〈古泉智浩の里親映画の世界〉vol.24「愛のアルバム」 恋愛映画かと思ったら…がっつり里親映画 四苦八苦する父親の姿に共感の嵐

子育て世代がつながる

古泉智浩「里親映画の世界」

 

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※今回は古泉さんのイラストで紹介します。

vol.24『愛のアルバム』(1941年/アメリカ/1カ月/女の子/養子縁組)

 1941年のアメリカ映画です。今から約80年も前の当時の現代のアメリカを舞台にした恋愛映画かと思ったらがっつり里親映画でもありました。まだ太平洋戦争の開戦前で、主人公のロジャー(ケイリー・グラント)が横浜に新聞記者として赴任する場面もあります。道路にはアヒルが歩いていて、人々は着物姿。当時の横浜について詳しくないのでこれでいいのかよく分かりませんが…。


〈前回はこちら 「赤毛のアン」 老いた兄妹だって少女と”家族”になれる


 ジュリー(アイリーン・ダン)がレコード店で試聴担当の仕事をしていると、店の外から彼女に一目ぼれしたロジャーが店内に現れ、27枚ものレコードを購入します。ところが彼は自宅にレコードプレイヤーを持っておらず、その足で強引にジュリーの家に押しかけます。しばらくして交際し始めその年の暮れに2人は結婚します。その後すぐにロジャーは横浜に赴任し、3カ月後にジュリーも追いかけます。横浜の住まいは和風豪邸で、住み込みのお手伝いの家族がいます。そんなに新聞社の待遇がいいのかとジュリーが訪ねると、ロジャーは笑いながら言います。

 「給料を1年分前借りしたのさ」

 大量のレコードを購入したのもそうで、ロジャーは経済観念がゆるいタイプの人物だったのです。そんなロジャーに不安を覚えた直後、大震災が横浜を襲います。その時、ジュリーは妊娠していて和風豪邸は倒壊し、ジュリーは流産しその後子どもを持てない体になってしまいました。

 ロジャー夫婦はアメリカに戻ります。ロジャーは新聞社をやめて田舎町で新聞社経営に乗り出します。元々人に使われるのが苦手でした。

 経営が次第に安定してきて、2人は養子を希望します。

 「2歳の男の子で瞳はブルー、えくぼで巻き毛」

 このような希望を児童相談所の担当の女性オリバー(ボーラ・ボンディ)に伝えます。

 「みんなそう言うわ、でもなぜですか?」

 「私たちの場合は、ちょうど生まれていれば…」

 担当のオリバーも思わず表情がこわばってしまいました。しかし養子を望む人は多く、1年くらいは待つだろうとのことでした。

 ところがそれから間もなく生後5週間の女の子を紹介されます。施設でオリバーに抱かれた赤ちゃんを、ジュリーは入り口から見つけると一歩一歩ゆっくりと近づきます。その時の表情が、まるで恋に落ちる時のようなうっとりとした表情で、なんだか本当に気持ちが分かる。反面、ロジャーは赤ん坊を見てもさほどなんとも思わず、近くにいた4歳くらいの男の子を指さしてこの子がいいと言います。

 「その男の子は?」

 「ここは保育園です。みんな両親がいます」

 保育園を兼ねた乳児院だったようでした。

 女の子の赤ちゃんを預かることになりました。ところが必要なものを看護師さんに聞いたくらいで、研修ゼロのまま新生児の育児をスタートすることに。当時はシステムが整っていないようで、習うより慣れろと言わんばかり。紙オムツも当時はなく、印刷工のおじさんが布巾を三角に折ってオムツを作ってくれました。大きな物音で寝ていた赤ん坊が起きてしまったり…といった失敗など四苦八苦する様子がコミカルに描かれます。ロジャーもしだいにお父さんらしくなっていきます。

 女の子はトリーナと名付けられ、すくすくと成長します。そうしていよいよ養子縁組の手続きのためオリバーが訪ねてきます。しかしロジャーは育児に夢中になりすぎたのか会社経営がおろそかになり倒産し、無収入となっていました。会社がつぶれているにもかかわらず、トリーナを高い高いするロジャーは笑顔いっぱいですが、養子縁組どころではなくトリーナは施設に戻されてしまいそうになります。コロナの影響で僕も仕事が激減して笑っている場合ではないのですが、6歳の長男が最近ポケモンGOを始めて毎日朝晩子どもと町を歩き回って遊び倒しています。これでいいのかな、いいわけないのですが怖いくらいに不安がなく、冷静に考えると心配で頭が変になっているのかもしれません。

 子どもを失いそうになっているロジャーは、制度上どうにもならないとする裁判官に対して必死の訴えで、なんと無収入のまま養子縁組を勝ち取ることに成功します。

 トリーナは小学校1年生になりました。学芸会の演劇で、姿は見せず声だけの出演ながら重要な役割を演じ、来年には天使の衣装で出たいと希望を募らせます。その直後、病気で急死してしまいます。失意のどん底でロジャーとジュリーは離婚を決意します。2人はお互いに自分を責め、相手を全く責めずいたわりながら離婚に進んでいきます。相手を責めないところがむしろ完全に修復不可能な感じがします。愛しあっていても壊れてしまう関係もあるのです。

 ところが最後の最後にそんな2人に希望の光が差し込みます。それは一体何でしょう。ぜひ映画を見てお確かめください!

 育児場面は僕には共感の嵐でしたが、関心のない人には退屈に思えるのではないかというほどたっぷりでした。ジュリーは当然のように、ロジャーがトリーナに夢中になっている様子が素晴らしく育メンでした。この映画は、ジュリーがレコードを掛ける度にゆかりの場面を回想していくという凝った構成でそこも重要なポイントです。

古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

 〈古泉智浩 里親映画の世界〉イントロダクション―僕の背中を押してくれた「里親映画」とは?

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