難聴の娘のためにアプリ開発、無料公開 写真+文字で言葉の学びを支える 世田谷区の吉岡英樹さん

布施谷航 (2020年5月25日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる
 リンゴは「赤い」「まるい」「甘い」-。幼い子どもは視覚だけでなく、両親やきょうだいから「言葉のシャワー」を浴びて耳から情報を受け取り、ものの名前や特徴を覚えていく。では、難聴の子は? 世田谷区の吉岡英樹さん(49)は、まな娘のために、写真と文字を組み合わせて言葉を学べる携帯端末用の学習支援アプリ「Vocagraphy!(ボキャグラフィー)」を開発した。多くの人に役立ててもらおうと無料で配信し「広く活用してほしい」と話す。
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アプリを開発した吉岡英樹さん=八王子市の東京工科大で

言葉を覚えるのが苦手な娘 3歳で難聴の診断

 専門は音楽ビジネス。15年ほど前から、八王子市の東京工科大八王子キャンパスで教鞭(きょうべん)を執る。それまでは、音楽業界で、有名ミュージシャンのレコーディングやCM音楽の作曲を手掛けてきた。

 「やっぱり、そうだったか」。娘の玲菜さん(7つ)が難聴と診断されたのは3歳のとき。医師からは「聴力に異常はないはず」と繰り返し言われていたが、言葉を覚えるのが苦手で「音」への反応からも難聴を疑っていた。

 通常の検査では発見されにくい「オーディトリーニューロパシー」という珍しい症例だった。原因にたどり着くまで時間がかかったが「がっかりしたというより、ほっとした気持ちが強かった。娘に何をしてあげればよいのか、はっきりした」と振り返る。

予想以上の吸収力と学習意欲「新たな可能性」

 学びを支えようと、カードに「いす」「テレビ」などと書き、家中に貼り付けたりした。だが、時間も手間もかかる。2年ほど前、視覚で効率的に言葉を吸収できる方法としてアプリの開発を思い立った。構想を温め、昨年に案を開発会社と協力して完成させた。

 アプリは、携帯端末で撮影した写真に、さまざまな説明を添付できる。大根なら名前とともに「白い」「長い」「辛い」などの言葉を登録し、画像と照らし合わせて学べる。玲菜さんは1月からアプリで学習を始めると、予想以上の速さで言葉を習得。「子どもの吸収力と学習意欲に驚かされました」。何より努力する姿に心を打たれたという。

 効果を確信し、娘の誕生日に合わせて3月10日に無料配信を始めた。今は、英語版を欧米やオーストラリアでも公開する。娘と一緒に学んだことを生かそうと昨年、学内に「聴覚障害支援メディア研究室」も立ち上げた。「聴覚障害者の支援のため、新たな可能性を開いていきたい」と語る。

アプリ「Vocagraphy!」

 現在はiPhoneやiPad向けに配信しており、無料で入手できる。夏ごろまでにはAndroid版も開発予定。詳細は「Vocagraphy!」のサイトで。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年5月25日

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