【妊娠・出産サポーターズ】赤ちゃん専門の小児科医「新生児科医」 小さな命を最前線で支え、家族のはじまりを見守る

東京すくすく編集チーム

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赤ちゃんを専門に診る医師がいることをご存じでしょうか。妊娠期に頼れる専門職や支援者を紹介する【妊娠出産サポーターズ】第3回は、小児科医の中でも、赤ちゃんに特化した医療を専門とする「新生児科医」です。

今回、お話を伺ったのは新生児科医の今西洋介先生。実は、周産期医療をテーマとした漫画『コウノドリ』(講談社)に登場する新生児科医「今橋貴之先生」のモデルとして取材協力を務めている医師です。そんな今西先生に、妊娠期から始まる赤ちゃんと妊婦さんへのサポートなど、詳しくお聞きしました。

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お話を伺った新生児科医の今西洋介先生

新生児科医とは

胎児期から赤ちゃんに携わり、生まれてまもない赤ちゃんを診たり、NICU(新生児集中治療管理室)や新生児回復室(GCU)での診断・治療、退院後の長期的な発育・発達のフォローアップを行う専門家。日本ではおよそ1300人で、正式には「日本周産期・新生児医学会新生児専門医」と呼ばれる。

「最も安全にお産ができる国」を支えて

―新生児科医とは、どのような医師ですか。

今西先生 小児科医は赤ちゃんから思春期くらいまでの幅広い年齢層の子どもを診ます。小児科医の中には、心臓などの循環器を専門とする小児科医や、アレルギーを専門とする小児科医など、さまざまな専門分野を持つ医師がいますが、赤ちゃんを専門に診るのが新生児科医です。

―日本の新生児医療は世界でもトップ水準といわれていますが、特にどのようなところが優れていますか。

今西先生 世界では妊娠や出産に伴い命を失う女性が依然として少なくない国や地域もあるのが現状ですが、日本は妊婦さんも生まれてくる赤ちゃんも命を落とすことが極めて少ないので、「世界で最も安全にお産ができる国」と言われています。

写真 新生児

日本の新生児死亡率は、世界最低水準を長年にわたって維持していて、この背景には、ほかの国に比べて日本は妊産婦の死亡率が最も低いということが挙げられます(※1)。

また、世界の他の国では妊娠22~23週の赤ちゃんを蘇生するのは困難だとされていた中、日本では1980~90年代に新生児科医たちが積極的に蘇生を行ってきました。そのようなことから、他国と比べて日本では妊娠22~23週の赤ちゃんの生存率は2倍くらい高いとされています。

医療の分野ではアメリカが学会の中心となることが多いのですが、新生児医療は日本が中心で世界をリードしています。国際的な新生児医療の学会において、日本の新生児科医が意見を求められる場面が多くあり、光栄に思います。

NICUを退院した家族の長期サポートも

―新生児科医は、妊婦さんとどのように関わりますか。

今西先生 妊娠22週から出生後7日未満を「周産期」と呼びます。この期間は産婦人科医や新生児科医、麻酔科医などの専門医に加えて、看護師や助産師、臨床心理士、遺伝カウンセラーといった多くの医療スタッフがチームで妊婦さんを支えます。僕ら新生児科医も特に帝王切開での分娩や吸引・鉗子分娩といったケースでは、積極的に出産現場に立ち会っています。

また、近年の胎児診断の進歩により、事前の準備が可能になりました。異常の疑いがある際は、産婦人科医らと「出生前カンファレンス」を重ねて情報を共有します。検討した内容は、新生児科医の視点から妊婦さんやご家族へ丁寧にお伝えし、出産への不安を少しでも減らせるよう努めています。

写真 妊婦のお腹とマタニティマーク

―新生児医療に長く携わる中で、親御さんからはどのような疑問や不安の声がありましたか。

今西先生 病気や障害をもって生まれてきた赤ちゃんに対して、ご自身が妊娠期間中にしたことが原因なのではないか、という自責の声を聞くことが少なからずあります。新生児科医は赤ちゃんだけでなく、そうしたお母さんやパートナーなどご家族に寄り添って、赤ちゃんがNICUに入院していても絆が深められるようにするなどサポートしていきます。

例えば、700グラムくらいで生まれた赤ちゃんだと、まだ自分の力ではおっぱいを吸うことができないんです。そこで、お母さんには綿棒に母乳を染みこませて赤ちゃんの口の中に運ぶというお世話を、生後すぐから行ってもらいます。

早産や低出生体重、先天的な病気を持つ赤ちゃんなど、NICUに入院した赤ちゃんを、退院後、新生児科医が定期的に診ていくケースもあります。小学校高学年くらいまでフォローすることがあり、お子さんと同時に、お子さんを支えるご家族のサポートも行っていきます。

RSウイルスは赤ちゃんの命に関わる

―早産や低出生体重、先天的な病気を持つ赤ちゃんなどを守る取り組みの1つとして、RSウイルス感染症の重症化を防ぐ注射薬の接種が保険適用で行われていますが、もっと広く、健康な赤ちゃんも守るための対策が待ち望まれてきました。そのような中で、2026年4月から妊婦さんを対象としたRSウイルス母子免疫ワクチンの定期接種化が始まりました。このワクチンの接種を、先生は早くから推奨されてきましたね。

