【反響編】離婚後の共同親権 識者の意見は? 木村草太さんと小田切紀子さんに聞く

小林由比、長田真由美 (2022年9月23日付 東京新聞朝刊)
 離婚後の子どもの養育を考える記事「離婚後の『共同親権』は子どものためになるのか」(2022年8月19日公開)には、多くの反響が寄せられた。目立ったのは、離婚後の親権を父母のどちらかに限る「単独親権」のままでいいか、両方の親が持つ「共同親権」を導入すべきかについての意見だ。読者の声を紹介するとともに、親権制度を法的な観点から解説している木村草太・東京都立大教授と、離婚後の親子の交流支援の重要性を訴える小田切紀子・東京国際大教授の話を伝える。

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東京都立大・木村草太教授「単独親権でも交流は可能。子に会えないのは親権の問題ではない」

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東京都立大の木村草太教授

別居親の「暴力の道具」になる恐れ

-離婚後の共同親権を求める理由に「別居親が子どもと会えなかったり、子育てに関われなかったりするケースをなくすため」という主張がある。

 「子に会えない」というのは非常に同情を買う言葉だが、親権の所在にかかわらず、面会交流を求めることは現行法でもできる。子に会えないケースには、

  1. 本人が手続きしていない
  2. 裁判所が子の利益にならないと判断
  3. 面会交流命令が履行されていない

の3パターンがあり得る。いずれも親権の問題ではない。親権がどこにあろうと、離婚後の父母が子どもについて相談することは全く禁止されておらず、共同親権を取り入れている海外の考え方から大きくずれているわけではない。

-離婚後も共同親権になると何が変わるのか。

 両親に積極的で真摯な合意がない場合にまで強制的に共同親権を継続する制度になれば、子の利益を害する。共同親権になると、引っ越しやワクチン接種、進学、海外旅行など重要事項の決定に別居親の同意が必要となる。両親が話し合いできない関係の場合、重要事項がスムーズに決定できなくなる。

 例えば、別居親の反対で子どもと同居親が望む引っ越しができなかったり、別居親が子育てに無関心になり音信不通となった結果、海外への修学旅行に必要なサインをもらえずに断念したりといった事態も起き得る。ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待があるケースでは「サインが欲しければ会いに来い」といった暴力の道具になる恐れさえある。

強い被害感情 自省への支援が必要

-DVや虐待が立証されれば、共同親権から除外すればいいとの意見もある。

 共同親権に必要なのは両親の協力関係だ。DVや虐待が立証されなかったとしても、相互に話し合える信頼関係のない場合、子についての決定がスムーズにできないため共同親権に向かない。また、DVの完璧な立証は難しいという理解も不可欠だ。

-法制審議会(法相の諮問機関)で1年半議論しても意見はまとまらない。

 家族法は仲の良い関係を支援、保護することはできるが、仲が悪いものを良くすることはできない。壊れた関係を無理やり戻すために法律を使おうということ自体が無理筋だ。

 子連れ別居に直面した当事者がショックを受け、強い被害感情を抱くことは理解できる。ただ、住み慣れた家を子連れで離れる選択には、共同生活を続けられない重大な問題がある場合がほとんど。その原因を自省し、信頼関係を回復しようという気持ちに向かう支援の枠組みが必要だ。

木村草太(きむら・そうた)

 専門は憲法学。子どもの権利、差別されない権利、平等原則などが研究テーマ。

東京国際大・小田切紀子教授「発達段階に応じて、別居親も対等な立場で子育てに関わるべき」

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東京国際大の小田切紀子教授

共同親権で社会の意識を変えられる

-共同親権で両親が共に育てることが子どもにとって大事だと発信している。

 離婚後も子どもが両方の親と日常的な交流を持つことで、離婚による子どもの心身への影響を和らげることが国内外の研究で分かっている。そのために、子どもが安心して安全に交流できるよう、面会交流の支援団体のようなインフラを整えることが必要だ。

 調停や審判で決まる日本の面会交流の多くは月1、2回。一方、私が専門に研究している米国では、子どもが日常的に別居親と会っている。例えば3歳児は記憶の容量が小さいので、月に1度ではすぐ忘れる。発達段階に応じて、別居親も対等な立場で子育てに関わるべきだ。共同親権の導入によって、離婚後も2人で子育てする「共同養育」がスタンダードなことだと社会の意識を変えていける。

-DVや虐待がある場合、加害親も親権を持つことを危ぶむ声がある。

 DVや虐待があれば特別な配慮が必要で、子どもの安全が保障されるまでは加害者の親に会わせるべきではない。事実関係をしっかり調べて、加害者に適切な教育をするなど、法務省や内閣府が体制を整えるべきだ。

