発達障害の16歳息子が「ドラムの先生」に 長所を伸ばした両親が教室開業 将来の自立のために

青木孝行 (2022年4月6日付 東京新聞朝刊)

ドラム教室を開業する(左から)原嶋勝巳さん、友くん、美香さん=東京都板橋区で

 発達障害のある人が就労する時の課題の一つが、特性や関心事に合った仕事とのマッチングだ。東京都板橋区の夫妻は、発達障害の息子に多くの習い事や体験をさせることで特性を探り、「ドラマー」という結論を導いた。自宅に音楽スタジオを新設し、5月にドラム教室を開業する。息子も指導役として働き、将来の自立を目指していく。 

3歳で「自閉スペクトラム症」の診断

 夫妻は、会社員の原嶋勝巳さん(50)と、美香さん(46)。一人息子で特別支援学校高等部2年の友くん(16)=仮名=は、1歳半健診で言葉の遅れなどを指摘され、3歳の時に広汎性(こうはんせい)発達障害(ASD、自閉スペクトラム症)と診断された。

 友くんの将来について漠とした不安を感じていた夫妻。しかし、療育施設に通って徐々に発声が上達する友くんの姿に、「長所を見つけて伸ばし、それを職業に生かせば、心豊かな人生になるのではないか」との思いに変わっていった。

習い事や体験で特性を探っていくと…

 友くんは同校小学部に入学して以降、英会話や国語、算数などの学習教室、リトミック、サッカー、スキーなどさまざまなことに挑戦。音楽ゲーム「太鼓の達人」に興味を示したのは7歳の時だった。家庭用ソフトを買い与えると、無我夢中でリズムに合わせて太鼓をたたいた。普段と違う楽しそうな表情に、夫妻は「ドラムが好きになるかも」とピンときて、友くんを月2~3回、ドラム教室に通わせ始めた。

自宅に作った音楽スタジオでドラムをたたく原嶋友くん。広報は父勝巳さんと母美香さん=東京都板橋区で

 ただ、友くんは演奏に有利なリズム感や記憶力、集中力がある一方、コミュニケーションがうまく取れなかった。そこで勝巳さんが橋渡し役を務め、音楽イベントへの出演機会を用意。友くんは大勢の前で演奏を披露することで自信をつけ、苦手だったあいさつもできるようになった。

模範演奏を担当 障害ある子も受け入れ

 同校中学部に入ると、演奏の腕前も一段と上がり、今までに出演したイベントは68を数える。夫妻は「ドラムなら続けられ、仕事にもつながる」と考え、自宅でドラム教室を開業することを決意。約3年前からスタジオ作りを始め、勝巳さんもドラムの演奏技術やレッスンの進め方などを学んできた。現在の勤務先は今月末で退職し、教室の運営に専念するという。

 教室名は「ともくんみゅーじっくすたじお」。子どもから高齢者まで初心者を中心に、障害のある子どもも受け入れる。レッスンは1回45分で、勝巳さんや専任講師が指導。友くんはデモンストレーターとして模範演奏などを行い、1レッスンごとに報酬を受け取る。料金は初心者向けが月2回で1万3000円など。問い合わせは、教室のメール=tomokunmusicst@gmail.com=で受け付けている。

発達障害のある18歳以上で正社員は23.9% 「小学生の頃からのキャリア教育が重要」

 独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」などが2014年、発達障害のある18歳以上の人に聞いた調査では、回答した就業者約600人の雇用形態はパート・アルバイト・非常勤が42.3%で最多。正社員は23.9%だった。平均勤続年数は4年弱で、離職理由は「職場の人間関係がうまくいかない」「仕事が合わない」などが挙がった。

 早稲田大教育・総合科学学術院の梅永雄二教授(発達障害臨床心理学)は「日本の企業は対人関係を重視する傾向にあり、ASDの人の就労環境は改善していない」と指摘。「自分に合った職業に就くには、小学生の頃からのキャリア教育が重要。成長に応じて職場を見て体験するという段階的な就労支援が必要だ」と話す。