「本音を言ってる時だけ泣いてるよ」心の扉を開けてくれたのは、少年院の教官だった〈「非行少女」だった私ー聞かれなかった声・下〉

出田阿生 (2023年5月22日付 東京新聞朝刊)
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映画「REAL VOICE」の撮影で、監督の山本昌子さん(左)とモニターをのぞくしちゃさん=山本監督提供

 家庭内で虐待され、16歳で埼玉に逃げて来た主婦しちゃさん(22)=仮名。未成年が派遣型風俗店で働く「援デリ」の仕事で体も心も壊れかけた。やめる決心をして最後に取らされた客は-。

「援デリ」最後の客に監禁され

 「うるせえ黙ってろ!」。待ち合わせ場所で客の男が運転する車に乗せられたしちゃさんが行き先を聞くと、怒鳴り声が返ってきた。男にニット帽で目隠しされた。スマホで位置情報を送ろうとしていたのがばれて殴られ、監禁された。

 埼玉県警に保護されたのは翌日。被害届を出すよう促されたが「生きて帰れただけで十分です」と断った。「過去に性被害にあった時、警察で根掘り葉掘り聞かれてつらかった。店のヤクザも怖かった」

 児童相談所の一時保護所に移され「気付いたら少年鑑別所にいた」。売春などを理由に、家裁の審判で「ぐ犯」(将来犯罪の恐れがある)とされ、少年院収容が決まった。少年法に基づく保護処分だが、手錠をかけられた。「ついに犯罪者に仕立て上げられた」。何度も出したSOSを大人は信じてくれなかった。もう誰も信じられない。「助けて」と言う気力も失せた。

人生で初めて「人間扱いされた」

 女子少年院での生活は、18歳までの1年2カ月。「ウソをついたり、逆にわざといい子ぶったりしていた」。ただ、担任の法務教官が「信じられないくらい、しつこかった」。きれいな30代くらいの女性だった。退所が近づいたある日、教官に「本当は強がってるんじゃないの?」と言われ、急に涙があふれた。押し殺していた思いを、泣きじゃくりながら話した。

 教官はその後も「大丈夫?」と頻繁に声をかけてきた。「うざい」「一人にして」と言っても「嫌われてもいい」とあきらめない。「自分で気付いてないと思うけど、本音を言ってる時だけ泣いてるよ。だから私はあなたの涙が見たい」

 家庭環境について丁寧に聞いてもらった。人生で初めて「人間扱いされた」と感じた。少年院は「罰を受けるところ」ではなかった。「自分でも開けられなくなっていた心の扉を、先生がこじ開けてくれた」

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少年院時代の「恩師」から届いた手紙(一部画像を加工しています)

出所後に結婚 ブログで発信も

 出所後、ルームシェア相手だった夫に告白して、結婚した。「同じような境遇の若者に、子どもを産むのが怖いと相談されることもある。虐待するかも、という不安や危険は分かる。でも自分は、もし虐待しそうになったら子どもを施設に預ける選択肢があることを知っている」と語る。

 今春、虐待などに苦しんだ若者が思いを語るドキュメンタリー映画「REAL VOICE」(ネットで無料公開中)に出演した。養護施設で育った監督の山本昌子さん(29)に声をかけられた。カメラの前で「一人の人間として子どもと向き合ってほしい」と語りかけた。「しちゃ。」というハンドルネームでブログの発信も始めた。「非行」や「不良」には背景があること、自分のような子どもの存在を認識してほしいこと。あの法務教官のように、しつこく向き合ってくれる大人がいてくれたら-。そう願っている。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年5月22日

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