妊娠したら知っておきたい給付金・支援制度と、これからのライフデザイン【2025年最新・前編】

お話を伺ったこども家庭庁の加藤晴香さん(写真左から)、齋藤綾子さん、大野久さんと浅野有紀・東京すくすく編集長(写真右)
長官官房参事官(総合政策担当)付 少子化対策室 参事官補佐 加藤 晴香(かとう はるか)さん

成育局成育環境課課長補佐 大野 久(おおの ひさし)さん

成育局母子保健課母子保健指導専門官 (併)妊娠出産包括支援専門官 齋藤 綾子(さいとう あやこ)さん

聞き手:東京すくすく編集長 浅野有紀
2024年から2026年に広がる公的支援の全体像 児童手当や修学支援が拡充
浅野 2024年度から2026年度までの3年間を集中取組期間とした支援強化の方向性を教えてください。
加藤 少子化の流れを反転させるには、社会全体で子育て世帯を支えることが欠かせません。こうした考えのもと、2023年12月に「こども未来戦略」を策定し、2024年度から2026年度までを集中取組期間として、「こども・子育て支援加速化プラン」の着実な実施を進めています。2025年度はプラン全体の8割強が本格稼働しています。プランは4つの柱で構成されています。
- 若い世代の所得向上に向けた取り組みと経済的支援の強化
- すべての子ども、子育て世帯への支援
- 共働き・共育ての推進
- 子ども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革
すでに取り組みがスタートしているものでは、児童手当の抜本的拡充(※1)や高等教育の修学支援新制度の対象の拡充(※2)など、ご存じの方も多いのではないでしょうか。この他にも、2025年度は数多くの支援策がスタートしているので、ぜひ、下記MAPやガイドをご覧いただければと思います。
※1 所得制限を撤廃、高校生年代まで延長、第3子以降は3万円に増額
※2 多子世帯(扶養する子どもが3人以上いる世帯)や私立の理工農系の学部等に通う学生等の中間層への支援を拡大
【関連リンク】こども未来戦略 加速化プラン の詳細はこちら(こども家庭庁のサイトに飛びます)
政府が2020年に行った調査では、「自国はこどもを生み育てやすい国だと思うか」という問いに、フランス、ドイツではいずれも約8割が、スウェーデンでは9割以上が「そう思う」と回答しているのに対して、日本では「そう思わない」という回答が約6割を超えています。子ども・子育て支援の施策の充実とあわせて、社会意識の醸成を促していくことも大切だと考えています。そこで、プラン策定にあたっては、「若い世代の所得を増やす」「社会全体の構造・意識を変える」「全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する」という3つの理念を掲げました。若い世代の人たちが将来の展望が描けずにいることや、育児や家事の負担が女性に偏りがちになっていることを踏まえつつ、子どものライフステージにあわせた切れ目のない支援を目指しています。
浅野 切れ目のない支援という点では、妊娠から出産、その後も切れ目なく寄り添う支援に重点を置かれていますよね。
大野 核家族化が進んで、地域とのつながりも希薄になってきている現代では、孤立感や不安感を抱いている妊産婦や子育て家庭は少なくありません。すべての人が安心して出産や子育てができる環境整備は喫緊の課題です。そこでスタートしたのが、妊娠期から出産後の子育て期まで一貫して相談しやすい環境を提供する「妊婦等包括相談支援事業(伴走型相談支援)」と「妊婦のための支援給付」です。

