〈古泉智浩 里親映画の世界〉米国の里親制度をきれいごと抜きで描く vol.19「インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました」

子育て世代がつながる

古泉智浩「里親映画の世界」

vol.19 『インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました』(2018年/アメリカ/15歳女児・10歳くらいの男児・4歳くらいの女児/里子)

採点表

 おんぼろの中古物件をリフォームして高値で転売する社業を営むピート(マーク・ウォールバーグ)とエミリー(ローズ・バーン)のワグナー夫妻は仕事に熱中するあまり、子どもを持つ時機を逸していました。不妊治療を検討するのだけど、子どもが大きくなるころには自分たちが高齢になることが心配です。

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 ある日、エミリーは里親依託のネットサイトを発見します。アメリカの里親サイトでは、依託希望の子どものプロフィルが顔写真つきで掲載されていて、「さあ好きな子を選んでください」と言わんばかりです。サイトを見た途端、ピートは涙ぐみ、里親説明会に足を運びます。

 そこには多様な里親希望者がいます。シングルマザーでトップアスリートを育てたいと希望する女性、男性同士のカップルなどが特別視されることなく出席しているところも、さすがアメリカです。里親研修ではけがの応急処置「ファーストエイド」の訓練なども。僕が受けた研修ではなかったので日本でも取り入れてほしいと思いました。

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 数カ月の研修を終えると、養護が必要な子どもたちと、里親希望者との親睦会があります。野外でのパーティー形式で、子どもたちがぶらついているところに、大人が声を掛けてコミュニケーションを取ります。幼い子は早々に親睦が始まるのですが、ティーンエイジャーは人気がありません。「三つ子の魂百まで」という言葉がアメリカにあるのか不明ですが、僕自身、最初に依託されるならやはり2歳くらいまでの子がいいな、と思っていました。

 ピートとエミリーがそんな会話を交わしていると、1人の女の子が立ち上がって彼らに近づいて言います。

 「全部聞こえてんだよ、私らだって嫌々引き取られるのはまっぴらだよ」

 彼女はリジー(イザベラ・モナー)という15歳の女子高生。そう啖呵を切られると引き下がるわけにはいかないピートは積極的に彼女に話しかけ、リジーの率直な性格に魅力を感じます。

 ワグナー夫妻がリジーを迎えてみようかと考え始めたところ、なんとリジーには10歳くらいの弟フアンと4歳くらいの妹リタがいることが判明します。3人姉弟はメキシコ系なのでしょうか、スペイン語でも会話しています。生みの母親は麻薬で逮捕されて服役中です。そうしてワグナー夫妻と3人の子ども、夫妻がもともと飼っていた大きな犬との生活が、おっかなびっくり始まります。彼、彼女らはクリスマスプレゼントをもらったことがなく、自分の部屋を持つのも初めてでした。

 3人も一度に引き取るのは勇気がいったけど子どもたちはみんな、なついてくれてとてもいい子だ、と里親会でワグナー夫妻は語ります。すると他の里親たちがいっせいに笑い出します。

 「それはハネムーン期間だよ」

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 日本の里親を扱ったドキュメンタリー番組でも見たことがあります。引き取られた子どもは最初、とてもいい子にしているのですが、ちょっと安心すると「親試し」という行動が始まります。それまで親から愛された経験が乏しいと、相手の愛情がどれほどのものなのか、大人を困らせる行動がどれだけ受け入れてもらえるのか試してしまう行動です。里親の試練です。幸い僕は2人の子どもが赤ん坊のときから引き取っているため、試し行動の恐怖を感じたことはありません。

 「今に、ひどいことになるぞ」

 里親会の先輩たちが言った通り、しばらくすると子どもたちが荒れ始めます。幼児の女の子、リタはせっかく作った料理を口にせず、ポテトチップスばかり食べたがり、食卓に出さないと叫び声をあげます。それはしかし、どこの家でも見られる「幼児あるある」のような気もします。うちの2歳の里子の女の子は試し行動でもなんでもなく、思い通りにならないと怒り狂います。

 「ガムがいいよう」

 ガムとはポケモンキャンディーのことなのですが、板ガム状なのでそう言います。さすがに2歳児にガムを与えるわけにはいきません。しかも夕食前です。

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 「ダメだよ、さっき食べたでしょ。もうないよ」

 「ガムがいい!ガムがいいよう!」

 テーブルの上のコップを手で薙ぎ払って床に落とし、足で床をどんどん踏み鳴らして怒りを表現します。

 「ダメ、全部食べてもうないよ」

 「ガムがいい~」

 そう言いながら、涙をポロポロとこぼして泣きだします。この子は意地っ張りな反面切り替えも早いので、しばらく放っておくとケロッとしているし、代替え案にもすぐに乗ります。最初に里子として迎え、今は養子となった男の子(5歳)の時は、訳もわからずすべて真に受けていましたが、2人目の今はある程度放っておけばいいことが分かります。

 「じゃあ、ミカン食べるか?」

 「ミカンがいい!」

 直前までこの世の終わりのように泣き叫んでいたのが嘘のようにミカンを口いっぱいに頬張ります。大いに話が脱線してしまいましたが戻ります。

 最も厄介なのは女子高生のリジー。実子であってもややこしい年ごろです。スマホとの付き合い方の問題もあるし、すぐに新しい親に馴染んでいると思われたくない、という意地もうかがえます。彼女が学校の用務員に恋をして、その用務員がとんでもないチンピラであったため大変な騒動に至ります。彼女を外出禁止とし、スマホを取り上げると「私の財産を奪う権利はあなたたちにはない」ときっぱり主張します。

 リジーが朝、髪がからまってうまくとかすことができず困っている時に、エミリーはからまった髪を解きほぐす用の櫛で手伝います。その櫛をリジーにプレゼントして喜んでくれると思ったらトイレに捨てられていました。荒れるエミリーに、リジーも不満を爆発させます。

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 ピートはリジーを個人事業主の自由さでリフォームの解体現場に連れて行き、家具をハンマーで破壊させてストレスを発散させます。リジーはそれまで弟と妹を守るために大人にならざるを得なかったことで、複雑な自我が形成されていったのだと思います。

 「養子縁組してないし、依託里親だから返してしまえば解放されるよね」。音を上げそうになっていたワグナー夫妻でしたが、そのたびに絆を深めてとうとう「パパ」「ママ」と幼い兄妹から呼ばれるようになります。初めてそう呼ばれた時の喜びはどれほどのものなのか、赤ん坊のときから里子を育てている僕には想像がつきません。

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 リジーはハグもさせてくれませんがそれなりに関係を深め、いよいよ養子縁組の手続きに進もうとしていました。ところがある日、実親が釈放されリジーは面会を求めます。実母は麻薬を断ち切りすっかり更生しているように見えました。3人の子どもは、実母のもとに戻ってしまうのでしょうか。

 アメリカの里親制度の現在をきれいごとではなく、それでいてユーモアたっぷりに描いた素晴らしい映画です。何より育児の困難と喜びが正面から描かれています。希望や理想があっても、現実が違えばそれにアジャストする柔軟さがあり、子どもの個性を尊重するワグナー夫妻。僕も里親会などで他の里親さんたちと交流しますが、いい意味で雑な人が多い気がします。雑で型にはめず、明るい人が里親に向いているように思います。

 『インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました』はWOWOWで放送中。放送スケジュールなどはこちら

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古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

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