 ただ、離婚の中には、加害者でないのに子どもに会わせてもらえず、養育に関与できない人もいる。親として適性がある人もおり、一律にどちらか一方に親権を与えるのでは不公平ではないか。

重要事項の決定にはADRの活用を

-対立する親同士が親権を持つ場合、子どもの進路や医療方針など重要な事項で合意できるのか。

 重要事項を決めるには、裁判外紛争解決手続き(ADR)をもっと活用できる。第三者が関与して話し合いを進め、家裁の調停よりも時間がかからない。さらに離婚にあたり、その後の子育てについて両方の親が学ぶべきだ。共同養育の知識やスキルを伝える「親ガイダンス」を義務化して、子どもにとって離婚がどんな影響を与えるのか説明する。これにより、ある程度双方の葛藤がエスカレートすることを防げる。

-DV被害者への支援が十分でない今の日本では、共同親権の導入は時期尚早という声もある。

 既に社会資源はある。ADRがあり、親ガイダンスが実施できる。各県に臨床心理士会があり、親の心理相談にも乗れる。これらを連携させて、共同親権と同時に導入すればいい。

 離婚後の養育では「子どもの意思が大事」と言いながら、現状は子どもの気持ちや考えを聞けていない。子どもには自分の気持ちを聞いてもらう権利がある。スキルがある専門家が丁寧に聞き取り、寄り添った支援をすることが理想だ。

小田切紀子(おだぎり・のりこ)

 親が離婚した子どもの心理が専門。米国の支援体制に詳しい。公認心理師、臨床心理士。

表 親権制度を巡る動き

法制審でも賛否 パブコメは先送り

 離婚後の子どもの養育に関する法制度を議論する法制審議会の部会で、2021年3月からテーマの一つとなってきた離婚後共同親権制度。裁判官や弁護士、大学教授らの委員の中でも意見が割れたまま、中間試案の取りまとめに向けた動きが進む。

 試案は、進学や医療などの重要事項決定権などが含まれる親権を離婚後も父母が共同で行使できるようにする案と、現行通り父母の一方を親権者とする案を併記した形で、当初は先月末に決定し、その後パブリックコメント(意見公募)が実施される予定だった。しかし、自民党内で「分かりにくい」などの声が出たことなどから、先送りとなった。

 自民党法務部会は今年6月、古川禎久法相(当時)に共同親権制度導入を求める要望書を提出。一方、DV被害者の支援団体などからは家庭内にDVがあった場合、被害を継続させるとして、導入に反対する声が上がる。

読者の声は?「親同士が歩み寄れるのでは」「子どもの声を押しつぶす制度になりうる」

 ◆子どもにとって何が一番良いのかが大事。子どもは両親から愛情を受ける権利がある。両方の愛情で満たされてこそ健康に成長できる。虐待が懸念される場合は別として、共同親権にして両親が子どもを育てることが妥当だ。=横浜市、男性(78)

 ◆共同親権は、離婚後に子どもが進学したり、医療を受けたりする時に、別居親の「許可がいる」ということが本質だ。別居親が「ダメ」と言えばできなくなる可能性があり、子どもの声を押しつぶす制度になり得る。=埼玉県、男性(52)

 ◆親権を持つ方が立場が強く、物事を決められるという風潮が社会にある。どちらかにしか親権がない状態は、親権争いのもとにもなる。共同親権も選択できれば、離婚後も親同士が歩み寄る可能性が高くなるのでは。=埼玉県、男性(50代)

 ◆離婚後も父母が共に子どもに関わるべきだというのは響きがよく、一般論としては肯定する人が多いと思うが、実際には理想論。法律で認めないと協力できない元夫婦に選択的でも共同親権を認めると、無用な争いが増える。=兵庫県、女性(40)

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  • says:

    そもそも日本の法律で共同親権にしろという関係性の両親の不仲な関係が既に子どもにとって児童虐待というのが海外では一般的だし、養育計画なんてのも海外では子どもは計画通りに育たないのだからと見直しされてるのが現在の世界の状況だし、共同親権で面会交流中に年間千人単位で人が死んでる国もある訳で、世界で見直しされてる問題のある制度の後追いをする必要があるのかというのもあるだろう。

    それよりも日本の現状にあった制度にする事が必要。

    連れ去りだの言い合う関係性の両親で共同養育は無理だし、子どもに実親が必要というより適切な養育環境が必要なのだから国がそれをメインに制度設計すれば良いとおもう。その中で必要なら面会交流を国が介入して進めれば、問題も解決する。

    そもそも会わなくなったら子どもを忘れる様な親に子どもが交流しても愛情を感じる事はないだろう。単なる養育費の支払いの対価に子どもに別居親のご機嫌を取れと言ってるのと同じにしか子どもは感じないだろう。

