戦争の日常を少年の目で 『神に守られた島』作家・中脇初枝さん

出田阿生 (2018年8月26日付 東京新聞朝刊)

『神に守られた島』

「こういう戦争もあった」

 ♪ちばりよ(がんばれ)牛よ さったー(砂糖を)なみらしゅんどー(なめさせてあげるよ) ふぃよー ふぃよー

 「この牛の歌は、島のお年寄りが教えてくれました。研究者も知らなかった。その方が私に話してくださったのは偶然の奇跡。書かなければ永遠にこの世から消えてしまうと思って」

 中脇初枝さんは、そう語る。舞台は奄美群島の南西部、沖縄から60キロほど北にある沖永良部島(おきのえらぶじま)。サトウキビを搾る車を回す牛に、島の女の子、カミが歌いかける。主人公はカミを好きでたまらない男の子、マチジョー。物語は戦争末期から終戦直後の小さな島の世界を、少年の目を通して描き出す。

 片仮名の不思議な名前は、悪霊よけで子どもにつける「わらびなー」(童名)。島言葉や島唄があちこちに登場し、ルビが振られる。読み始めは戸惑うが、やがて独特の優しい響きに、別世界へと引き込まれる。

 「こういう戦争もあったということを知らせたくて、書きました」。昔話を集めるライフワークで、沖永良部島を訪れたのは5年前。以来、毎年通い、大勢のお年寄りにひたすら話を聞いた。知らなかった戦争の姿がそこにはあった。

子どもの視点で進む物語

 その事実を随所に盛り込んだ物語は、子どもの視点で日常が淡々と進んでいく。手足がもげた日本兵の遺体が海辺に流れ着く。特攻機で島に不時着した若い特攻隊員は、本当は家族のために死にたくなかったが、上官に「熱望する」ことを強いられた、と明かす。

 「戦争が終わった」と島に駐留する守備隊が発表したのは、終戦の13日後。1億玉砕は幻で、家族の戦死は無駄だった。「最後までだましてほしかった」と姉は泣き崩れた。マチジョーは、他人の責任にして済ませれば、また何度でも騙(だま)される-と思う。「だまされはじめているのかもしれない。今もう、すでに」。少年の言葉は、今の私たちにも突き刺さる。

 だが本作は「悲惨な戦争話」ではない。初恋のときめき、子ども同士の友情…。どんな大人もかつて子どもだったことを実感する。

 米軍占領下となった島を脱出し、マチジョー一家は本土に向かう。今後どうなるのか。中脇さんは「続編を書き始めました。それで徹夜明けです」と笑った。

 同じ出版社から写真集『神の島のうた』も同時刊行。講談社・1512円。 

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