消えてしまいたいとき、きみの中の湖が力をくれる 絵本「橋の上で」湯本香樹実さんが込めた思い
「いま、ここから川にとびこんだら―」
夕方、橋の上で川を見ている「ぼく」。本を盗んだと疑われたり、上着をごみ箱に捨てられたりして、悲しげな表情を浮かべている。そんなぼくに「雪柄のセーターを着たおじさん」が語りかける。
湯本さんも小学生の頃、学校で先生にからかわれ、橋の上から川を見て「ここから消えてしまいたい」という悲しい気持ちにとらわれたことがあるという。
「水面に映る自分の姿を見て、もう一人の自分が川の中にいるように感じて、閉ざされた心に風穴があき、ふとわれに返りました」と振り返る。
誰も助けてくれない、と思えるときでも
物語で「おじさん」は「みずうみを見たことある?」とぼくに問う。そして「その水は暗い地底の水路をとおって、きみのもとへやってくる」と伝える。
湯本さん自身も「みずうみ」を思い描いて、苦しい気持ちを乗り越えてきたという。「人は誰もが湖を持っていて、その湖は『きみ』だけのもの。きみとつながっていて、きみの中には新鮮な水が流れ込んでいます」
湯本さんは「誰も助けてくれないと孤絶に思える時でも、自分の中に必ず自分を助ける力の『泉』があります。自分を信頼してほしい」との思いを込めた。湧き出る泉の源とは―。「他者が与えてくれた言葉。そこから育った想像力です」
立ち止まって、自分の心をのぞき込んで
今回の作品で絵を描いたのは酒井駒子さん。2人のタッグは2008年刊行の絵本「くまとやまねこ」(河出書房新社)以来。
講談社出版文化賞絵本賞を受賞してロングセラーとなったこの絵本は、仲良しの「ことり」を亡くして家に閉じこもったくまが外に出て、やまねこと出会う物語。作品を読んだ人たちからの手紙や感想を通じて、湯本さんは「くまが一歩を踏み出す力はどこからやってきたのか」と考え続け、10年以上を経て今作品に結実した。
自らの経験を重ね、課題と向き合った新作「橋の上で」。湯本さんは「雪柄のセーターを着たおじさんは、大人になった自分。子どもの頃の自分に語りかけるような気持ちで書きました」と話す。悲しみを抱えた子どもたちには「ちょっと立ち止まって、自分の心をゆっくり、のぞき込んでみてほしい」と願う。1650円。
湯本香樹実(ゆもと・かずみ)
1959年、東京都生まれ。小説「夏の庭―The Friends―」で日本児童文学者協会新人賞、児童文芸新人賞。十数カ国で翻訳された。他にも「ポプラの秋」「岸辺の旅」などの作品がある。
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