料理研究家・SHIORIさん 難聴の息子を「ハッピーボーイ」に 夫婦で変えた生活スタイル

長田真由美 (2023年9月10日付 東京新聞朝刊)
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仕事と療育について話す料理研究家のSHIORIさん(伊藤遼撮影)

カット・家族のこと話そう

出産後に告げられた「難聴の可能性」

 息子(4)に難聴の可能性があると告げられたのは、出産した3日後でした。初めての出産で喜んでいたのもつかの間、新生児聴覚スクリーニングという聴覚検査で判明。不安で胸が張り裂けそうで、息をするのも苦しくなりました。3カ月後の精密検査で、「重度の先天性難聴」との診断が確定した後、私もようやく現実を受け入れて、前を向かなくてはと思うようになりました。

 子どもが難聴と分かった場合にどんな方法を取るかについては、いろんな選択肢があります。補聴器や人工内耳を取り入れたり、手話を第1言語にしたり。わが家は夫と話し合って、生後半年でベビー用の補聴器をつけました。ただ、音への反応は見られず、ショックでした。

 そんな頃、人工内耳をつけて元気に過ごす女の子に出会いました。流ちょうにおしゃべりする姿を見て、子どもの成長は希望に満ちている、息子の未来も明るいんだと気付き、1歳になって人工内耳の手術を受けました。

 難聴は医療が進歩していて、早期発見・早期療育がとても大事だといわれます。発達を支援する療育を早くから受けることで、言葉が習得しやすくなるからです。息子は生後半年から療育に通っています。療育には時間とゆとりが大事なので、私も仕事のスタイルを変えました。

家族で一緒に過ごすことを第一に

 2019年に出産するまでは、料理の楽しさを伝える仕事が生きがいで、朝から晩まで働いていました。息子のために仕事をやめることも頭をよぎりましたが、やめたら私らしくいられず苦しくなるんじゃないか、人や社会とつながる接点でもある仕事はやめないでおこう、と思いました。

 締め切りがある雑誌や書籍の仕事はやめ、ライフワークだった料理教室も拘束時間が長いので断念。自分のペースでできるユーチューブを始めました。始めるタイミングとしては遅いけど、今できることをしようと、自宅のキッチンから料理の動画を配信しました。ちょうどコロナがはやり始め、インスタグラムで無料配信したら好評に。有料のオンライン料理教室の開催につながりました。

 美容師の夫も、息子のために週に2日は時短勤務をするなど、生活スタイルを変えました。家族で一緒に過ごすことを第一に、息子をハッピーボーイにしようと2人で助け合っています。

 息子は今では歌も歌い、おしゃべりもたくさんしていますが、人工内耳でも健聴者に比べて聞こえにくさ、聞こえづらさはどうしてもあります。ざわざわした場所や大勢での言葉のキャッチボールは聞き取りにくい。これからも彼が乗り越えなければならない壁はたくさんあると思います。そのときどきに応じて、伴走してあげたいです。

SHIORI (シオリ) 

 1984年生まれ、埼玉県出身。小学校低学年の時、授業で習ったサラダを家で作り、家族に喜ばれたことを機に料理好きに。22歳でレシピ本「作ってあげたい彼ごはん」を出版。以後、同シリーズがベストセラーになり、著書累計は417万部超。現在は、約9000人の生徒が参加するオンライン料理教室「l’atelier de SHIORI Online」を主宰する。

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