子育てに行き詰まったら「こども家庭センター」を思い出して 妊娠中から職員が伴走、地域の支援体制が変革しています

 「こども家庭センター」って聞いたことはありますか? こども家庭庁が2026年度中に全ての市区町村で設置を目指す子育て支援の拠点です。私は子どもが0歳のころ、乳幼児の遊び場があって、ついでに相談もできる子育て支援センターや児童館によく通っていましたが、それと一体何が違うのだろうとずっと気になっていました。こども家庭センターができたことで何が変わるのでしょうか。
図解 こども家庭センターの役割

子育て支援の2拠点を1つに集約

 こども家庭センターとは、妊娠期から乳幼児、学童期を経て18歳になるまで切れ目なく親子を支える市区町村の部署です。

 子育て支援はもともと、妊産婦と0~6歳の未就学児の健康を支える母子保健の拠点「子育て世代包括支援センター」(母子健康手帳交付や乳幼児健診など)と、17歳までの子どもと親の相談を担う児童福祉の拠点「子ども家庭総合支援拠点」(支援が必要な親子のサポートや虐待対応)に分かれていました。

 この支援の垣根をなくそうと、2つの機能を維持した上で統合したのがこども家庭センターです。

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業務を報告する八王子市こども家庭センターの統括支援員ら(八王子市提供)

 そのため業務の幅は広く、子育て相談を受けることもあれば、支援を必要とする保護者・子どもへのサポートプランを作成し、支援メニューの中から家庭に合うサービスをコーディネートするなど専門的な支援も行います。2024年4月に設置が自治体の努力義務となりました。

 これまで母子保健と児童福祉という別々の部署で働いていた職員の指揮を執るため「統括支援員」が置かれました。ちなみに、センターの名称は自治体によって「こども家庭支援センター」「こども家庭総合支援センター」などさまざまあります。

 と、説明されてもイメージがわきにくいと思うので、保護者としてどのように利用できるのか、東京都八王子市のこども家庭センターに、実際にあったケースをもとに支援のイメージを教えてもらいました。

こども家庭センターの支援のイメージ

 八王子市のある母親は、4歳になった長男の自由奔放さに手を焼いていた。「またイヤイヤ期がでてきた気がする。イライラして自己嫌悪になる」。4月、こども家庭センターに電話してみると、母子保健を担当する保健師が心理相談員との面談を設定してくれた。母親は、「イライラすると手を出しそうになる」と打ち明けた。「再来年には小学校に上がるというのに、保健師さんの支援は就学前までで終わりですよね」と不安そうにする。

 心理相談員は、イライラした時は具体的にどうすればいいか、ヒントをくれた。同席していた保健師は相談後、「小学校に上がっても、中学・高校に進んでも、困った時はこども家庭センターに相談してくださいね」と言い、就学後の担当になる児童福祉の職員を紹介してくれた。母親は子どもの所属が変わっても同じ場所で相談できると知り、12月の今でも不安に思うことがあるとこども家庭センターに電話している。

イラスト こども家庭センターの支援のイメージ

 一人では不安に感じる子育て。子どもが何歳になっても職員が伴走してくれるのですね。心強いです。

迅速に支援につなげるように

 八王子市のこども家庭センター担当者によると、センターを設置する前は、虐待予防に力を入れる母子保健の担当者が気になる家庭を把握しても、児童虐待の通告対応も行う児童福祉担当とは担うフィールドが異なるため、「相談してもいいのかな」という心理的ハードルがあったそうです。今は同じ部署の職員として顔の見える存在になり、頻繁に合同ケース会議を開くため「『協働して早く支援に入りたい』と双方の職員の意識が変わってきている」と変化を語ります。

 一方、「こども家庭センターができたといっても市民のみなさんからは名前が変わっただけなので、変化が見えづらいかもしれません」と話すのは、千葉県の松戸市こども家庭センターの統括支援員・渡部圭子さん。

 名称の変更だけで済んだのは、2013年度から独自に母子保健と児童福祉が同じ課で連携してきたからです。母子保健の担当者(社会福祉士)を児童福祉と兼務にすることで、母子保健の視点で困難を抱える親子に気付いたら、早期に児童福祉につなぐよう取り組んできました。こども家庭センターになり、「初動が早くなり、適切な支援につながるスピードも上がっている」と実感を込めます。

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松戸市こども家庭センターの仕組みを説明する統括支援員の渡部さん(左)

当事者の声を聴きながら

 こども家庭センターの大きな役割の一つは、合同ケース会議を活用した母子保健と児童福祉の一体的支援です。サポ―トしたい保護者や子どもについて、母子保健と児童福祉の知見を生かして協議します。松戸市では、月2回の定例会のほか、即時対応が必要な場合に随時開いているとのこと。双方の管理職も入り、これまで別々の会議で決めていたことを共に意思決定することができ、担当者間でスムーズな情報共有と一体的支援ができるようになったといいます。

 合同ケース会議で共有する「サポートプラン」も強化されました。妊産婦へのサポートプランは、従来、母子保健担当の保健師や助産師が妊産婦に「なりたい母親像」を聞いた上で、どんな支援が必要かを考え、作られてきました。一方、児童福祉担当者による子どもへのプランは、対面し意見を聞きながら作成するという文化は全国的にほぼなかったそうです。

 2024年施行の改正児童福祉法により「支援が必要な子どもや妊産婦と一緒に計画を作成すること」とされ、子どもとも対面で聞き取った意見を踏まえてプランを作ることが新たに求められるようになっています。

 渡部さんは、こども家庭センターの職員が家庭訪問すると、「『誰が通報したのか』『子どもを連れて行かれるのではないか』と警戒されることが少なくない」といいます。「そうではなく、サポートできることを一緒に探すので、気軽に頼ってもらえる存在でありたい」と呼び掛けます。

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松戸市のこども家庭センターが入るビル

防げなかった虐待死を教訓に

 なぜこども家庭庁は、センター設置に力を入れるのか。背景にあるのは、数々の子どもの虐待死事件で指摘されてきた関係機関の連携不足です。

 2018年の東京都目黒区で船戸結愛ちゃん(当時5歳)が親から身体的虐待を受け「もうおねがい ゆるして」とノートに書き残して亡くなった事件。都の検証報告書によると、子ども家庭支援センター(当時)は「先に児童相談所が家庭訪問を行うので、センターの訪問は待つようにとの方針を受け、以降は児相の判断待ちになっていた」と、区と児相の連携不足を指摘。さらに「保健機関は、虐待対応は子ども家庭支援センターや児相が主担当との認識から、本家庭に主体的に関わることはなかった」と、区の母子保健と児童福祉の連携不足を指摘しています。

 そこで母子保健と児童福祉の垣根をなくし、市区町村の相談・支援機能を強化しようとセンターの設置を掲げています。市区町村を強化することで、児童虐待の問題が重篤化する前に、支援を必要とする家庭に注力できるようになれば、児童相談所が担当するケースが減るという期待もあります。

こども家庭センターの業務

  • 妊娠・出産期のサポート、子育ての相談
  • 支援を必要とする子どもや妊産婦へのサポートプランの作成
  • 支援サービスの活用推奨
  • 地域資源の開拓
  • 保育園や学校など関係機関との連携

児童相談所の業務

  • 児童虐待への対応(介入・一時保護)
  • 高度な専門支援(重篤な虐待や非行事例への心理的支援)
  • 社会的養護による支援(里親委託・施設入所、親子関係再構築支援)
  • 法的措置を含む対応

 全国の市区町村で設置するには、課題もあります。

 2025年5月時点の設置率は、平均で71.2%。未設置の501市区町村のうち、31.3%にあたる157自治体は設置のめどが立っていません。

 設置を阻む理由としては、人材の確保が75%と最多。サポートプラン作成・手交の方法など職員間で計画的支援の理解が進まない(64%)、既存組織や命令系統の再編が難しい(60%)でした。

 こども家庭庁は、小規模で子どもの数が少ない場合は、複数の自治体で共同設置することを呼び掛けるほか、ガイドラインや実践ポイント集を公開。合同ケース会議の工夫の仕方やサポートプランの作り方など、先行自治体の事例を交えて紹介しています。人件費や開設準備費用など財政支援もしています。

子どもと子育てにかかわる大人が気軽に利用できるセンターへ

 こども家庭庁の担当者は、サポートプランの活用に自治体間格差があるといい、「プランを一度作って完了ではなく、継続的に当事者と話し合いながら支援をコーディネートする使い方が広がってほしい」と話します。

 センター設置のため自治体にアドバイザーを派遣している西日本こども研修センターあかし・藤林 武史センター長は、「サポートプランを作る余裕がないという現場の声がある一方で、サポートプランのおかげで支援に入りやすくなったという声も聞く」そうです。これから設置数は増えていきますが、きちんと機能するように「職員の研修機会を増やすなど、都道府県の責任は大きい」と指摘します。

 また、「特別な人のためのセンターではなく、子育てにかかわる大人と全ての子どもが気軽に利用できるような、地域に身近な存在になっていってほしい」と期待を込めました。

編集後記

 こども家庭センターは、親子支援の縦割り行政をなくし、保護者や子どもに伴走していく機関だとわかりました。全国で、親子を支える行政のサービス向上につながってほしいです。一方で、困っても、誰かに相談することをためらう人も少なくないと思います。そんな親子でも気軽に訪れられるように、遊んだりくつろいだりできる居場所が併設されていてほしいと感じました。

 私はかつて、子育て支援センターで子どもと遊ぶついでに「ミルクを全然飲んでくれない」と相談し、職員に「赤ちゃんは自分から餓死することはないから、無理に飲ませなくても大丈夫」と言ってもらえて安心しました。「誰かを少し頼ってみる」の選択肢に、こども家庭センターが定着していきますように。

筆者 東京すくすく編集長 浅野有紀

写真 東京すくすく編集長 浅野有紀

1988年、岐阜県生まれ。2013年中日新聞社入社。23年から中日新聞東京本社(東京新聞)東京すくすく部。ウェブメディア「東京すくすく」の編集長を務める。子どもが子どもらしく生きられる社会のために、虐待や孤育てを防ぐ取り組みなどを取材。長女は4歳で一人っ子ですが、ファミサポなど行政に助けてもらっています。

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