫喝します。ブランドンがもっとズル賢ければ、表面的に反省している振りをすればいいのに、そこは中学1年生。知性が高くても社会的には幼いという表現がリアルです。夜中にカウンセラーのおばさんの自宅に行って重ねて恫喝し、帰宅した夫にも怒られて、自宅に連れて行かれそうになります。こんな行動が両親にバレたら大事です。おじさんが乗った車を超能力を使って空中に浮かべて真っ逆さまに落として殺してしまいます。

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 いよいよブランドンが相当手に負えないことがカイルとトーリにも分かってきて、トーリはブランドンに出生の秘密を打ち明けます。ブランドンは隕石に乗って地球にやってきた赤ちゃんだったのです。「ぼくをだましていたな、嘘つき」とブランドンはトーリに声を荒らげるのですが、一方カウンセリングで「あんな馬鹿で田舎者の両親じゃなくてよかった」などと言います。トーリと同じ養親として、僕の心が痛くなった場面でした。とうとうブランドンが人を殺していることを知ったカイルとトーリ。もし、うちの子だったら…僕はどうしたらいいのだろう。

 うちの子はまだ5歳と1歳ですが、里親として子どもを育てる人たちで集うと、深刻な悩みを語る里親さんは、大抵お子さんが思春期です。うちの子は映画と違って宇宙人ではないですが、思春期はやっぱりちょっと不安です。あんまり賢くなくてもいいから明るくて優しい子でいてほしいけれど…。カイルとトーリは素敵な両親で、むしろ真っ当すぎるほど。その点僕は里親として、完ぺきとはほど遠いだらしのない人間。うちの子は僕を反面教師にしてまっすぐ育ってほしいです。

 映画ではカイルが森にブランドンを誘い出し、後ろからライフルで撃ちます。二人を殺しており、親として断腸の思いだったと思うのですが、ブランドンは銃弾をはねのけます。体は傷つかなくても心が大いに傷付き、お父さんを目から出るレーザー光線で無残に殺してしまいます。トーリもブランドンを抱きしめながら包丁で刺し殺そうとするのですが、あっさり失敗して惨殺されてしまうのでした。一般的な人間の手に負える存在ではなくなったブランドン。この先、孤独とどう向き合って生きていくのだろうと心配させながら、映画は終わります。里親としては大失敗例で勇気度は2ですが、トーリとカイルがブランドンを愛していたことは全く嘘ではないと感じています。

◇『ブライトバーン/恐怖の拡散者』サイトはこちら
© The H Collective
配給:Rakuten Distribution/東宝東和

古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

〈古泉智浩 里親映画の世界〉イントロダクション―僕の背中を押してくれた「里親映画」とは?

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