議論大詰めの共同親権に根強い慎重論 虐待する親は対象外でも…物証を示せなかったら? ひとり親の相談続々「係争が増える」
法制審部会 来年1月取りまとめへ
離婚後の共同親権導入を検討する法制審議会(法相の諮問機関)の部会は2024年1月の取りまとめに向け、詰めの議論を進めている。12月19日に公表された要綱案の原案には、共同親権にすると配偶者間の暴力や虐待で子の利益を害する恐れがある場合は単独親権とする方向性が示された。政府は通常国会に制度を導入するための民法改正案の提出を見込むが、部会には根強い慎重論があり、ひとり親らの間でも懸念は消えていない。
裁判所が「単独親権」が適切と判断する事例のイメージ
共同親権にした場合に
- 虐待など、父または母が子の心身に害悪を及ぼす恐れ
- DVなど、父母の一方が他方から身体への暴力やその他心身に有害な影響を及ぼす言動を受ける恐れ
などの事情がある時
※要綱案の原案に基づく
二宮氏「ビジネスパートナーのように」
離婚後共同親権は、離婚で子と疎遠になった親らの間で導入を望む声が高まり、2011年の民法改正時に衆参両院の付帯決議に「検討」が明記された。法務省幹部は「離婚後も、協力して子育てする父母が増える可能性がある」と期待される利点を話す。
導入を求めてきた立命館大の二宮周平名誉教授(家族法)は、離婚後の面会交流や養育費の支払いが十分でない背景に、単独親権しか認めていない現行制度があると指摘。「子が父母双方に養育される権利を保障する必要がある」と話す。
さらに「父母は未練や執着、反発から抜け出し、子のために協力するビジネスパートナーのような関係を築くべきだ」と強調。離婚する父母に「親ガイダンス」の受講を義務付けるなど支援体制の充実も求める。
距離を置きたい側には重い「負の側面」
一方、元配偶者と距離を置きたいと考えるひとり親らにとって、共同親権の導入は負の側面が大きい。
「子を巡る係争が増え、生活がもっときつくなる」。共同親権に関する都内の集会に参加した女性は涙声でこう語った。
ささいなことで激高する夫は妊娠中、子に障害があると分かると「おまえの責任だ」と女性を責めてきた。別居後、夫が申し立ててきた面会交流調停にかかる弁護士費用や、精神的な苦痛からうつを発症したことで必要となった通院費など、100万円超の負担がかかったという。
約150の個人・団体が参加する「『離婚後共同親権』から子どもを守る実行委員会」によると、同様の相談が離婚トラブルの経験者からやまない。虐待などをする親は共同親権の対象外とされても、被害者が物証を示せなかった場合に共同親権が適用され、元配偶者との関係を続けざるを得なくなるケースが想定されるからだ。
部会で「安全・安心を守る規定がない」
関係者によると、19日の法制審部会では、原案の内容におおむね賛同する声が相次いだ。一方で、複数の委員から「実際に子を世話する親の安全・安心を守る規定がない」などと慎重な意見もあった。
お茶の水女子大の戒能(かいのう)民江名誉教授、ひとり親支援のNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事長の2委員は、原案への意見書を提出した。共同親権では父母の紛争が続いて子に悪影響が出ると危惧し、「共同親権は父母の真摯(しんし)な合意がある場合に限定するべきだ」と主張。現段階での要綱案の採決は「拙速だ」として、来年1月以降も議論を継続するよう求めた。
親権とは
子の身の回りの世話や教育、住む場所の決定、財産管理などを行う親の権利と義務。現行民法は、婚姻中の父母は共同で、離婚後はいずれか一方が行使すると定めている。話し合いで離婚する父母には、どちらが主に子の世話をするかや、面会交流、養育費の分担などについて、子の利益を最優先に決めるよう求めている。
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