    傑 男性 20代
  • 子供は母親のもの says:

    内容ずれていたら済みません。
    私は子供を親権争いで敗れてもう20年近く経ち、すっかり子供のことは忘れました。
    男は一緒に育てて愛情が出ると思いますので、共同親権がいいかと思いますが、現実dvとか同性婚と同じ問題で難しいのでしょう。
    一部の本当のdvの方と親権争いに使われるdvと同様に扱われ法定争いに使われるのは見てられません。
    子供も成人になって真実はわかったりするもので、人間がいつも正しい判断できない以上、第三者が見てよほど問題ない限り共同親権が良いと思います。

    子供は母親のもの 男性 50代
  • ゆうき says:

    自分自身、面会交流で両親の元を行ったり来たりして育った子どもの立場です。

    自分の経験でいうと自分の様な育ち方はオススメしません。

    友達との約束も面会実施の親の都合で断らないとならないので、友人との約束もまともに出来ず、疎外感に苛まれたり、いじめにあったりしました。

    子どもからしたらそんなに親の影響は友人よりは受けません。離婚も珍しい事ではないのでそこまで影響はないが、学校生活や友人関係の時間を制限されると子どもは本当はに辛いです、それこそ親の都合で振り回される事を離婚後まで持ち越さないで欲しい。

    共同親権は、進学や就学旅行の許可も別に住む親の許可が必要だと言います。正直面会交流でも、別に住む親に面会交流を断ると親権をこちらにすると脅された事もあるので、そんなことをしたら子どもの人生は親の操り人形になりそうで、子どもたちからしたら、自分の時を考えると自殺も考えるほど深刻な影響をうけると思います。

    親が皆、子どものことを考える親ではないです。子どもを使って、親同士の争いの道具にする親は友人の話など聞く限り実感として多いです。

    共同親権では無い方法で子どもの権利を守る対策をする方が子どもの為になると思います。

    ゆうき 男性 20代
  • タロウ says:

    木村さんの意見は、現実に即していないと思いました。

    まず、親権親が感情的に会わせたくないだけで、面会交流は行われません。DVでなくても、まともな親でも会わせてもらえません。親権を持っているだけで、子供と片親を断絶する権利を持つのです。

    例えば、DVをしている親が連れ去っても、そちらの親に親権が行きます。被害を受けている親が子供と会えなくなるケースは少なくないです。

    この方達は、何をどう頑張っても、DV側の親から子供を守ることは出来ないでいます。単独親権だからです。

    複数の血縁関係のある大人に見守られて愛情を受けながら育つのが当たり前ではありませんか?

    木村さんのような机上の空論ではなく、小田切さんのように、現実的な話でなくてはならないと思います。

    タロウ 男性 40代
  • たま says:

    木村先生の御意見の方が現状的にはしっくり来るかと思いました。

    現時点での解決が難しい問題を先送りして、共同親権に過剰な期待をしている点が危ないかと。養育に関する諸費用だったり、子育てに関する負担配分だったり、DV(精神的/肉体的/金銭的等)だったりと離婚に至る経緯や離婚後の不安がある夫婦にとっては、その問題を解決する、或いは、必ず守ってもらえると言う保証が無ければ、共同親権は単純に精神的/肉体的/金銭的な負担増加になるでしょう。

    例えば、共同親権だからといって、子供に関わる養育、教育他、現時点で問題になりやすい費用関係の問題は、現行法で実質的な強制力が無いため、解決できないままではと危惧します。良識のある方なら決まった養育費はそもそも、払うでしょうし、何らかの事情があって難しい場合も相談をしてくるでしょう。しかし、そもそも払わなかったり、故意に相手の評判を落として減額/支払い拒否をしたり、弁護士を通して等取り決めがあっても直接相手方に接触して自己の利益優先を了承させようとしたりするケースもあります。

    親の考え方、それまでの生育環境に子供の考え方/行動が大きく影響されることも、非常に大事な点です。単純に意見を求められても、自分の本来の希望とは異なることを無意識に選択する可能性や、どちらかの親が意識的な誘導をする可能性も考慮が必要です。これは、親権を持つ持たないに関わらず注意が必要かと。

    子供の権利と子供に関わる義務について、理想論ではない議論と法整備が必要です。児童相談所の抱えるケースの多さ、複雑化、多様化だけを見ても簡単に解決できる問題ではないことは明白です。また、ひとり親家庭へのサポートが間に合っておらず、苦しい状況になっているケースも経済の悪化にも影響され、今後の増加も懸念されますが、具体的、根本的な対策はないです。

    性善説や常識に善処を期待するのは、当事者への丸投げです。ましてや、言葉の響きに期待や解決を求めるのは、間違っています。

    たま 女性 40代

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