習志野市立小学校のいじめでなぜ2度の調査 学校や市教委、市の対策委員会も「理解の欠如」「判断の誤り」があったと指摘

保母哲 (2025年9月5日付 東京新聞朝刊)
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習志野市いじめ問題再調査委員会の再調査報告書(公表版)

 千葉県習志野市の市立小学校で5年前に起きた「いじめ重大事態」を巡り、市の第三者機関である「いじめ問題対策委員会」(委員5人)が報告書を取りまとめた。ところが、別の委員による「いじめ問題再調査委員会」(委員5人)が再び調査する事態となり、再調査報告書の「公表版」が8月、市ホームページ(HP)に掲載された。再調査では担任教諭や学校、市教育委員会、さらには最初に調査した対策委員会の対応に「いじめ重大事態への知識・理解の欠如、対応に関する判断の誤り」があったなどと断じた。一体、何が起きていたのか-。

いじめ重大事態

いじめ防止対策推進法では、児童生徒の心身や財産に重大な被害が生じたり、欠席日数が相当期間(おおむね30日)に及んだりした場合、「いじめ重大事態」と定義している。

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母親からの訴え、まともに受け止めず

 再調査報告書は「再調査の実施内容」「問題点に対する評価」など7項目からなり48ページ。公表版は市HPの、いじめ問題再調査委員会のページに8月21日、掲載され、個人情報などの部分が黒塗りされている。同報告書の概要は以下の通り。

 市内の小学校で、5年生(当時)女子へのいじめが始まったのは、2020年8月末ごろで、2学期の開始ごろから。他の児童によるいじめの中身は再調査報告書で不明だが、被害児童は「出席停止(体調不良)」として欠席するようになった。

 このため母親が同年9月、「いじめられている」と学校に報告。翌21年1月には両親が校長と面談し、担任教諭の不適切対応などを説明した。被害児童の欠席日数が30日を超え、母親は2月に「いじめ重大事態」だと申し入れた。

 教育委員会は10月、いじめ問題対策委員会に、この問題について諮問。翌22年10月、報告書を取りまとめた。教育長はその報告書を翌23年2月、市長に提出。市長は、被害児童の保護者が出した「報告書に対する知見」などを踏まえて再調査することにし、別の委員でつくるいじめ問題再調査委員会に同年8月、対策委員会報告書の検証について諮問した。今年4月に再調査報告書が取りまとめられている。

担任や学校が法律と異なる基準で評価

 被害児童がいじめに遭っていると母親から報告があっても、担任教諭は「心身の苦痛を訴えているにもかかわらず、被害児童の受け止めの問題と捉えていた」。校長は「トラブルと捉える」など、「学校として具体的な対応等が協議されることはなかった」。

 担任や学校などが法律(いじめ防止対策推進法)の定義とは異なる独自の基準で評価していたとし、「教員としての基本的知識・能力に欠ける、不適切な対応であったといわざるを得ない」と批判。市教育委員会に対しても「担当者はその問題性を全く理解しておらず、その状況は深刻」とした。

 この問題を調査した、最初のいじめ問題対策委員会の問題点も複数指摘した。

 同委員会の事務局である市教委の担当部署では、職員の役割分担の問題や記録の破棄があり、議事録も作られていないことなどを挙げ、「関係職員のいじめ法制度の理解が欠如しており、法令違反の誤った手続きがなされた」。

 さらに同委員会では「第三者性に疑義のある委員があった」とし、会合の大半は「会議の定足数を満たない回が大半だった」と問題視した。

再調査委員会が提示した再発防止策は

 再調査報告書では、いじめ防止対策推進法が制定されても「学校現場(教育委員会も含めて)は、まだ追いついていない現状が明らかになった」とし、再発防止策として以下に取り組むよう求めた。

【基本的ないじめ法制度に対する理解の醸成】

 「いじめ防止等のための基本的な方針」「いじめ重大事態の調査に関するガイドライン」など、学校や教育委員会が正しい知識を持つことが大前提。研修の実施や、関連法規を参照できるよう手元に常備することが望ましい。

【実践を可能にする体制づくり】

 被害児童に関係する出来事を時系列で記入する表の作成や情報共有を。外部の専門家の活用、担任教諭以外にSOSを発信できるように-などとした。

調査する第三者委員会】

 委員会の事務局である教育委員会職員の適切な配置や、中立性・公平性のある委員を選定。

【記録の扱い】

 いじめ問題対策委員会では議事録が作成されていなかった。記録も破棄されており、ガイドラインにあるよう最低限5年間保存するよう内規で定めるべきだ。

小熊市教育長 法制度の認識が甘かった

 習志野市いじめ問題再調査委員会・再調査報告書への見解などを、小熊隆教育長に聞いた。小熊教育長は学校や教育委員会に「法令や制度への甘い認識があった」「児童や親御さんにおわびし、反省しなければいけない」と述べるとともに、教委の体制を改めることも明らかにした。
顔写真

小熊隆・習志野市教育長

ー再調査報告書の受け止めを。

 私自身、学校の教員から教育長になっている。いじめは絶対に起きてはならず、仮に起きた場合、きちんと明らかにしながら対応し、児童らが少しでも早く通常の学校生活に戻れるようにすることが当たり前のことだと思っている。(今回)こういう事態を招いてしまい、(被害児童の)親御さんや児童におわびするとともに、教委として大いに反省しなければいけない。

何が問題だったのか。

 学校や教委の担当者の、法令や制度への認識が甘かった。きちんと理解していなかった。親御さんや児童に寄り添った対応をしていれば、違った方向性になったのではないか。そこに一歩踏み込めなかった、と反省している。教委としても組織の体(てい)はつくっていたが、きちんと機能する形になっていたかというと、ある意味、担当者に任せてしまっている部分が大きかったのかなと考えている。

今後、どこを改めるのか。

 (いじめ問題などを)担当する部署をもう少し細分化し、しっかり対応できるようにすべきだと考えている。市長と相談しながら、新たな組織をつくっていきたい。学校に対応する部署だけでなく、(事態に応じて)新たなチームをつくるなど、しっかりと対応できる組織にしたい。

いじめ防止対策推進法

 2013年に制定・施行された。「児童生徒が他の児童生徒との人間関係(インターネットを通じたものも含む)で苦痛を感じればいじめ」と定義。基本的施策やいじめ重大事態への対処などを盛った。

 学校が講ずべき措置としては、(1)いじめの事実確認と設置者(自治体)への結果報告(2)いじめを受けた児童生徒、その保護者への支援(3)いじめを行った児童生徒への指導、その保護者への助言-などを定めた。

いじめの解消

 いじめ行為がやんでいる状態が相当期間(目安は3カ月)継続し、被害児童が心身の苦痛を感じていないこと、の二つの要件を満たす必要がある。謝罪により解消とはならないとされる。

元記事:東京新聞デジタル 2025年9月5日に加筆

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