〈古泉智浩 里親映画の世界〉命がけで赤ん坊を守った強盗に心を打たれる vol.20「3人の名付親」

古泉智浩「里親映画の世界」

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採点表

vol.20『3人の名付親』(1949年/アメリカ/新生児の男児/事故)

 ジョン・ウェイン主演の西部劇はよくBSプレミアムで放送されていて、なんとなくタイトルを知っていたり、何も知らないで見たりですが、たいてい面白いです。この映画も3月の放送を録画して鑑賞。なんとなくそうかな、との期待通り里親展開が始まります。しかし、里親映画として認定していいのか?と疑問を抱きながら結末へ。映画を楽しむより、「この映画が里親映画なのかどうか」ばかり気になり、非常に「不純」な感じがします。ここで紹介する作品には、ちょっとでも里親要素があればアリでいいと思っているのですが…。


〈前回はこちら〉米国の里親制度をきれいごと抜きで描く 「インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました」


 中年男のボブ(ジョン・ウェイン)とメキシコ人のピート(ペドロ・アルメンダリス)、若者のキッド(ハリー・ケリー・Jr)の3人の強盗は馬でアリゾナ州に現れます。ちょうどアリゾナが地名として使われ出した頃で、その前はタランチュラ(毒蜘蛛)と呼ばれた土地でした。彼らは銀行強盗ですが、強盗や牛泥棒に対してまったく後ろめたさがなく、その辺で野良仕事をするような感覚です。無法者ですが明るく愉快な3人仲間はさっそく、銀行を襲いお金を強奪して逃走します。しかし、その際にキッドは左肩を撃たれ、馬に備え付けていた大きな水袋にも弾が当たり水を失います。

 逃げるには広大な砂漠を越えなければなりません。鉄道の駅には水のタンクがあるのですが、保安官のパーリー・スイート(ワード・ボンド)が列車を使って部下を先回りさせています。困り果てたボブたち3人の強盗は砂漠の真ん中にある水場に向かいます。途中、嵐で馬も逃がしてしまいます。ようやくたどり着いた水場は、先客がダイナマイトで台無しにしていました。水を出すために爆破したのですが、水がたまる岩盤を破壊してしまったために水がたまらなくなっていたのです。水場を破壊した男は馬を追って行方不明となり、幌馬車の中には妊婦が一人取り残されており、今にも赤ちゃんが生まれようとしています。

イラスト

(今回は古泉さんの再現イラストでお届けします)

 3人のうちピートだけが子持ちで、出産を手伝います。ピートの頑張りで男の赤ちゃんが生まれ、呼ばれたボブとキッドも赤ちゃんを目にしてその存在に圧倒されます。母親は3人に名付け親になって欲しいと頼みます。赤ちゃんは3人の名前とお母さんの名前を加え、ロバート・ウィリアム・ペドロ・ハイタワーと名付けられます。赤ちゃんを抱いた途端、満足そうな顔をしたまま母親は力尽きて亡くなります。

 赤ん坊が残され途方に暮れる3人。何しろ、この現代の設備が整った環境であっても、新生児のお世話はめちゃくちゃ大変です。水すらない砂漠のど真ん中でいったいどうお世話をするのか、非常に心配でした。幸い幌馬車には赤ちゃん用品一式と育児書がありました。産湯は?と思いましたが、お湯などない上に、当時の彼らの風習ではお風呂は土曜日だけでいいという習慣で、育児書にはお風呂は生後1週間後でよく、それより大事なのは全身にオリーブオイルを塗ることだとの記載がありました。オリーブオイルがなければラードかグリスでいいと書かれてあり、幌馬車の車輪用のグリスがあったためそれを塗りました。いいのでしょうか? 石油から作られた化学薬品ではないかと心配になるのですが、当時は植物性の油だったのかもしれません。植物性であってほしい。

 ミルクも心配です。うちは里子を迎えたため、母乳ではなく粉ミルクでしたが、現代の育児では、3時間おきに授乳が必要。この時代の育児書には6時間おきでミルクの代わりにはコンデンスミルクでもいいとあり、それが6缶残されていました。サボテンを絞った水で溶いて、チューブのついた哺乳瓶でコンデンスミルクを飲ませる際に、メキシコ人のピートが乳首をちょっと吸って空気を抜いていました。虫歯菌が移る…とハラハラしますが、時代が違うし何より緊急事態です。

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 赤ちゃんのコンデンスミルクとサボテンを絞った水が尽きる前に、砂漠を越えてニュー・エルサレムにたどり着かなければなりません。3人はひたすら歩き続けますが、最初にキッドが力尽きます。次にピートが岩場で転倒して足の骨を折り、拳銃で自ら命を絶ちます。

 ボブだけが命からがらニュー・エルサレムにたどり着きます。町の酒場で自分にビール、赤ちゃんにミルクを注文したところに、アリゾナの保安官のスイートが現れます。水場で亡くなった赤ちゃんの母親は、なんと彼の姪だったのです。スイートは姪を殺したのがボブだと誤解していて、拳銃での勝負を挑みますが、ボブは拳銃すら持っておらず、その場で崩れおちます。

 さて、僕はここまで見ていて、ボブは命がけで赤ん坊を守っていましたが、果たしてそれは単にか弱き存在を守りたいという思いであったのか、それとも父親のような気持ちが芽生えての行為なのか非常に気になっていました。おそらく2日、長くても3日くらいでしたが、オムツを交換した場面は一度もなく、コンデンスミルクも与えていたのかどうかよくわかりませんでしたが、町まで赤ん坊を抱き抱えて守り通しました。

 場面は変わり、スイートとボブが留置場でチェスをしています。食事の時間になると、スイートの自宅に2人で向かい、スイートの奥さんの手料理を食べます。赤ん坊はスイートの奥さんが面倒を見ています。強盗罪に問われた裁判とともに、ボブは子どもの養育権をスイート夫妻との間で争っていました。ボブは「自分の子どもである」と主張し、譲ろうとしません。命がけで守り通した赤ん坊を自分の子どもだと主張する姿に、なんと素晴らしい里親映画だと心打たれてしまいました。

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◇『三人の名付親』DVD発売中 2980円(税別)
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古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

〈古泉智浩 里親映画の世界〉イントロダクション―僕の背中を押してくれた「里親映画」とは?

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