6年前の私も孤独だったから…葛飾区の1児の母が「レンタルばぁば」で一緒に子育て

 葛飾区に「レンタルばぁば」を名乗る女性がいる。小学4年の長女を育てる辻野麻美さん(49)。子育てで頼れる人がいない親からの急なSOSに駆けつけるサービスを始めて、9月で1年。一時預かりやベビーシッター代の補助など、葛飾区の子育て支援が充実する中、「明日預かってほしいけれど、どこも空いてない!」というピンチを救っている。
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児童館で「ばぁば」中の辻野さん

息が詰まった2人きりの孤育て

 対象は、保育園や幼稚園に通っていない0~3歳児。1番人気は、子どもを預かり、保護者の自宅か近くの児童館で遊ぶプランだ。このほか、提携サロンでのマッサージ付きや、親子のお出かけに付き添うプランがある。

 お出かけの付き添いは、辻野さん自身が、初めて乳児を連れて電車に乗る時「泣いたらどうしよう」と不安でいっぱいだったから。両親は区内にいるが、重い病気で頼れなかった。初めての子育て。夜中はぎゃんぎゃん泣いて寝ないし、台所に水を飲みに行くことすら遮られる。イライラして怒鳴り、手を上げたこともあった。

 ベビーシッターや保育園の一時預かりなど子育て支援はあるが、「専業主婦なのに…という罪悪感があり、予約の争奪戦に加わる気になれなかった。少しの間、児童館で子どもと遊んでくれる、そのくらいでいい」と、利用することはなかった。

 長女が3歳になる前、どうしても逃げ出したくて、両親に3時間だけ預けた。久しぶりに駅まで1人で歩き、電車でスマホを見る、一つ一つに「感動した」。ショッピングモールをぶらぶらして帰ると、長女が「すごくかわいく見えた」。自分の時間が全くないことで、こんなにも追い詰められていたのか、と気付き「いつか気軽に人を頼れるサービスをつくりたい」と思い描いた。

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赤ちゃんもばぁばと遊ぶのが楽しそう

長女のひと言に背中を押されて 

 幼稚園に入り、自由な時間ができると、都の子育て支援員の養成研修を受けた。保育補助として保育所で働き、子どもとの接し方を学んだ。それでも支援事業を始めることに二の足を踏んでいると、当時小1の長女に「ママの夢は何?」と聞かれ、奮い立った。

 いきなり「私をレンタルします」と掲げても怪しまれるだけ。まずは居場所事業をと、産前に働いてためた貯金で平屋を借りてDIYし、2022年1月に「ママの休憩室アリビオ」をオープンした。辻野さんが子どもを見守るかたわら、保護者は普段食べられない温かい食事を取ったり、昼寝したりする。コンセプトに共感したママによるサロン「aturi(アチュリ)」のマッサージも受けられる。

 利用者の中には、施術中に赤ちゃんが少し泣いただけで、服を着ていないのに飛びだそうとする母親や、子どもと少し離れた場所で、コーヒーを飲みながら「うちの子、すごくかわいく見える」と話す人もいた。「子どもと少し離れるって本当に大事なこと。お母さんたちに知ってもらいたい」と辻野さん。ベビーシッターや一時預かりは事前予約が必要だが、預けたくなるかどうかはその日になってみないと分からない。アリビオの申し込みは、当日でもDM1本でOKにした。

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モデルハウスでくつろぐ親子ら

拠点は1人運営、手軽さを前面に

 アリビオの運営費は、区や都からの補助金は得られず、辻野さんの持ち出し。スタッフも雇っていたため、だんだんと平屋の家賃が払えなくなり、昨年7月にやむなく閉じた。同年9月からは、モデルハウスのレンタルスペースに拠点を移して1人でアリビオを続けながら、念願の「レンタルばぁば」を始めた。

 ネーミングには、近くに本当のばぁばが住んでいたら、遠慮せずに頼めるのと同じように、気軽さを感じてもらいたいという思いを込めた。週3日で利用する人もいたが、今は週1日程度に落ち着いているので「いつでも連絡してほしい」という。

 区内で育休中の会社員女性(35)は、3歳長女と9カ月月の長男の子育て中。長男がばぁばと児童館で遊ぶ間に、アチュリでマッサージを受けるプランをよく利用する。託児付きマッサージはあっても、子どもと同じ空間のサロンが多いと言い、「一緒だと子どもが気になってリラックスしにくいので、遊びに連れ出してくれるのがありがたい」と話す。

 女性は遠方の両親を頼れず、子育て支援を積極的に利用してやりくりする。ただ、ほとんどのサービスは事前登録が必要でルールも複雑。産後は余裕がなくなるため、妊娠中に登録を済ませておくことを勧める。

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赤ちゃんをママに引き渡す辻野さん(左)

子育て支援はルールがいろいろ 

 ベビーシッターは、利用したい日に空いているシッターを自分で探して申し込む仕組み。手間がかかり「慣れるまで大変だった」という。ファミリー・サポート・センターも、「サポート会員が少なく、必ず利用できるか分からない」と聞き、登録すら諦めた。実際、葛飾区のファミサポ登録者は1433人に対し、サポート会員は136人。運営する区社会福祉協議会によると、居住地のマッチングができず、サポート会員を紹介できないケースもあるという。

 一時預かりをしてもらえる近隣の保育園も探したが、対象年齢を満たしていなかったり、満たしていても利用したい前月に申し込みで抽選という手間から、申し込みをしたことはない。

 比べて、DM1本で「空いてますか?」と頼れるばぁばは手軽だ。アリビオで顔なじみになってから預けるので、女性は「子どもも麻美さんになついてくれて、本当に安心」と話す。ほかの利用者からも、「ひとりぼっちの育児にならずに済んだ」「一緒に育ててくれる人がいてくれてよかった」との声が寄せられている。

 辻野さんは、「いつも気持ちが張り詰めた子育てをしている方は多い。今なら私も子どもを少しくらい泣かせておいても大丈夫と思えるけれど、子育て当時はできなかった。ママの休憩が当たり前になるように、これからも細々とニーズに応えていきたい」と話している。

ママの休憩室アリビオ

葛飾区役所近くのセイズモデルハウスで、毎月第1月曜と第3木曜に開催。母親同士でランチを楽しんだり、子どもを預けてシアタールームとして利用することもできる。レンタルばぁばは2時間2400円、または3時間3600円。対応地域は、葛飾区内。空き状況はインスタグラムで発信している。

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