〈坂本美雨さんの子育て日記〉83・サバ美の旅立ち 最後の一滴まで命を使い切って
半年間の蜜月を残してくれた
夏の終わりに、大きな大きな別れがあった。
14年間連れ添った猫のサバ美がついに旅立ったのだ。今は、ふさぎ込んでいるわけではないのだけど、空洞が大きいせいで糸の切れた凧(たこ)のように浮遊している。笑うこともできるし、忙しく次から次へと頭の中は埋まっていくけれど、なんだかツルツルと上滑りしているようで、心の深いところは揺さぶられない。芯の部分はとても静かで、家にいるとその空洞にのみ込まれてしまう気がする。だから、ふらふらとずっと外に出かけている。
サバ美の旅立ちは本当に立派だった。2月にてんかんが起きて生死をさまよい、ミラクル復活を遂げてからも、肝臓がんと腎臓と心臓の機能の低下と付き合ってきた。多くの薬を飲みながら、半年もの介護の時間をくれた。通院や寝不足や誰かが必ず家にいるようにするなど、大変なこともあったはずなのに、思い返すとすべてが甘い色で包まれている。蜜月という言葉がぴったりで、最後に私たちは心から支え合っていた。そんなサービスタイムをくれながら、サバ美はしんどい体で限界まで生き尽くした。
娘と一緒に育ってきた軌跡
最期の瞬間に立ち会うことだけを願ってこの夏は過ごしていた。最後の日、昼間は自分で水を飲めたのだけど、夕方にはもう飲み込む力が残っていなかったので、そうか、もうすぐなんだ…と悟った。友人たちが来る前に、娘はサバ美を抱いて大声で泣いてお別れをした。そして家族と数人の友人たちと腕の中のサバ美に優しく話しかけながら過ごした。
夜、23時が近づいた頃、サバ美は嘔吐(おうと)するような息を出し、その後ハァハァ、と絞り出すような呼吸があり、無意識に私は息を合わせながら「ありがとう、大丈夫だよ、安心して、愛してる、大好き」と耳元で何度も繰り返した。そして、息が止まった。指の先で感じていた心臓のトクトクもしばらくして止まった。最後の一滴まで命を使い切る姿は猛烈な輝きだった。
ふいに涙があふれるたびに、娘が拭いにきてくれる。「スマ~イル!」と言って。姉妹のように過ごしてきたサバ美と娘。写真を振り返り、少しずつサイズが変わっていく猫と人間の姉妹の様子を眺めていると、月並みだけれど、その幸せの大きさに気づいてなかったと痛感する。その戻れなさに圧倒される。こんなに愛(いと)おしい時間を享受してきたのだ。今、空洞ができていて当たり前だ。いつか、いつのまにか埋まっているのだろうか。その時にはサバ美と一つになっているだろうか。
坂本美雨(さかもと・みう)
ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。
なるほど!
グッときた
もやもや...
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知りたい
今年の夏、我が家も大きな別れがありました。ハムスターのジェリーとのお別れです。日に日に小さくなっていく身体と日に日に強く感じる命の深さ。
最期は大好きだった胸の中で息を引き取りました。美雨さんとサバ美ちゃんと娘さんの日常から、いつも温かい気持ちをいただいていました。
たくさんの愛を感じながらサバ美ちゃんは過ごせたことと思います。
我が家でも昨年12月に最愛のたまちゃんを亡くしました。白血病でステロイドを毎日飲ませ、時々体調を崩したりの日々でした。
貧血に良いと考え輸血をしたのが逆効果で、輸血以後食べられなくなりました。
美雨さんはサバ美さんの臨終に立ち会われたのですが、私もたまちゃんの息が止まったのをそばで見ました。ひざの上に乗せ頭を叩いても再び息をすることはなかったです。
考えてみれば、こんなたまちゃんと一緒に闘病してきた日々が懐かしい。美雨さんの言うように色鮮やかな時代だったのかも知れない。
ウチの子供は兄妹です。今では両方とも独立しました。大昔、妹の方が子猫を拾ってきて、子供を産んで、それ以来多数の猫と一緒にずっと暮らしてます。子供も猫好きで良く一緒に寝たりしてました。
日曜美術館、見てます。美雨さんのアートに対する深い洞察、なるほどと思います。
たまちゃんのことを記録した私のブログがあります(下記)。「定年のおっちゃんの日常」
https://ameblo.jp/sunday70k/entry-12863788104.html
悲しいお別れですが、愛に満ちた時間だった事が伺えます。
サバちゃん、なんて幸せな猫生だったのでしょう。″大好き愛してる″に包まれてサバちゃんは最後の一滴まで命を使い切ったのですね。
美雨さんの表現、言葉の紡ぎ方大好きです。
サバちゃん、美しい姿をたくさん見せてくれてありがとう‼︎今までたくさんの癒しをもらいました。あなたの命にありがとう。
サバ美さんのご冥福をお祈りします。我が家の😹ベルも8月にご飯を食べなくなり22才と高齢なので、乳飲み子の時からの思い出を彼女に話しかけていました。
ところが何か口に入るものをと、医院で試しに頂いた『液状ご飯』を口元にあてると喜んでなめはじめたのです。
よろよろはしていますが、次第にご飯も少し食べるようになり家の中を動いてくれています。
サバ美さんのお見送りのこと、ベルにも遠くない日に送る日が来ると思うと胸がいっぱいになります。
病気持ちで近くの学校で保護された目もまだ開かなかった小さな子が22年も一緒にいてくれたことをありがたく思っています。
ご家族の想いははかりしれませんがどうぞお心お大切に。
我が家もここ3年の間に3匹のニャンズを見送りました。
それぞれ最後までトイレに行き綺麗に立派に生き切り改めてニャンコは凄いと思いました。それぞれ私に寄り添ってくれるように腕の中でたび立ちました。
坂本さんのお嬢さんとサバ美の写真と文章を読みながらお二人と同じ思いに又涙してます。サバ美ちゃんのご冥福をお祈りします。
飼い猫と重なり…涙が出ました。
それ以上に愛情伝わる文章と生き様の捉え方に感動しました。
いつかは亡くなる命。
しかし、捉え方一つで残された人は前向きに生きていける。