妊娠がわかったら(初期〜中期)給付申請の面談をきっかけに困りごとの相談を
浅野 妊娠初期の公的サポートでは、新たな制度がどんどん始まっている印象があります。いま妊娠がわかった方は、具体的にはいつどんな支援を受けられるのでしょうか。
大野 「妊婦のための支援給付」は、妊娠初期に5万円、妊娠後期以降に妊娠している子どもの人数×5万円の経済的支援を行うものですが、この給付申請の際に面談を行い、不安や困りごとがあれば相談できるようにしました。
2つの制度を組み合わせることで気軽に相談できるきっかけを提供して必要な支援につなぎ、妊婦の産前産後の身体的・精神的なストレスや不安、経済的負担の軽減をめざしています。妊娠・出産は時期によって悩み事や必要な支援も変わってくると思います。ご自身がお住まいの自治体で受けられるサービスや制度についての情報提供を受けられる場でもあるので、ぜひこの面談を有効に活用していただけたらと思います。
妊娠後期〜出産直後まで ニーズに合わせた個別の支援
浅野 自分の経験を振り返っても、出産直前の時期は大きな不安を感じました。妊娠後期にはどんな支援が受けられるでしょうか?
大野 出産間近になり、産休制度を利用し始める時期になると、出産前の心の準備や赤ちゃんと生活する用品の準備が必要になります。果たして子どもを育てることができるだろうか、どのような手続きをすれば良いのか、夫は家事をうまくできるかなど具体的に考え始めます。このため、伴走型相談支援では自治体の子育てガイドを基に、出産時、産後の支援・必要な手続きを一緒に確認し、その家庭に応じた支援(産前・産後サービス利用や両親学級・育児体験教室)を一緒に検討・提案しています。
【関連リンク】妊婦のための支援給付のご案内(こども家庭庁のサイトに飛びます)
浅野 いわゆる高齢出産やひとり親家庭、障害のある方、外国籍の方など多様な背景をもつ妊婦さんも多いと思いますが、受けられるサポートはありますか?
大野 そうした多様な背景をもつ妊婦さんについても、各家庭や生活の状況に応じて一人一人丁寧にコンタクトを取って必要なサポートにつなぐのが伴走型相談支援です。例えば、高齢出産であれば面談を実施する保健師や助産師が専門的見地から説明や助言を行います。ひとり親や障害のある産婦の場合、産後に家事や育児の手伝いをしてくれるサービスがあります。外国籍の家庭については、両親学級や親子が集うひろばなどで交流の場を紹介します。急な用事や育児に疲れて子どもを預けたいときなどのサポートとして、ファミリー・サポートセンターやショートステイなどが利用できます。なお、市町村によって事業(サービス・サポート)の内容が異なる場合がありますので、お住まいの市町村にお尋ねください。
出産後〜1年まで 産後ケア事業の対象を拡大
浅野 出産後のお母さんと赤ちゃんを支援する制度にはどんなものがありますか。
齋藤 出産後1年以内のお母さんと赤ちゃんを対象に、心身のケアや育児のサポートなどを提供し、産後も安心して子育てができる支援体制の確保を目的とした「産後ケア事業」があります。具体的には、助産師等の看護職が中心となり、お母さんへの身体的ケア、適切な授乳が実施できるためのケア、心理的ケア、育児の手技についての指導や相談等を行っています。
「産後ケア事業」は自治体の努力義務ではありますが、2024年度においては、9割以上に当たる1,644市町村で実施されています。また、以前は、産後ケア事業を利用できる期間は「出生後4カ月以内」でしたが、2021年度より「出生後1年以内」に延長し、さらに、対象者については「産後に心身の不調又は育児不安等がある者」「その他、特に支援が必要と認められる者」としていたところ、2023年度から「産後ケアを必要とする者」に改め、産後ケア事業について誰もが等しく受けられるサービスであることを明確にしました。
産後ケア事業の実施方法としては下記の3つがあります。
- 病院・助産所などのベッドなどを活用して宿泊を行う宿泊型
- 来所した利用者に対して個別や集団などで支援を行う通所型
- 助産師などが、利用者の自宅に赴いてケアを行う訪問型
それぞれ自治体から委託を受けた病院や診療所、助産所等で実施されていますが、自治体によって条件や内容が異なるので、まずはご自身がお住まいの自治体のホームページを確認してみてください。
【関連リンク】
産後ケア事業の具体的な内容はこちらの動画から(こども家庭庁「産後ケア事業」紹介動画)
健やか親子21妊娠・出産・子育て期の健康に関する情報サイト(こども家庭庁)

連載後編では「ライフデザイン」についてお聞きします(10月初旬公開予定)。
取材後記
4年前、長女を妊娠中の頃を振り返ると「無事に産むことがゴール」で、生まれてからどれだけ大変なのかは全く想像していませんでした。産前産後にどんな支援があるのか調べることもなく、行政の窓口も、母子手帳の受け取り以外に訪ねることはありませんでした。
いざ子育てに不安があった時、助けてくれる人とつながっておくために、10万円の給付申請をきっかけにでも職員と顔見知りになっておくことは、とても大切だと感じました。
私の場合は、産院にいる間に脳出血で倒れたため、新生児育児は1週間だけ。両親が長女を育ててくれたので、出産で傷ついた体で新生児と向き合うつらさをほとんど経験していません。かつて取材で出会った母親は、初めての育児の大変さについて「まだ痛む体を動かすのがやっとで、支援を調べる余力はなかった」と教えてくれました。
妊娠が分かったら、いざという時に頼れる先や使える制度など、産前産後に備えてパートナーと一緒に調べて共有しておくのはいかがでしょうか。奮闘するみなさんが周囲に支えられ、温かく子育てのスタート期を迎えられますように。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい







