南青山に児童相談所「おしゃれな街に似合わない」住民反発…これでいいの?

山田祐一郎 (2018年10月21日付 東京新聞朝刊)
 東京都港区が南青山に建設を予定する児童相談所(児相)の計画が揺れている。一帯は高級ブランド店が軒を連ねる都内の一等地。後を絶たない児童虐待などに対応する児相の必要性は高まっているが、一部住民が「おしゃれな街に似合わない」などと反発しているのだ。専門家は「児相の役割をしっかり住民に説明するべきだ」と指摘する。 

施設の建設が予定されている空き地=東京都港区南青山で、本社ヘリ「おおづる」から(中西祥子撮影)

「ファッションの発信地に違和感」「非行少年を預かるとは」

 「世界的に有名なファッションの情報発信地の青山に児相は違和感がある」「非行の少年を預かる施設とは聞いていなかった。不安だ」。今月14日、南青山にある区立青南(せいなん)小学校で区が開催した説明会では、批判的な意見が相次いだ。

 児童虐待が急増する中、2016年に児童福祉法が改正され、東京23区が新たに児相を設置できるようになった。これを受けて港区は昨年2月、「子ども家庭総合支援センター(仮称)」の建設を発表。児相とともに、虐待を受けた児童や非行少年を緊急的に保護する一時保護所などの機能を併せ持つ。

「子ども家庭総合支援センター(仮称)」のイメージ=港区提供

農水省の宿舎跡地、周辺は海外高級ブランド店やカフェ

 区は2021年4月の開設を目指し、工事費約32億円を見込む。既に農林水産省の宿舎があった国有地約3200平方メートルを約72億円で購入。現在は広大な空き地になっている。周辺には海外の高級ブランド店やカフェなどが多く、買い物客らでにぎわう。

 昨年12月の住民向け説明会の参加者は7人だった。ところが今年夏、建設計画を知った住民らが区に説明を要求。区が今月12日と14日、あらためて説明会を開くと、2日間で延べ170人以上の住民らが参加し、それぞれ2時間近くに及んだ。

 反対住民でつくる「青山の未来を考える会」の佐藤昌俊副会長(63)は「他の区有地を検討したかも不明。南青山が適地と言われても納得できない。説明がなく突然、計画を知った住民がほとんどだ」と話す。

専門家「虐待は誰にでも起こりうる。街中にこそ児相が必要」

 区の担当者は「施設には広大な土地が必要で、他に適地がなかった」と強調した上で「青山だから児相をつくってはいけないとは考えていない。地域の理解を得られるよう説明を続けたい」と理解を求める。

 愛育クリニック(港区)小児精神保健科の小平雅基部長は児童福祉法改正の際、行政向けに児相設置のためのマニュアルを取りまとめた。今回の騒動について「虐待は誰にでも起こり得る問題で、街中にこそ児相が必要だ。問題がある児童や家庭を地域から分離、孤立させてはいけない。行政は、児相の役割や実態をしっかり住民に説明するべきだ」と訴える。

 

大阪では計画撤回も… 検討進める東京各区から不安の声 

 周辺住民から思わぬ反発を招き、東京都港区が対応に苦慮している南青山の児童相談所(児相)建設計画。東京23区では、練馬区をのぞく各区で検討が進む。今のところ港区以外で住民に目立った動きはないが、大阪市では反対運動で計画撤回に追い込まれたケースもある。

世田谷、荒川、江戸川区は2020年度に開設予定

 以前の児童福祉法は都道府県と政令市に児相の設置を義務づけ、希望する中核市には設置を認めていたが、2016年の改正で東京特別区も設置可能となった。いち早く法改正に呼応した世田谷、荒川、江戸川の3区は20年度開設を予定。荒川区の担当者は「説明会を開いたが、特に反発はなかった。地域の協力は必須。求められれば今後も丁寧に説明する」と話す。

写真 改修し、2020年に世田谷区の児童相談所として開設を目指す区立総合福祉センター=東京都世田谷区松原で

改修し、2020年に世田谷区の児童相談所として開設を目指す区立総合福祉センター=東京都世田谷区松原で

 板橋区は、21年度中に区立小跡地での開設を目指し、昨年3月から地域住民への説明を続けてきた。担当者は「非行少年の一時保護などの役割にも理解を得られ、受け入れられている」と自負する。

 一方、これから用地の検討に入る区では、南青山で児相が「迷惑施設」と見なされる現実を突きつけられ、不安の声も漏れる。「児相や一時保護所は、24時間対応で警察の出入りもあり、住宅地につくるのは難しい。用地が見つかっても地域の理解が得られるのか」と目黒区の担当者。別の区の担当者も「必ずしも歓迎されるわけではない施設。慎重に用地選びを進める」と気を引き締める。

必要と分かっていても、近くとなると「なぜここなのか」

 大阪市では16年、同市北区の高層マンション1~3階の市有スペースを改修して児相の新設を計画したが、マンション住民の反対で断念した。

 元大阪市中央児童相談所長でNPO法人「児童虐待防止協会」の津崎哲郎理事長の経験では、一時保護された非行少年が近隣に悪影響を及ぼすようなことはまずないという。それでも大阪市の計画が頓挫したのは「非行少年が入る可能性がある一時保護所を設置することに抵抗を感じる住民は多かった」とみる。

 港区のように計画決定後の反対ではなく、構想段階で地域の理解を得られずにつぶれるケースも多いという。津崎氏は「児相は必要だとは分かるが、自分の近くにできるとなると『なぜここなのか』と受け入れられない。本音では児相は迷惑施設。土地がないのに設置する方針が先行する都心では、これからも同様の問題が起きるのではないか」と危惧する。

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  • 匿名 says:

    南青山の住民は表面の飾り立ては 得意でも人間として1番大切な心が荒んだ人が多いのでしょうか。非行少年?幼い頃から歪んだ大人と接触してしまったせい。そして施設どうこう難癖つける大人の方が非行大人では?

      
  • 匿名 says:

    児童相談所の建設より、相談所の仕事に問題がある。児童虐待を救えないのに、作る必要ないだろ。児童相談所の解体を望む。こんな、施設あっても、だめ。児童相談所が別の組織にかわるなら賛成。警察の中に代わる組織をつくるべき。住民が反対して、児童相談所がつくれない。だから、虐待の子供を救えないはまちがい、相談所に子供を護ろうという、気持がない、児童相談所のせいで、何人の子供が死んでる。そこを考えるべき。

      
  • 匿名 says:

    NIMBYという言葉を思い出した。NIMBYとは、英語: “Not In My Back Yard”の略語で、「施設の必要性は認めるが、自らの居住地域には建てないでくれ」と主張する住民たちや、その態度を指す言葉。訳すと、「忌避施設」「迷惑施設」 「嫌悪施設」という感じか?南青山の反対派の住民たちもこのカテゴリーに入るのかしら?

      
  • 匿名 says:

    ほぼどのような公共施設も、かならず一定程度の反対意見があると思います。好かれる施設と一体型にするのはどうでしょうか。私なら図書館が近くにほしいです。でも、図書館がホームレスの憩いの場となっているのを見ると、図書館もだめかもしれません。ピンポイントの解決策があるとよいですね

      
  • 匿名 says:

    ここの住民は、自分たちのことばかり、青山だろうとどこだろうと、困っている子ども達がいるならそれを優先して欲しい。これからの未来ある子ども達が先、、欲深いジジババはあとで良い。
    それにしても情けない住人だ❗️

      
  • 匿名 says:

    南青山在住者、子育て中のママです。南青山に建設大賛成!

    目黒女児虐待の報道依頼、悲しい気持ちがずっと離れず、以前は辛すぎてなるべく考えないようにしていた虐待について深く考えるようになりました。

    この施設は虐待に限った事だけを対象としているのではないかと思いますが、助けを必要としている人を地域で守っていくことが大事だと思います。

    虐待等はどうしても暗い問題にとらえられて影の方に置かれてしまう感じがします。

    だからこそ明るいイメージの南青山に建設する必要性があるのではないでしょうか。

    「地域皆で子どもを育てていく。」南青山から日本全国に発信していけたら素晴らしいと思います。

      
  • 匿名 says:

    何故この場所なのかーという意見は、感情的に理解できます。が、それは、一時の感情だと考えます。児童虐待や子供の非行は、どんな家庭にも起こ起こり得ることで、当該の地域には起こらないとは約束されていません。反対される気持ちは感情的には理解できますが、反対される方々は、ご自分の気持ちだけだと思います。

      

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