今西先生 RSウイルス感染症は「かぜの一種」といわれることもありますが、赤ちゃんの命に関わる病気です。特に重症化しやすいと言われる生後6カ月未満の子は、母乳やミルクが唯一の栄養源です。鼻が詰まって鼻呼吸ができない状態になると、飲むときに窒息する危険があるだけでなく、満足に飲めないことで一気に脱水や低栄養に陥ります。この「飲めなくなる」という状態が、入院治療を必要とする重症化への引き金になります。

RSウイルス母子免疫ワクチンを接種すると、お母さんの抗体が胎盤を通して赤ちゃんに届きます。そのため、RSウイルス感染症によって入院治療につながりやすい難しい期間における重症化を予防する効果は、生後3カ月以内で約80%、生後6カ月以内で約70%とされています(※2)。つまり、RSウイルス感染症にかかった場合でも、軽症で済むことが期待できます。

赤ちゃんと母親の手の写真

なお、RSウイルス母子免疫ワクチンは、2024年11月時点において世界40カ国以上で承認されています(※3)。過去には早産への影響が懸念された時期もありましたが、現在までの大規模な調査ではそのリスクは確認されておらず、安全性が確かめられています(※3)。

妊娠中のソーシャルサポートが大切

―新生児医療に携わりながら、今西先生は子育てに関わる研究や妊婦さんを対象とした研究も行っていますが、具体的にどのような研究なのでしょうか。

今西先生 母親と子どもの健康を守るためには、周囲とのつながりや支えがとても大切です。一方で、妊娠中に受けた社会的な支援が、その後の子どもの発達にどのような影響を与えるのかについては、はっきりとわかっていませんでした。

そこで、妊娠中の母親がどれだけ社会的な支援を受けていたかが、子どもが3歳になったときの発達の遅れと関係しているかを調べるため、日本で10万組の親子を対象とした大規模な疫学調査「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を基に研究を行いました。その結果、「妊娠中のソーシャルサポートが高い母親ほど、3歳時点での子どもの発達がよい」ということがわかっています(※4)。

ソーシャルサポートとは、当事者がほかの人から受ける心の支えや助けをいいます。例えば、困ったときに「気持ちを聞いてくれる友人がいる」「信頼して相談できる人がいる」「手助けしてくれる人がいる」といったことです。妊婦さんの周囲に友達でも、ご近所さんでも、困ったときに支えてくれる人がいると、子どもの発達によい影響をもたらすと考えられます。

子育て支援センターなどで妊婦さん向けの交流会に参加するとったこともいいかもしれませんが、社交的ではない方にとっては、初対面の人に話しかけて友達を作るというのは、なかなかハードルが高いことだと思うんです。そういった方は、元々交流のあったご自身のネットワークのなかから信頼できる人がいるといいのかと思います。また、必要に応じて公的な機関などで専門職に頼り、適切な支援を受けることも大切です。

―最後に、妊婦さんやそのパートナーへのメッセージをお聞かせください。

今西先生 私自身も三姉妹の父親として子育てをしていますが、育児に対する不安がない人なんて1人もいないと思っています。特に、初めてのお子さんを妊娠して出産する場合、“お母さん 1年生”ですよね。誰だって不安を抱えるのは当然です。子ども一人ひとり、発育や性格などが異なるので、育児って「これが正解」というのが言い切れないものです。だからこそ、お子さんと親御さんで最適な育児のあり方をそれぞれ見つけ、試行錯誤しながら育児を楽しんでもらえたらと思います。

医学的な面で気になることや不安なことがある場合は、ご自身やご家族で抱え込まず、医療機関などで専門家に相談してください。

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東京大学のロボット研究者の方々と写る今西先生(左から2人目)。母子保健にロボット研究を活用できないか、意見交換したという

※1 国立社会保障・人口問題研究所『人口統計資料集(2024年版)』
※2 Kampmann B, et al. Bivalent Prefusion F Vaccine in Pregnancy to Prevent RSV Illness in Infants. N Engl J Med. 2023;388:1451-1464.
※3 World Health Organization(WHO): Safety of maternal vaccination against RSV
※4 Imanishi Y, et al. Environ Health Prev Med 2024;29:18.

取材後記

お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんや、生まれたばかりの赤ちゃんは、言葉を発することはできません。でも、赤ちゃんが示したささいなサインや変化を見逃さないようにして、適切なケアを整える新生児科医という専門家がいます。赤ちゃんだけでなく、妊婦さんや家族の疑問や不安に寄り添ってくれる存在でもあります。

妊娠中から新生児科医の役割を知っておくことで、赤ちゃんとの新しい生活を前向きに迎えられるのではないでしょうか。

また、SNSなどインターネットでは、妊娠や出産、育児に関するさまざまな情報が流れていますが、中には誤った内容もあります。不安なときほど、医学的根拠に基づいた専門家の情報を参考にすると安心につながります。

妊婦さんと赤ちゃんのそばには、専門家による確かな支えがあることをぜひ覚えておいてください。

今西洋介(いまにし・ようすけ)

新生児科医・小児科医。日本小児科学会専門医。日本周産期・新生児医学会新生児専門医。医学博士(公衆衛生学)。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。小児公衆衛生学者。富山大学医学部卒業後、石川県立中央病院、大阪母子医療センターなどで新生児医療に従事。著書は『医師が本当に伝えたい 12歳までの育児の真実 親子の身体と心を守るエビデンス』(日経BP)、『性教育で子どもを性犯罪から守る本』(法研)ほか多数。「ふらいと先生のニュースレター」でエビデンスに基づく育児情報をわかりやすく配信している。

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