悩めることって幸せ〈清水健さんの子育て日記〉75

(2025年12月17日付 東京新聞朝刊)
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中学校での講演会。生徒一人ひとりの言葉と、真正面から向き合う

清水健さんの子育て日記

話したい時に話せる場所を

 講演会が終わった後、「個人的なことなんですが、少しだけお時間いいですか?」と、1人の男性が声をかけてくださった。「今、僕はがんなんです。子どもがいます。清水さんのお子さんと同じ小学生です」

 僕に話すことで何かが解決するわけではない。僕自身、気の利いた言葉を返せるわけでもない。それでも男性は目に涙をためて「うちの子も少年野球をしていて、今日は野球教室に行っているんですよ!」と話してくれました。

 病気と向き合わざるを得ない。ご本人、ご家族にしか分からない思いがある。苦しいし、不安だし、怖くなるときもあるはずです。でも子どもの前では強い父親でもいたい。周りの温かい言葉に救われることもある。でも、やっぱり当事者にしか分からないこともあるに違いない。

 僕に何が言えるのだろう。「頑張りましょうね」と、あえて言葉をかけさせてもらいました。もう十分に、十分すぎるほど頑張っているのは分かっています。でも…。

 講演会でマイクを持たせてもらっている意味を、いつも考えます。もっといい言葉はないかと探す自分がいます。でも「話したい時に話せる場所」を、この日に一つでもつくれたのなら、それだけで十分なのかもしれません。

子育てはまだまだこれから

 中学校の全校生徒が対象の講演会。質疑応答の時間に、1人の生徒が質問してくれました。「清水さんは、悲しみをどう乗り越えましたか」。全校生徒の前で声を出すのは勇気がいったと思う。「乗り越える必要はあるのかな?」と尋ねると、「私なら無理だと思うから」と答えてくれた。

 それでいい。無理でいい。もしかしたら、友だちや先生、家族にも言えないことがあったのかもしれない。近くにいる人だからこそ言えないことを、ここで話せた。それだけで十分だと思った。

 来年、息子は小学6年生。「息子さんは何歳になりましたか?」と聞いてくださる方がいます。「6年生です!」「早いですね!」。早かったのか、長かったのか。自分でもよく分からない。

 ただ一つ言えるのは、子育てはまだまだこれからだということ。「勉強しよう」と声をかけると不機嫌になる息子。なぜ勉強しなくちゃいけないのか。皆さんなら、どう答えますか。勉強した方がいい。それはそうなんだと思う。でも、「なぜ」なんだろう(笑)。こんなふうに悩めることって幸せなんだと思います。今年のラスト、駆け抜けていきましょう。そして来年またお会いしましょう。

清水健(しみず・けん)

 フリーアナウンサー。11歳の長男誕生後に妻を乳がんで亡くし、シングルファーザーに。

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