心臓バクバク。落ち着け、親の俺。泣きそうだ〈加瀬健太郎 お父ちゃんやってます!〉

夏休みといえば部活。中学に入り吹奏楽部の見学に行った際、部員の欲しい先輩らに過剰に褒められ入部を決めた次男は、この暑い中、長袖ワイシャツにネクタイで練習に行く。お昼すぎ、そのワイシャツをべっとり背中に張り付けて帰宅すると、「もっと楽な部活にしたらよかった」と麦茶を一気飲みする。
中3の長男はバスケ部で最後の大会。この3年間、シャイな長男に、「絶対に試合は観(み)に来ないでよ」と、まるで「鶴の恩返し」のように強く念を押されていた。しかし、これでほんとに最後。僕は帽子を目深にかぶり、サングラスをかけ、大会会場の2階席の柱の陰に潜んだ。

試合開始早々。大きな相手選手をものともせず、ボールを受けて反転し、パサッとリングネットを揺らすシュートを放ったのは、紛れもなく長男だった。興奮した。僕の推し、阪神タイガースの佐藤輝明選手が1試合にホームランを2本打った時よりもがぜん興奮した。心臓がバクバクした。落ち着け、親の俺。泣きそうだ。いや少し泣いた。

正直に言います。これまで、子どもの習い事に入れ込む親を見ると鼻白んでいた僕は、息子の青春のおこぼれをちゅうちゅう吸う夏の蚊になりました。嫌がられても、もっと見に行っておけばよかった。翌週の試合。帽子もサングラスも外して、コートサイドに陣取り応援した。手のひらがかゆくなるまで拍手した。長男のチームは負けてしまった。でも、最後まで一生懸命走ってた。泣きそうだ。いや少し泣いた。
加瀬健太郎(かせ・けんたろう)

写真家。1974年、大阪生まれ。東京の写真スタジオで勤務の後、ロンドンの専門学校で写真を学ぶ。現在は東京を拠点にフリーランスで活動。最新刊は「お父さん、まだだいじょうぶ?日記」(リトルモア)。このほか著書に「スンギ少年のダイエット日記」「お父さん、だいじょうぶ?日記」(同)「ぐうたらとけちとぷー」(偕成社)など。15歳、12歳、8歳、4歳の4兄弟の父。これまでの仕事や作品は公式サイトで紹介している。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい











お父ちゃん、おにいちゃん、ぐっときました。とてもいいエピソードありがとうございました。