「男はパンツを、女はパンを」から30年 両手がパンツとパンで塞がっている〈瀧波ユカリ しあわせ最前線〉22

瀧波ユカリ しあわせ最前線

連帯するために手をつなげない

 「男はパンツを自分で洗え。女はパンを自分で買え」。この格言は、女性学研究者の田嶋陽子さんによるものだ。性別役割分業をよしとせず、男も家事をして女も稼ぐことが当たり前の社会になれば、私たちはより自由になれる。そんな力強いメッセージは1990年代のテレビの電波に乗って、全国津々浦々のお茶の間に届いていた。当時10代前半だった私も、ブラウン管の中で男性論者を相手に一歩も引かず戦う「田嶋陽子」を、固唾(かたず)をのんで見つめていた。

 その田嶋さんと、先日ネット番組で共演する機会を得た。田嶋さんの歩みを振り返りながら、今の時代について語り合う企画だ。「男はパンツを、女はパンを」の映像が流れた後、私はこんなことを言った。「今、女の人は自分で働いて稼ぐようになりました。でも、未だに家事の多くを担ってもいる。右手にパン、左手にパンツで両手がふさがっていて、連帯するために手をつなげない。手が足りないんです」

 田嶋さんは「そんなことになってるのね」と少し意外そうに受け取ったあと「でも最近は、自転車で子どもの送り迎えをする父親たちの姿を頻繁に見かけて、時代の変化を感じているよ」と語ってくれた。確かに、それも事実なのだ。30年前と比べれば、男性たちはだいぶ家事を手がけるようになった。しかし、それでも追いつかないほどに、子育て世代には時間もお金も全然足りない。

イラスト:私たちのパンツ(家事)とパン(稼ぎ)の話

仕事も家庭も重すぎて死んでしまう

 マスコミで働く知人の女性は、こう漏らした。「出産すると出世コースから外されて、補助的な部署に回される。いわゆるマミートラック。でも、それでいいと受け入れている女性も多い。そんな彼女たちを私は責められない。だって仕事も家庭も全部引き受けたら、重すぎて死んでしまうから」

 子どもの教育サポートの水準も、物価も上がる一方で、多くの女性はもう持ち切れないところまで来ている。男性の手も、徐々にパンとパンツで塞がりつつある。それが現状だ。

 田嶋さんのメッセージは、確実に社会を前に進めた。そして今、その先の問題に私たちは直面している。「パン」は高くて共稼ぎでも足りず、「パンツ」のバリエーションは増える一方。だれが、どうして、私たちにこんなにも多くを背負わせるのか。「働いて働いて」の先にあるものは、もう見えているというのに。

 せめて今年は、そんなことを友人たちやパートナーと語り合う時間をつくりたい。パンとパンツをそっと置いて、あたたかいお茶でも飲みながら。

【前回はこちら】リビング学習の成果を答え合わせしてみたら

【これまでの連載一覧はこちら】〈瀧波ユカリ しあわせ最前線〉

写真 瀧波ユカリさん

瀧波ユカリさん(木口慎子撮影)

瀧波ユカリ(たきなみ・ゆかり)

 漫画家、エッセイスト。1980年、北海道生まれ。漫画の代表作に「私たちは無痛恋愛がしたい~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~」「モトカレマニア」「臨死!! 江古田ちゃん」など。母親の余命宣告からみとりまでを描いた「ありがとうって言えたなら」も話題に。本連載「しあわせ最前線」では、自身の子育て体験や家事分担など家族との日々で感じたことをイラストとエッセーでつづります。夫と中学生の娘と3人暮らし。

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