<ホンネで学ぶ性のこと 瀧波ユカリが聞く性教育講座>望まない妊娠は自業自得?「男消し構文」に潜むもの

【第3回】 何をどうやって子どもに説明すればいいのか悩んでしまう「性教育」。学校での性教育は十分とは言えず、親や友達と本音で語り合える場もあまりありません。SNSなどネット上には玉石混交の情報があふれ、子どもたちは大人が伝えるより先にいろんな情報を仕入れています。性について正しい知識を得て、自分ごととして考えてもらうには、どうすればいいのか。「東京すくすく」で「しあわせ最前線」を連載中の漫画家、瀧波ユカリさんと、晴海ウィメンズクリニック(東京都中央区)の三島みさ子医師が、性教育について「本音」で語り合いました。今回は3回連載の第3回です。
【第1回】いつから必要?何をどう話す?
【第2回】遅れている日本…父親の出番です
【第3回】望まない妊娠は自業自得?「男消し構文」に潜むもの
「幽霊」のように男性が消える
瀧波 性教育って人権教育と重なるところがすごく多いと思います。日本では女性差別については人権教育であまり取り上げられません。望まない妊娠をして苦しむ女性は「自業自得」という感じで見られてしまう。
三島 その子の向こう側には妊娠させた男性がいるはずなのに、幽霊みたいに名前も影も形も出てこないですよね。幸せな妊娠、出産ならいいけど、望んでいないのに妊娠したり、結婚していても夫は望んでいるが妻は望んでいなかったり、というケースもあります。
夫婦関係が対等でなく、つらい月経困難症や更年期症状も、家庭では表に出せないという女性もいます。そういう家庭だと、子どもへの性教育もしづらいです。人口の半分は女性なんですけどね。

瀧波 最近SNS上で「男消し構文」という言葉が話題になりました。男性が犯罪をおこした時はニュースの見出しが「女子高生が夜道で襲われる 35歳無職逮捕」みたいになって、「男」という言葉が入らない。もし公平に書くなら、「男が性加害で、女子高生が被害」のはずなのに、「女子高生」というキャッチーな言葉が先にきて、男とか男性っていう言葉が絶妙に避けられる、という傾向を指しています。
アメリカのジャクソン・カッツ氏という教育家が10年以上前、プレゼンテーション動画の「テッド」で、この言語的な問題を指摘していて、私も2年前からXで取り上げています。
「ジョンがメアリーを殴った」という事象が社会的に紹介されるときに、「メアリーはジョンに殴られた」と置き換えられる。すると、本来問題なのはジョンなのに、メアリーに問題があるかのように印象づけられてしまう。
社会の関心は「そのときメアリーはどこにいたんですか」「メアリーは何をしていたんですか」「メアリーはどんな服を着ていたんですか」などに向き、いつの間にかジョンは話題にならなくなってしまう。特に若い女性に注目させることで、ネットではビューが伸びるという事情もあるのではないかという指摘もあります。
なぜ母親だけが責められるの?
三島 残念ながら男性中心だった社会、マスコミ、政治という背景があるのかもしれないですね。性教育の一環として「こういう記事の書き方、どう思いますか」と考えさせるのも一つだと思います。外国人の研修生が赤ちゃんを遺棄して逮捕された記事について、どう思いますか、と。なぜ相手の男性は出てこないの?と問いかけてみる。
瀧波 私の娘も女性が出産して遺棄したというニュースを見ると、小学生のころ、よく「赤ちゃんがかわいそう、母親なのになんでこんなひどいことをするんだろう」と言っていました。私がずっと「でもこれは『男はどこに行った?』って話でもあるよね」と言い続けていたので、娘も最近はテレビの前で「また母親だけが責められている。父親は?」と言っています。
こうした問題は見えづらかったのですが、最近、誰かが「男消し構文」って言葉を作って結構バズったことで、多くの人が気づくようになりました。

警備会社のホームページの記述。瀧波さんはXで、「男」が消えることで警戒心のない女性側にだけ責任があるように読める、と指摘した
三島 これから大人になっていく10代の若い子たちには考えてほしいですよね。今はネットやメディアなどでのツールもたくさんあり、自分で調べる行動力のある子も多いですね。
若者が抱える多様な健康課題や悩みに対して、看護師や医師が専門的で包括的なサポートを提供する「ユースクリニック」が最近、都内でも増えています。先進地の北欧を見習って、産婦人科や小児科のクリニックに併設されたり、自治体やNPO法人が運営したり、さまざまな形があるようです。日本女性財団など関連団体も一生懸命進めていますので、学生や生徒の駆け込み寺として広がるといいなと思います。
高校1年生の春~夏が一番危ない
瀧波 最近、
アンケートの話に戻ると、「性的同意を知っていますか」という質問には、みんな「知っている」と答えてくれました。
三島 今、大学の学生自治会で、性的同意について啓発する活動が広がっています。
本当は高校生にも啓発が広がるといいですね。一番危ないのは高校1年の春、夏ごろ。15、16歳ぐらい。ボーイフレンド、ガールフレンドをつくろうって頑張る子が増える時期です。

性教育をテーマに対談する瀧波ユカリさん(右)と三島みさ子医師
性交同意年齢は16歳からなので高校1年生。性交渉に対して「うん」と言うと、相手が大人でも同意を得たことになります。15歳だとだめなんですけど。よく考えてほしいですね。
海外では10代は社会で守られるべき存在だからと、年齢を引き上げる方向で議論がされています。アメリカも州によっては18歳のところもあります。個人的には、たとえ16歳になっても、やはり40、50代のおじさんが手を出すのは社会的地位や財力、知識は全然違う相手なので、犯罪だと思います。
瀧波 愛が本物なら待てるはず。
三島 「with セイシル」というサイトに、こういうことはDVだよ、という目安を示すスケーラー「デートDVチェッカー」も掲載されています。フランスではトイレや公共機関に張ってあるそうです。夫婦関係でも同じで、「いやだ」というのに避妊してもらえなかったというのはDVに該当します。
瀧波 学校でも家庭でも、親子でももっと学ばないと、ですね。

ホンネで学ぶ性のこと 瀧波ユカリが聞く性教育講座
【第3回】望まない妊娠は自業自得?「男消し構文」に潜むもの(このページ)
プロフィール
◇瀧波ユカリ 漫画家、エッセイスト。1980年、北海道生まれ。漫画の代表作に「わたしたちは無痛恋愛がしたい~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~」「モトカレマニア」「臨死!! 江古田ちゃん」など。母親の余命宣告からみとりまでを描いた「ありがとうって言えたなら」も話題に。東京すくすくの連載「しあわせ最前線」では、自身の子育て体験や家事分担など家族との日々で感じたことをイラストとエッセーでつづる。夫と中学生の娘と3人暮らし。
◇三島みさ子 晴海ウィメンズクリニック院長。筑波大医学専門学群卒業後、米国カリフォルニア大SanDiego校Cancer Center留学。東大病院、都立駒込病院、虎の門病院など勤務。前河北総合病院産婦人科部長。日本産科婦人科学会専門医・指導医。
関連リンク
・若者の「性の悩み」に応じる街の保健室「ユースクリニック」 対面相談のハードル下げるのに必要なことは?(東京新聞デジタル)
・男女共同参画センターの一覧(男女共同参画局のサイト)
・性犯罪・性暴力とは(男女共同参画局のサイト)
・デートDVチェッカー(TENGAヘルスケアの運営する性教育お役立ちプラットフォーム「withセイシル」)
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